昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十三) 零式戦闘機から付けたらしいんです

2014-03-31 21:51:17 | 小説
(五)

「ねえ。お名前、なんて言うの? あたし、小夜子。」

「キャハハ、名前も知らずにお話してたなんて。
あたしは、れいです。なんでも、零式戦闘機から付けたらしいんです。

女の子ですよ、これでも。失礼しちゃうわ、ほんとに。
だから、腹いせにね、男勝りになってやったんです。

ね、ね、この腕見て。ほら、力こぶが凄いでしょ? 近所では、ガキ大将なの。
でも、小夜子さんを見てたら、なんだか恥ずかしくなってきちゃった」

「いくつなの?」
「えっと、十二。中学一年生。小夜子さんは?」

「ふふ…いくつに見える?」

「うーんとね。十代じゃないだろうし、二十、と、ね…分かんないよ」

「それじゃ、宿題ね。学校の宿題は、やってる? 
あたしは、自慢じゃないけど、いつも早めに済ませたわよ」

「宿題はねえ…」

目をクルクルと回しながら、落ち着かない様子で辺りを見回している。

「どうしたの? 誰か、探してるの?」

「うん。お友だちがね、来てるはずなんだけどね。
お父さんが居るとね、現れないの。

怒られるものだから、いっつも木の陰に隠れてね、いるの。
あっ、見いっけた。

ほら、あそこに木が何本かあるでしょ? その端っこの、あの木の陰に隠れてる。
あたしを見つけて、ほら、尻尾を振ってるでしょ?」
と、二人が宿泊している旅館の脇の樹木を指さした。


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