昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十四) 一

2013-02-16 13:48:02 | 小説
三部構成の、
大長編です。
どうぞ気長に、
読んでください。
実はこれ、
まだ執筆中なんです。
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(一)

「頼まれてくれ、五平。
佐伯正三という男に連絡をとってくれ。
小夜子に会わせる。」

腹の底から搾り出すような、重い声だった。
沈痛な面持ちの武蔵から、思いもかけぬ言葉が出た。

「社、社長。どういうことです、そりゃ。」
ひっくり返った声で、五平が言う。
伏せられた武蔵の目を追いかけて覗き込んだ。

「いいんだ、いいんだ。
今のままじゃ、埒があかんのだ。

小夜子の中から、消さなきゃならん。
小夜子の時間は、まだ止まっているみたいだ。

普段の生活ぶりから、もう吹っ切れていると思っていたが、
まだこね切れていないみたいだ。」

キッと、五平の目を見据える武蔵。
腹をくくった時の武蔵の射るような目が、五平に注がれた。

こうなると、何を言っても武蔵の意思は変わらない。
己に不利な状況に追い込まれようとも、変えはしなない。

「そう…ですか。
まだ断ち切れていないんですか。

いや、おそらくは腹は決まっていますな。
ただそれを認めたくないんでしょう。

お互いに上京してから、一度も会っていないんだから。」

「そうか? そう思うか、五平も。
俺もな、いい頃合だと思っていたんだ。

でな、茂平さんにご挨拶に行く、と伝えたよ。

そうしたら、怒ること怒ること。
初めてだ、あんな剣幕は。」

がっくりと肩を落として、ソファにへたり込む武蔵だ。


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