「明日は久しぶりの晴天ですよ。梅雨のなか休み、といったところですね。
みなさん、お洗濯、がんばりましょうね」
昨夜のテレビ画面に、満面に笑みをたたえて女性天気予報士が誇らしげにでていた。
ミニスカートでその美脚を見せてくると、ネットで騒がれている予報士だ。
面長で目がパッチリ系の、かわいい女性だと評判になっている、らしい。
「らしい」といういうのは、一樹の美意識には、かわいい系は存在しない。
美人かそうでないか、二者択一なのだ。
そして大半の女性たちが、美人ではないの部類に入ってしまう。
だからといって、いわゆるブスだと思っているわけでもない。
一樹にとっての女性は異性ではなく、お客さまという感覚が染みついてる。
といっても、女性に対する無関心はいまに始まったことではないのだが。
「くそが! はずれちまってるじゃねえか。こんや、土下座しろよな、まったく」
苦々しい思いで毒づく一樹には、まだ審美歯科での当て外れがいまいましく感じられている。
「頭を切り替えろ。失敗したことを引きずるな」と、いつも先輩社員に諭されている。
入社間もないころはできなかったことなのだが、最近では切り替えがうまくできるようになっている。
というよりも、元々が根に持つ性格ではない。
ただ今回ばかりは、出費に見合う成果を出せなかったことで、どうにも腹の虫が治まらないでいた。
今朝は早めに出勤しなければならない一樹だ、掃除当番の日になっている。
社員総勢、十一名。女子社員、二名。社長夫人も含めての、二名。つまり、実質一人。
「あたし、辞めます。掃除とか、お茶出しとか、家でもやったことないのに。なんで、あたしだけなんですか?」
唖然とする一同の前で、きっぱりと言い切った。
十八歳の娘で、小学二年生の時に自転車事故にあってしまった。
その事故が元で、軽い社会的行動障害を抱えている。
社長の遠縁となっているが、実のところは高校時代に産ませた娘だという噂もある。
社長、そして社長夫人以下、全員が順番に当番を勤めることになった。
男どもの不平不満を押さえつけての、社長の鶴の一声だった。
「どうしても、やってもらうぞ。あの娘に辞められたら困るだろうが」
「内の会社には、少し足りないぐらいが丁度いいんだよ」
当の本人には聞こえないようにと、小声で告げる。
「社長もやると言われるんだ、仕方ないじゃないか」
専務である健二がそのことばを引き取り、皆を納得させた。
社長には反発をするくせに、健二には逆らえない。
そんな不文律のある会社なのだ。
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