(一)
「何だか、あたくしの知っている正三さんじゃないみたい。
あたくしの知っている正三さんは、そんなに弁舌が立つお方ではありませんでしたわ。
お変わりになったのね。」
“心変わりでもされたの?
だからはがきの一枚も下さらなかったのかしら。
あたくしの好きだった正三さんではないみたい。”
と、暗に責め立てる。
「そうですの。
あたくしとの約束など、まるで……。
えぇえぇ、殿方はお仕事第一ですものね。
あたくしが、どれほどまでに心細い思いをしていようとは、露ほどにもお考え下さらなかったのね。」
小夜子の射るような視線が、正三にはきつい。
以前にも増して鋭さを帯びている。
今日の小夜子は、映画のスクリーンから飛び出てきたような、女優かと見紛う程に変身している。
田舎での小夜子も、際立って美しいと感じた正三だ。
しかし今、眼前にいる小夜子からは、神々しささえ感じている。
“御手洗とか言う男に磨かれての、小夜子さんなんですね。”
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