昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十五)の一

2013-03-05 20:35:10 | 小説

(一)

「何だか、あたくしの知っている正三さんじゃないみたい。
あたくしの知っている正三さんは、そんなに弁舌が立つお方ではありませんでしたわ。
お変わりになったのね。」

“心変わりでもされたの? 
だからはがきの一枚も下さらなかったのかしら。
あたくしの好きだった正三さんではないみたい。”
と、暗に責め立てる。

「そうですの。
あたくしとの約束など、まるで……。

えぇえぇ、殿方はお仕事第一ですものね。
あたくしが、どれほどまでに心細い思いをしていようとは、露ほどにもお考え下さらなかったのね。」

小夜子の射るような視線が、正三にはきつい。
以前にも増して鋭さを帯びている。

今日の小夜子は、映画のスクリーンから飛び出てきたような、女優かと見紛う程に変身している。
田舎での小夜子も、際立って美しいと感じた正三だ。

しかし今、眼前にいる小夜子からは、神々しささえ感じている。
“御手洗とか言う男に磨かれての、小夜子さんなんですね。”


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