昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十一)の十

2013-05-18 12:37:07 | 小説
(十)

「俺がなってやるよ。」

「いやいや、僕に任せなさい。
極楽に送ってあげるから。」

突然に、正三が立ち上がった。

「いや! 今夜は正坊がいい! でも、明日は貴方かしら? 
うちを指名してくれる殿御さんが良いわ!」

もうマジックどころではない、ひとみ一人に掻き回されている。
憮然とした表情のマジシャンも、あきらめ顔に変わっている。

「ひとみ! 今夜も明日も、明後日も来るぞ!
今から僕が、ひとみの恋人だ!」

こんな正三など、誰も見たことがない。
皆、思わず顔を見合わせて、口をパクパクさせるだけだ。

こんな正三は、誰も知らない。
当たり前だ、当の正三すら知らない。

“酔いのせいだ。”

誰もがそう思った、正三自身も思った。
他の誰よりも、正三自身が今の己に戸惑った。


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