昭和の恋物語り

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大長編恋愛小説 【ふたまわり】(一)の4

2011-02-16 20:03:15 | 小説
元来、
便所における人間というものは
身に纏う衣を脱ぎ去りやすい。
本音をポロリと吐露したり、
いわゆる内緒話をしたりするものだ。
案外のことに、
機密事項等も漏らしたりし易い場所だった。
そして二人の掃除中にも関わらず、
普段二人の人間性を否定しているが為に、
別段気にとめることもない。
そしてそのことが、
二人に有益な情報を与え続けた。

敗色濃厚となった事実は、
一兵卒たちには伝えられなかった。
しかし二人は、
下士官達の話から終戦の日が近いことを知った。
そして連合軍の沖縄上陸を機に、
軍の上層部内に深刻な路線対立が起き始めたことを知った。
本土決戦という勇ましい作戦に対し、
名誉ある戦争終結を唱える声が日増しに高まっていること。
そして、
広島・長崎への原爆投下という悲惨な事実が、
軍上層部の本土決戦を鈍らせたこと。

そんな折りに、
とんでもない事実を知った。
噂としては兵士の中で流れていたことだが、
隠匿物質の存在を事実として知ったのだ。
下士官達の声を潜めた話から、
某寺に隠匿されたというのだ。
元々は、
本土決戦用に用意された武器弾薬そして食料やら日用品等だったのだが、
連隊上層部の個々人で分け合おうと話し合いが始められた、と。
「どうだい、五平。
俺達二人で掠め取ろうじゃないか。」
「そりゃぁ、
いい話だ。
しかし難しいでしょうに。」
「何ぁーに、
便所掃除の折に
『寺だってことらしい。
みんな、
狙ってるぞ・・』と、
俺達が小声で話せばいいのさ。
隠匿場所を、
きっと分散するに決まってる。
大量の物資は無理でも、
少量ずつに分散された物量なら、
何とかなるさ。」
「そりゃぁいい作戦だ。
すぐにも、
やりましょうゃ。」


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