「お嬢さん、デートかい。で、何処に行くのかな?」
二人の会話を黙って聞いていたドライバーが、笑いながら運転席から声を掛けてきた。
「ごめんなさい。高島屋に行ってください」
「デパート? 何だい、買い物でもするの」
思いもかけぬ由香里の言葉だった。
「水着、買ったんじゃないの? てっきり、プールに行くと思ってたよ」
「勿論、プールには行くよ。でも、その前にデパートに行きたいの。ふふふ」
妖しく笑う由香里に、
「やれやれ。由香里ちゃんの買い物に、付き合うのか。まさか、下着売り場には行かないだろうな」
と、由香里の耳元に小声で囁いた。
「ククク。実は、そうなの。なーんて、嘘。ちょっと、今日の記念に。ナ・イ・シ・ョ、内緒」
小さく肩を揺らしながら、由香里は笑ってごまかした。
「由香里ー!」
エントランスに足を踏み入れた途端、中央の柱辺りから声が飛んできた。
「あらあ、麻由美」
彼をその場に残し、由香里は小走りで麻由美の元に近づいた。
一言二言会話を交わした後に、麻由美が彼に軽く会釈をしてきた。
"そうか、それでデパートか。やられたな、これは〝
正直のところ、気鬱な彼だった。
よりによって、バイト先だったデパートに来る羽目になるとは、思いも寄らぬことだった。
彼のことを知る社員に会うことは苦にならないが、唯一人、貴子には会いたくなかった。
時折貴子を思い出すこともあったが、遠い過去の事に思えていた彼だった。
しかし、今、貴子に対し、不実な態度を取ったことが胸に痛みを感じさせる。
もっとも、配送センターに居るであろう貴子に会うことは、万が一にも無い筈ではあった。
しかし、誰かが伝えるかもしれない。
一人で訪れたのならば、気にはならない。
しかし今日は由香里と共なのだ。
出来れば、このまま出たいと思った。
しかしそれでは、由香里が不満だろう。
思い余った彼は、隣のメガネ店でサングラスを買うことにした。
幸いなことに、由香里は麻由美と話し込んでいる。
由香里が彼に視線を移した折りに、「すぐ戻るよ」と、指で合図をして外に出た。
二人の会話を黙って聞いていたドライバーが、笑いながら運転席から声を掛けてきた。
「ごめんなさい。高島屋に行ってください」
「デパート? 何だい、買い物でもするの」
思いもかけぬ由香里の言葉だった。
「水着、買ったんじゃないの? てっきり、プールに行くと思ってたよ」
「勿論、プールには行くよ。でも、その前にデパートに行きたいの。ふふふ」
妖しく笑う由香里に、
「やれやれ。由香里ちゃんの買い物に、付き合うのか。まさか、下着売り場には行かないだろうな」
と、由香里の耳元に小声で囁いた。
「ククク。実は、そうなの。なーんて、嘘。ちょっと、今日の記念に。ナ・イ・シ・ョ、内緒」
小さく肩を揺らしながら、由香里は笑ってごまかした。
「由香里ー!」
エントランスに足を踏み入れた途端、中央の柱辺りから声が飛んできた。
「あらあ、麻由美」
彼をその場に残し、由香里は小走りで麻由美の元に近づいた。
一言二言会話を交わした後に、麻由美が彼に軽く会釈をしてきた。
"そうか、それでデパートか。やられたな、これは〝
正直のところ、気鬱な彼だった。
よりによって、バイト先だったデパートに来る羽目になるとは、思いも寄らぬことだった。
彼のことを知る社員に会うことは苦にならないが、唯一人、貴子には会いたくなかった。
時折貴子を思い出すこともあったが、遠い過去の事に思えていた彼だった。
しかし、今、貴子に対し、不実な態度を取ったことが胸に痛みを感じさせる。
もっとも、配送センターに居るであろう貴子に会うことは、万が一にも無い筈ではあった。
しかし、誰かが伝えるかもしれない。
一人で訪れたのならば、気にはならない。
しかし今日は由香里と共なのだ。
出来れば、このまま出たいと思った。
しかしそれでは、由香里が不満だろう。
思い余った彼は、隣のメガネ店でサングラスを買うことにした。
幸いなことに、由香里は麻由美と話し込んでいる。
由香里が彼に視線を移した折りに、「すぐ戻るよ」と、指で合図をして外に出た。
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