(五)テレビ
わたしに向かって投げかけたことばかと思い、身がまえるわたしだったけれども、新一の目はわたし見ていない。
テレビに視線は向いていたけれども、見ているようには感じられない。
そう、ブラウン管に映っている新一自身を見つめている、そんな風に感じた。
「おとなに分かるわけがない! そう主張するのなら、答える必要はない。
そもそもテレビに出るなど、言語道断だ。
文明社会を捨てて、大自然の中に戻るヒッピーなのに。
文明社会の最たるもののテレビに出るなど、だ。
明らかにギマンだ。
あいつはヒッピーじゃない! 単なるスネ男だ」
「ヒッピーはすでに人間失格なんだろ?
文明社会においては、生存の場はないんだろ?
だったら、ただだまって、大自然にかえればいいんだ。
トンボめがねをかけて、布袋を背にして、ゴム靴をひきずって。
もどきだ、もどきだよ! 淋しい、さびしいぞ、バカめが!」
だれに話しかける風でもなく、むろんわたしを意識していた風でもない。
やはり、新一自身にむけてのことだったのか。
自身に対するメッセージだったのか。
新一のまぶたが閉じられるその刹那、新一の目に憎悪の炎がもえているように感じた。
けれども次にあふれでた涙で、炎は消えてしまった。
しばらくつづいた沈黙のあと、こんどはわたしがことばを紡いだ。
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