昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十一)の五と六

2011-10-30 16:54:24 | 小説


思いもかけぬ武蔵の言葉に、五平は我が耳を疑った。
慰安旅行の発案は武蔵であるのに、五平の進言だと、はっきり告げられたのだ。
然も、渋る武蔵を説得したかの如き言葉に、社員全員が五平に対し畏敬の念を抱いている。
武蔵に促されて、五平が立ち上がった折には、大広間が揺れるほどの拍手が沸きあがった。
「社長は、私の手柄の如くに言って下さったが、そんなことはない。
みんなの頑張りがあったから、こそだ。
社長は、利益を一人占めするような人じゃない。
頑張れば頑張っただけのことは、きっとしてくださる。
これからも一丸となって、社長に付いて行こうじゃないか。
と言うころで、乾杯しょう。
かんぱーい!」



二十人近い芸者たちは、武蔵の意向もあり社員の輪の中に、全て入っていた。
飲めや歌えのドンちゃん騒ぎの中、五平は武蔵の前に陣取った。
「社長!死ぬまで、ご奉公しますぜ。
今夜ほど、嬉しいことはないです。
こんなどうしょうもない男に対し、あれ程気を使って頂けるとは。
惚れました、いや、惚れ直しました。」
感涙に咽びながら、五平は武蔵に深々と頭を下げた。
「五平。止めろ、もう。頭を上げろ!」
「いや、頭を上げられません。
涙が、止まらんのです。
こんな、みっともない顔、社長に見せるわけにはいかんのです。」
「それじゃ、酒が飲めんだろうが。
どうだ、この床の間にとっくりを並べてみんか。
徳利で、埋め尽くそうじゃないか。」
「そうですな、飲み明かしますか。
どちらが先に飲みつぶれるか、一つ勝負しますか。」


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