(十二)
聞き覚えのある声に、
「ひよっとして、幸恵さん?」
と振り向いた。
「覚えていてくださったのですか?感激です!」
と、涙ぐむ幸恵だった。
「もちろんよ! お元気だったかしら?
今はどうなさってるの?
ごめんなさい、脱線してしまったわね。
初めはね、足長おじさんのつもりだったと思うわ。
女給さんたちにちやほやされてばかりの中で、憎まれ口を叩く小娘が珍しかったのよ、きっと。
だって、あたしなんかよりずっときれいな人、たくさん居るもの。
女給さんもそうだけど、銀座という町を歩いている女性って、みんな女優さんみたいにきれいな人ばかりだから。
あたしは、ほんとに運が良かったのよ。」
一見謙遜の態を見せる小夜子だが、その言外に、その表情には明らかに
“あたしだからなの、誰でもいいわけではないのよ!”と宣しているように見受けられた。
「そうね、週に一回かしら? いつもお店を早退させてくれて、食事の後にはお店に戻るみたい。
あたしは、そのまま帰宅したけれど。
ビーフステーキって、分かるかしら? 牛のお肉なんだけれど、こーんなに分厚いの。」
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