昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十四)の七

2013-03-03 12:28:49 | 小説
(七)

連綿と言い訳を並べた後に、取って付けたように再会の挨拶を言う正三だ。
冷ややかな表情を浮かべて聞き入る小夜子を見るにつけ、口数の少なかった正三が饒舌となっていく。

「今日の小夜子さんは、一段とおきれいですね。
ベルボーイに案内されて来られた折は、別人かと思いました。
新進の女優さんかと、見紛うばかりでした。

アナスターシアは気の毒でした。
まさか自殺とは、思いもかけぬことで。

如何ほどの衝撃だったことか、推察するに余りあります。
でもお元気そうで何よりです。

その洋服は、最新モードですね。
やはり、ディオールのオートクチュールですか? 

確か、Hラインと思いますが。
小夜子さんならではのデザインだ。
お似合いです、本当に。」

知りうる限りのファッション用語を並べ立てる正三。
源之助に聞かされていた小夜子とは、まるで違う小夜子に動揺を隠せない正三だった。

そして、正三が思い描いていた小夜子ではなかった。
“変わってしまった。この女性は、小夜子さんではない。”

じっと黙したまま、正三の言を聞き続けた小夜子。
蝶ネクタイ姿の正三を目の当たりにして、三年と言う歳月が短いものではないことを知らされた。


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