昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~(一) 

2014-09-10 11:17:05 | 時事問題
集会室に集まったのは、寮生全員だった。さらに、寮母も同席していた。

「そもそもの馴れ初めはですね」
「そんなのは、どうでもいい!」
「いや、馴れ初めから聞くべきだ!」

皆が口々に声を上げ始め、彼の声がかき消されてしまった。
と、寮母が立ち上がり、一喝した。

「あんたたち、静かにしなさい! 彼女が欲しいんでしょ! だったら、静かに聞きなさい」
静まり返った中、彼は頭をかきつつ、麗子との馴れ初めを話した。

「ナンセーンス! 人間より荷物が大事だなんて、許されることじゃなーい!」
「いいんだよ、それで。それだからこそ、彼女の気を引いたんだろうが」
「結果オーライ、で済まされることじゃないぜ」
「うるせえ! いちいち口を挟むなってんだ。集会じゃないんだ、イデオロギー論争なんか入れるな!」

佐久間の声が響いた。思わず彼も、体を硬直させた。

「馴れ初めは分かった。で、初詣に行ったんだよナ。それで、今日また、デートだな。
えぇっと、なんだ、その、Aか、BかCか、どこまで行ったんだ? 
そこのところを、正直に話してくれ」

みるみる彼の顔が、真っ赤になった。
少しの沈黙の後に、彼の目にうっすらと涙がにじみ出てきた。
それでも、絞り出すように声を出した。

「知らないんです、ボク。どう接していいのか、分かんないんです。
映画を観たんです、いや、映画館に入ったんです。
だけど、だけど、麗子さんが気になって、全然観てられないんです」

「映画館だってよ」
「暗い、よなあ、中は」
「おいたが、できるよな。くうぅぅ!」
そこかしこで囁き声が発せられた。

「しーっ!」
「静かにしろ!」
窘める声も、そこかしこから挙がった。


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