“仕事? そう言えば、何をしたいんだろう?
アーシアと一緒に世界を旅するつもりなの、あたしは?
だけどそれじゃあたしって、犬のイワンの代わりじゃない!
そんなの、だめよ”
“そうよ。あたしは、アーシアの妹になるの。
だから、あんな田舎に居ちゃだめなの。アーシアの妹にふさわしい、新しい女性にならなくちゃ”
英会話の勉強ということが、単なるの口実のように思えてきた。
田舎から抜け出すための口実のように、思えてきた。
そしてついには恐ろしい思い-疑念が浮かんできた。
“アーシアの妹? 本気でアーシアはわたしのことを?”。
“遠い異国におけるお遊びだったとしたら……”。
“そんなことない! あのときのアーシアは本気だったわ”。
強い気持ちを持つのよと言い聞かせてはみるものの、いまの己を考えると情けなさが全身を駆け巡ってしまう。
「悪かった、悪かった。年端の行かぬ娘さんに、そんな先のことまで考える余裕はないかもしれんな。
勉強をしたい! その気持ちだけで、十分だろう。
おい! この娘さんに、ジュースでも持ってきてくれ」
肩をふるわせながらぐっと涙を飲み込んでいる小夜子がいじらしくなり、大人げない追い込み方をしたと、らしからぬ思いに囚われる武蔵だった。
「社長! 言ってきました。その娘の仕事は、もう終わりです。いつ帰っても、良いんだからね」
戻った五平が、小夜子に優しく声をかけた。
「おう、分かった。梅子! この娘さんに、チップを渡してやってくれ。いゃ、いい。五平、札入れを出せゃ」
五平の札入れから、無造作に二三枚の紙幣を取り出すと、小夜子の手に握らせた。
「こ、こんなに沢山は」。逃げ腰になる小夜子に、武蔵は
「気にしなくていい。それより、お腹は空かないかな。寿司でも、つまみに行こうか。梅子、お前もどうだ?」と、畳み掛けた。
「あたしは、無理だよ。店がはねたら行くから、先に行ってて。
小夜子ちゃん、うんとご馳走になりなさい。
大丈夫! この社長はね、女癖は悪いけど、ネンネは相手にしないから。
梅子姉さんも、後で必ず行くから」
武蔵の意図を知る梅子は、不安げな表情を見せる小夜子に声をかけた。
「いいなあ、あたしも行きたーい!」。口を揃えて、他の女給たちが声を上げた。
「お前たちが来ると、店がうるさくてかなわん。
この次に、ご馳走してやる。今回は、梅子だけで良い。さっ、それじゃ出るか」
武蔵が立ち上がると同時に、珠子が小夜子の背を押した。
「きっと、ですよ。きっと、来てくださいよ」。すがるような表情で、小夜子は梅子を見た。
「分かってる、って。心配ないよ、小夜子ちゃん。社長は、優しいから。安心して、お任せなさい」
小夜子の肩を抱きながら、耳元に梅子が囁いた。
アーシアと一緒に世界を旅するつもりなの、あたしは?
だけどそれじゃあたしって、犬のイワンの代わりじゃない!
そんなの、だめよ”
“そうよ。あたしは、アーシアの妹になるの。
だから、あんな田舎に居ちゃだめなの。アーシアの妹にふさわしい、新しい女性にならなくちゃ”
英会話の勉強ということが、単なるの口実のように思えてきた。
田舎から抜け出すための口実のように、思えてきた。
そしてついには恐ろしい思い-疑念が浮かんできた。
“アーシアの妹? 本気でアーシアはわたしのことを?”。
“遠い異国におけるお遊びだったとしたら……”。
“そんなことない! あのときのアーシアは本気だったわ”。
強い気持ちを持つのよと言い聞かせてはみるものの、いまの己を考えると情けなさが全身を駆け巡ってしまう。
「悪かった、悪かった。年端の行かぬ娘さんに、そんな先のことまで考える余裕はないかもしれんな。
勉強をしたい! その気持ちだけで、十分だろう。
おい! この娘さんに、ジュースでも持ってきてくれ」
肩をふるわせながらぐっと涙を飲み込んでいる小夜子がいじらしくなり、大人げない追い込み方をしたと、らしからぬ思いに囚われる武蔵だった。
「社長! 言ってきました。その娘の仕事は、もう終わりです。いつ帰っても、良いんだからね」
戻った五平が、小夜子に優しく声をかけた。
「おう、分かった。梅子! この娘さんに、チップを渡してやってくれ。いゃ、いい。五平、札入れを出せゃ」
五平の札入れから、無造作に二三枚の紙幣を取り出すと、小夜子の手に握らせた。
「こ、こんなに沢山は」。逃げ腰になる小夜子に、武蔵は
「気にしなくていい。それより、お腹は空かないかな。寿司でも、つまみに行こうか。梅子、お前もどうだ?」と、畳み掛けた。
「あたしは、無理だよ。店がはねたら行くから、先に行ってて。
小夜子ちゃん、うんとご馳走になりなさい。
大丈夫! この社長はね、女癖は悪いけど、ネンネは相手にしないから。
梅子姉さんも、後で必ず行くから」
武蔵の意図を知る梅子は、不安げな表情を見せる小夜子に声をかけた。
「いいなあ、あたしも行きたーい!」。口を揃えて、他の女給たちが声を上げた。
「お前たちが来ると、店がうるさくてかなわん。
この次に、ご馳走してやる。今回は、梅子だけで良い。さっ、それじゃ出るか」
武蔵が立ち上がると同時に、珠子が小夜子の背を押した。
「きっと、ですよ。きっと、来てくださいよ」。すがるような表情で、小夜子は梅子を見た。
「分かってる、って。心配ないよ、小夜子ちゃん。社長は、優しいから。安心して、お任せなさい」
小夜子の肩を抱きながら、耳元に梅子が囁いた。
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