「ごめん、母さん‥‥」
次男の声が道子の耳に入ったとたん「この子って子は」のことばとともに平手打ちがとんだ。
そして黙ってうなだれる次男のむねを何度もなんどもたたく道子のくちから、思いもかけぬことばが出た。
「お前とほのかは兄妹なの。血がつながった、ほんとの兄妹なの」
絶句する次男にたいし追いかけるように放たれたことばが、次男を混乱の極地にたたせた。
「定男おじさんの子どもは、ナガオなのよ」
〝なんだ、なんなんだ。なぜ、いまなんだ。
こんな他人のいる場所で言うべきことなのか。
いやそもそもそのことと今回のツグオのこととどういう関係があるというのだ〟
孝男もまた混乱した。
歪んだ顔から「お、お前。なにを言い出すんだ」と、声をしぼりだすのが精一杯だった。
両目をカッと見開いて次男をにらみつける孝男に、道子がきぜんと言い放った。
「ツグオは、あなたの子どもじゃないと思っていたんですよ。
それで、あなたの大事なほのかに恋心を抱いてしまったんです」
「母さん、やめてくれ! 俺は、そんなんじゃない。
ほのかが泣いてるって聞いたから、いや妹にいたずらをしているって聞かされたから、それで…」
うつむいたまま次男がくぐもった声を出した。
「いいのよ、ツグオちゃん。あなたの気持ちは、お母さんがいちばん分かっているから、ね」
次男をしっかりと胸に抱きながら、とんとんとかるく背中をたたいた。
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