昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十七) 八

2013-10-04 19:25:47 | 小説
(八)

そんな武蔵に、思いもかけぬ小夜子の言葉。
不意を突かれた思いの武蔵に、容赦ない小夜子の一撃が飛んだ。

「もういい! あたし、英会話やめる。
どうせあたしの英語なんて、誰も聞いてくれないんだから。

何を言ってるのか、さっぱり分からないもん。
おじさんの方が、よっぽど上手じゃない。

あたしなんか、要らないわよ!」

「小夜子、小夜子。機嫌直せ、直してくれ。
あいつらはな、みんな南部出身なんだよ。

アメリカって国は広いんだ。
東と西では、何百キロもいや何千キロと離れてる。

それに、北部と南部はな、昔戦争をしてるんだ。
仲が悪いんだ。

徳川幕府と薩長みたいなもんだ。
だから、あいつら南部人は、えっと、そう! 方言だ。
方言なんだよ。

あいつらの英語は、世界では通用しない。
そこにいくと、小夜子の英語は正統派だ。

グレートブリテンイングリッシュなんだ。
以前に言ったろうが。小夜子の英語でなければ、貿易がうまくいかないって。
だからしっかりと、勉強してくれ。」

小夜子の肩を抱きながら、必死になだめる武蔵。
実のところは、小夜子を英会話学校に通わせる理由は他のところにあった。

“止めさせるわけにはいかん。
正三とかいう坊ちゃんとの逢瀬の時間なんぞ、金輪際作らせるものか。”

これが本音だった、偽らざる武蔵の思いだった。


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