昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十五)の五と六

2011-12-16 23:42:29 | 小説


砂地に足を取られての歩は、少しの時間といえども結構きつい。
「ここに、腰をおろしません?」
「そうだね、少し足が吊ってきた。」
砂で遊びながら、相変わらず笑みを絶やさない光子。
己の優柔不断さに苛立つ武蔵。
「光子さん、分かってるんだね。
ぼくの聞きたいことが。
それでそんなに、にこやかだとは。
人が悪いね、意外と。」
「旅館業というのは、やはり女将しだいですか?」
おや?という表情で、光子は答えた。
「はい。おもてなし、でございますから。」

「ふーん。男は、裏方、ですか・・。」
「そうでごさいますね、表に出てくることはございません。
でもだからといって、遊んでいて良いいわけはないのでございますよ。」
「髪結いの亭主、とはいきませんか。」
「ほほほ。
髪結いのご亭主さまも、決して遊んでばかりいられることはないと思いますわ。」
「だとすると、光子さんのご主人も、、、」
「宅は、だめでございます。恥を申し上げるようですが・・」
武蔵のことばを遮っての言葉だが、表情が一気に暗くなった。




「お酒が、多くなりました。」
「そいつは、耳が痛い。」
「いえ。武蔵さまのご酒は、楽しいご酒でございますから。」
「ご亭主の酒は?」
「落ち込むお酒、でございます。
愚痴の多い、ひがみが激しい、そして終いには、暴力の出る、お酒でございます。」
気丈に振舞う光子だったが、波間の強い反射光を避けるが如くに手を顔にあてた。
溢れそうになる涙を、隠すためにも。
「戦争前はそれほどでもなかったのですが、帰還してからと言うもの酷くなりました。」
「外地に? 」
「はい。ですが、どこと言わないのです。」
「 船便で分かるでしょう?我々は内地でしたがね。」
ゆっくりと煙草をくゆらせながら、いつもの武蔵に戻った。


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