昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十九) 久々のキャバレー

2014-06-02 21:01:31 | 小説
(三)

小夜子にとって久々のキャバレーは、懐かしいものだった。
知己の女給たちもそのまま残っていた。
特に梅子との再開が、小夜子にとって何よりだった。

「小夜子ちゃん、久しぶりね。何年になるかしら?」
「姉さんたち。そんなに経ってませんよ、まだ」

かつては憎々しげに思っていた女給たちが、懐かしげに小夜子を取り囲む。

「どう、元気してる? というのは、愚問かしらね」
「愚問も、愚問よ。飛ぶ鳥を落とす勢いの富士商会の社長夫人なんだからさ」
「お陰さまで。姉さんたちこそ、お元気そうで何よりです」

「元気はいいんだけどさ。あたしも、そろそろとうが立ってきたからね。
早いところ誰か見つけて、家庭に入らなくちゃね。
あんたもよ、鼻で笑ってなんかいるけどさ」

「あらあら、お生憎さま。あたしはね、そうね、一年の内にはお店を持てそうなの」
「えっ! ちょっと、嘘でしょ? 誰、誰、パトロンは?」

「失礼ねえ。自前と、銀行からの借り入れよ」
「それこそ、嘘でしょ? 銀行があたしたちなんか、相手にしてくれる筈もないでしょ。
ちょっと待って。まさかあなた…」

あきれ顔で、脇をつつく。
つつかれた女給は、小鼻を膨らませてふふんをと鼻を鳴らした。

「ふふ、そうよ。あの信用金庫の堅物さんよ。でもね、一回きりよ。
貯金、貯金よ。一念発起で、貯めてるのよ。
でね、この調子で行けば、一年以内には目標額に達しそうなの」

「ふうぅぅ、やるわねえ。ねえ。あたしもさ、これから貯金するからさ、仲間内に入れてよ
。あなたのお店で、使ってよ。ここもいつまでも居られるわけでもないしさ」


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