昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十四)の六

2013-03-02 11:40:18 | 小説
(六)

昨夜のことだ。
屈託なく笑う武蔵に、小夜子は頬を膨らませる。

“どうしてなの? 不安に思ってないの? 
正三さんに気持ちが移るとは考えないの?”

「御手洗小夜子だ、と言えばいい。
ロビーに、佐伯正三が待っているはずだ。
少し話をして、それから食事しろ。
窓際の席を用意させておく。
ゆっくりと話をしていこい。」

「ホテルだなんて、何を考えているの。」
「食事のためさ。いつものステーキの店はだめだ。
あそこは、俺と小夜子の為だけの店だからな。」

今、対峙する二人。
約束の接吻から、早や三年ほどが経っている。

そして今、やっとの再会だ。
喜びに打ち震える正三に対し、小夜子の高ぶりは…穏やかなものだった。

「本当に申し訳ありませんでした。
すぐにも連絡をとりたかったのですが、連絡先が不明で……。

後から分かったのですが、手紙を隠されてしまっていまして。
それに入省と同時に特別班に配属されまして。

その部署と言うのが極秘事項を取り扱う部署で、外部との接触を一切禁じられました。
小夜子さんに連絡をとる術もなく、悶々とした日々を送っていました。

小夜子さん、あぁ小夜子さん、どんなにお会いしたかったことか。
でも小夜子さん、お元気そうでなによりです。」


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