手紙(二)
新一くん、元気ですか。
突然にこんな手紙が届いて、さぞかしびっくりしただろうね。
考えに考えたあげくのことなんだ。
きみにだけは、ぼくの気持ちを分かっていて欲しくて。
母さんに話しても、多分泣くだけだろうと思うんだ。
いや、本音を言えば、母さんには知られずにいたいと思う。
こんな弱いぼくだなんて、絶対に知られたくない。
お願いだ、新一くん。
母さんには内緒にしていて欲しい。
覚えているかい? もちろん覚えているよね、あのへび女のこと。
あの件で、唯一の親友だったきみを失ってしまったんだ。
きみのひと言はこたえたよ。
そんな風に考えていたなんて、ぼくにはほんとに思いもかけぬことだったから。
いちじはね、きみを憎んだりしたんだ。
きみ、なんて言ったか、覚えてる? 案外、覚えていないかもね。
「ぼく、帰る。こんなの、やっぱり変だよ」って、怒ったように言ったんだ。
そしてさっさとひとりで帰ってしまったんだぜ。
分かる? そのときのぼくの気持ち。
自分の馬鹿さかげんに腹を立てていたんだ。
冷静に考えれば、へび女なんて存在しないことぐらい、すぐに分かりそうなものなのに。
いや分かっていたのかも、案外に。
きみと別れる淋しさが、あんな行動を起こさせたのかもしれない。
(ぼくが先に帰ったのではない。友人がさっさと帰ったのだ。
「こんなことありえない」。そうなん度も呟きながら、友人は一人で帰ったのだ。
友人は右のこぶしで左の手のひらを何度もなんども叩いていた
ひとり人取りのこ残されたぼくは、ただ呆然と立ちつくすだけだった。
そのときのこころ細さは、強風のさ中に断崖絶壁に立たされたような恐怖心にも似ていた。
ときおり見せていた友人の冷酷さを、あのときほど思いしらさられたことはない)
中学時代、虚無感におそわれていたぼくでした。
父親の浮気問題で家庭がこわれちゃっててね。
なぜ父親が家をでるほどのことになってしまったのかは、ぼくには分からない。
たしかに口論をしている場面にであったことはあるけれど、ボクが居ることに気がつくと、両親はすぐに互いにそっぽをむいてしまっていた。
それなのにだよ。食卓にね、何日も帰ってこない父さんの分まで用意する母さんなんだ。
そして毎晩、ぼくに「お父さんはね、あなたを捨てたの」って、言うんだ。
「あなたが悪い子だから、帰って来ないのよ」って言うんだ。
毎晩毎晩、言われつづけたんだ。
でね、ベッドに入るとね、ぼくにね、もうひとりのぼくが言うんだ。
「お前は父さんだけじゃなくて、母さんにも捨てられたんだ。
悪い子は、みんなに捨てられるんだ」
何もかもが灰色に見えて、信じられるものがなくて…。
いやそうじゃない。灰色とか何色とか、そんな色すら感じていなかった。
そんなぼくだった。
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