昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~地獄変~ (十)娘

2024-05-01 08:00:50 | 物語り

当たり前のことでしょう、わたくしを騙しつづけてきたのでございますから。
正直なところ、所帯をもってからの妻は一生懸命がんばってくれました。
身を粉にして、という表現がピッタリくるほどでございました。
いまのお店があるのも、妻の頑張りのおかげもございますでしょう。
しかしだからといって、わたくしを騙していいとは言えますまい。

そんなある日洗面所で顔を洗っておりますと、娘が
「はい、タオル!」と、わたくしに差し出してくれるのでございます。
そして、「これからはわたしが、お母さんの代わりをやって上げる」と、申すのでございます。
突然のことに、わたくしは何が起きたのか理解できずにおりました。
娘の差し出すタオルがわたくしの手に乗せられるまで、茫然自失といった状態でございました。
昨日までの、冷たい視線が嘘のようでございます。
ひょっとして妻が本当のことを娘に話したのでは、と思ってしまいました。

「お父さんも、年とったわね。ここに白髪があるわ。」と、後ろから娘の声が。
「抜いて上げる」と、わたくしの白髪を抜いてくれました。
ああ、その時です、まさしくその時なのでございます。
腰をかがめていたわたくしの背にのし掛かるようにしてのことでしたので、娘のやや固い乳房の感触が心地よく伝わってきたのでございます。
いくら血のつながらない親子とはいえ、十六年間娘として育ててきたのでございます。

まさにその時でございます。
その娘に対し、一瞬間とはいえ欲情を覚えたのでございます。
恥ずかしながら、わたくしの逸物が反応していました。
恐ろしいことでございます。
畜生にも劣ります、はい。

しかし娘にしてみれば、何ということもなかったのでしょう。
機嫌良く、学校に出かけました。
♪ふんふん♪と鼻を鳴らし、
「行って来まーす!」と、妻ゆずりの美しい声を残して行きます。
しかしその日のわたくしときましたら、まるでだめでございました。
どうにも落ち着きません。

菓子作りでも、失敗の連続でございました。
せっかく練り上げた生地に、あろうことかさらに水を足してしまいまして。
餡にしましても、ほど良い甘さに仕上げていたものを……これもまた、お恥ずかしいかぎりでございます。
砂糖を足してしまい、まったくのお子さま向けになってしまいました。
甘みを控えたお饅頭を売りとしているのにで、ございます。
まあ、お子さま向けのお饅頭としてご用意することにいたしましたので、廃棄するような勿体ないことはいたしておりません。

形を整えるおりも、つい娘のことを思い浮かべてしまいます。
うさぎを作っているつもりが、耳がないのでございます。
耳がなくては、うさぎとは申せません。
桃の形を作ろうとして、栗になってしまったり。
まったくの、上の空でございました。
お恥ずかしい限りでございます。



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