昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (九) あっち、あっちいぃ!

2015-02-04 09:11:32 | 小説
夏休みの平日、大勢の海水浴客がいた。
眠気が取れず機嫌の悪い子供たちだったが、初めて見る大海原に目を丸くした。
「うわー、うみだあ!」
「ひろーい!」

歓声と共に、母親の手を振り切って、砂浜に足を入れた。
「あつーい!」
「あっち、あっちいぃ!」

灼熱の太陽に焼けた砂浜は、薄いヘップではその熱から逃れることはできなかった。
ゆっくりと歩を進める吉田と妙子の元に駆け寄った二人は、口々に
「ねええ、しってた? こーんなにあついんだよ」
と、手を高く突き上げて温度の高さを教えようとした。

「そう、そんなに熱いの? じゃあ、ママも気を付けなくちゃあね」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。お兄ちゃんなら、ダイジョーブ? 
うみまで、はいれる? ユウくん、つれてってくれる?」
吉田の足にしがみつく雄太が、不安げに聞いてきた。

「勿論だとも。大丈夫! お兄ちゃんが二人とも、海に入れてやる」
「ナミちゃんもいれてくれるの? うわあ、やった! ママ、ママ、ナミちゃんもお兄ちゃんでいい?」
にこやかに微笑みながら頷く妙子を見て、奈美もまた吉田にしがみついてきた。

「よし! それじゃあ雄太が前抱っこで、奈美ちゃんはおんぶだ。
二人ともしっかりと、お兄ちゃんにしがみつけよ。そうそう、奈美ちゃんは首に手を回すんだ。
よおし、それじゃあ、立ち上がるぞ」
“キャア、キャア”と嬌声をあげながら、二人ともしっかりとしがみついた。


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