昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(四十三) 三と四

2012-08-15 22:18:44 | 小説

(三)

ゆっくりとソファに座らせて、小夜子の額に手を当てた。

「うん、熱は下がったようだな。
五平がアイスマリームを買ってくる筈なんだが、食べるか?」

「アイスクリーム? 食べる、食べる。
そういう五平なら、好きになってもいいけど。」

「五平です。」

のっそりと、五平が顔を出した。
手に、ドライアイス入りの菓子箱を持っている。

こりゃお邪魔でしたか? お久しぶりです、小夜子奥さま。」

「まだ奥さまじゃないもん。」
と、膨れる小夜子。

そんな小夜子を愛おし気に見つめる武蔵。
奥さんと呼ばれて、それを否定しなかった小夜子に顔をほころばせる武蔵。
五平の手中にある箱に、熱視線を送る小夜子。

「あぁこれですか。
ご所望のアイスです。
ドライアイスを入れさせてますから大丈夫だとは思いますが……」

五平が言い終わらぬうちに、小夜子の手が伸びる。

「ちょうだい、ちょうだい!」

「小夜子、二階で食べてろ。
五平と少し話があるから。」

「はーい!」

小夜子の明るい返事が、五平を驚かせた。
昨日の様子はただ事ではなかった。

今にも後追いをするのではないか、そんな不安に刈り立たせるものがあった。

「そんな不思議そうな顔をするな。
空元気だよ、空元気だ。」

「でしょうね。」

「明日が心配だ。明日も元気なら明後日だ。
とにかく気を紛らわすことだ。
バタバタさせて、疲れさせて、何も考える時間を与えないようにしなくちゃな。」




(四)

「へえー。」
にやつく五平に、
「何だよ、そのへえーは?」
と、少し声を強くした。

「いや、感心したんです。」
と、顔の前で手を振る。

「あぁ、これは医者の受け売りだ。
医者の言うことだ。
間違いがないだろうに。」

「で? どこなんだ、居場所は。」

「居場所もなにも、あの世ですわ。
事故死か自殺か、はたまた殺人か? と、大騒動らしいですわ。」

「なんだ、そんなに有名人なのか? そのアナシなんとかは。」

「私らみたいな無粋人には縁のない世界の大スターらしいですよ。
しかしなんでまた、そんな?」

「いや、小夜子がな……」
と、口ごもる武蔵。

「武さん。半信半疑だったんですが、こりゃ本物?
実はですね、そのモデルがご執心の日本人が居たと言うんですわ。」

「まさかその日本人が、小夜子だと言うんじゃないだろうな。」

「そのまさかですわ。武さん。
ほんとの所は、感づいてたんじゃないですか?」

「そうか、やっぱりな・・」
と、頷く武蔵。

「となると、だ。半端じゃないな、落ち込みは。」

「いい機会じゃないですか、武さん。
身を固めてくださいよ。」

「そうだな。そろそろかな、とは考えていたんだ。」

「近いうちに、会社に連れていくか。
体調のいい時にでも。」

「そりや、いい。皆、喜びますよ。
心配してますからね、皆。

元気な姿を見たら、きっと大騒ぎですよ。

とに角、“お人形さんだぞ!”
と言ってありますから。」


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