昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

小説・二十歳の日記 六月三十日  (曇り)

2024-08-25 08:00:21 | 物語り

決してうらみになどは思わない。それが当然だと思うんだ。
でも、悲しいんだ、情けないんだ。
手紙、ファンレター? それともラブレター? を出して、きょうかあすかと待ちこがれ、十日目のきょうに返事がきた。
いや、手紙のかるさを怒っているんじゃない。
三十枚近くにおよんだ手紙にたいする返事が、いち枚の便箋にもりこまれていた。
そのことを怒っているんじゃない。
手紙を書くことが苦手の人だろうさ。それはいい。

時候のあいさつにはじまり、あの舞台の感動、そして彼女にたいする激励。
ここで止めておけばいいものを、ここで文通をしたいと言えばいいものを。
つい、少女雑誌に連載されたまんがのないようをダラダラと書きつづってしまった。
たしかに、無名の歌手が大スターになるまでのうよ曲折がえがかれ、真ごころの大切さを高らかにうたい上げてはいた。
けれども、現実とはあまりにもかけ離れているだろう。
だいいち、釈迦に説法じゃないか。
それになによりも、男たるぼくが、少女雑誌を読んでいることからして。

仕方ないさ、断られても。だけど、偏執狂と思われたのかもしれない。
さも迷惑だ、とでもいうような文面。
そんなんじゃない、断じて! 純粋に、ファンになったんだ。
応援したいんだ。

よし、もういちどだけ出してみよう。
誤解されたままじゃイヤだ。ごかい? 嘘をつけ!



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