昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (六) かんぱあい!

2014-11-15 12:35:39 | 小説
小ぢんまりとした小料理屋の二階に、十人程が集まっていた。急な呼びかけにも関わらず、久しぶりの彼との再会を心待ちにしていた級友達は、口々に彼を歓待した。
「ええっ! 七時の約束じゃなかった?」
「ははは、実は六時半にみんな集まったんだ」
彼は上座に座るよう案内されたが、「冗談だろう」と固辞した。

「ミタライ君が、主賓なのよ」
しかし他の席は全て埋まっており、やむなく頭を掻きつつ席に着いた。
と同時に、一斉に皆が彼に声を掛けあった。
「よおっ、久しぶり!」
「元気そうね?」
「ねえねえ、あちらの話を聞かせてよ」
「どうだい、都会の女性は?」
「恋人は、できた?」
「芸能人に会うことはあるの?」

そんな矢継ぎ早の質問に、彼は困惑の色を隠せなかった。
クラスに馴染んでいたとは言えない彼に対し、皆がにこやかに対してきたのだ。

「まあまあ待てよ、取りあえず乾杯しょうや」
と、クラスのリーダー格だった男が皆の言葉を引き取った。
「それじゃあ、ミタライ君との再会を祝して、かんぱーい!」
と、その男の隣に座る女性が声を上げた。

「かんぱあい!」
「うぅむ、美味い。今宵の酒は、特別じゃのう」
首を振りつつ一人が叫んだ。
時代がかったその言い種に、どっと笑いが起こった。

「ちょっと、お酒じゃなくビールじゃないの!」
「私は、ジュースよ!」
女性二人が、彼に対しコップを掲げながら軽口を叩いた。
思わず彼もコップを上げて、軽く会釈した。

「相変わらず、ミタライ君は真面目ね。ちっとも変わってない」
「そうだよなああ生真面目だったよなぁ。正直、取っつきにくかったよ」
正直のところ、彼には名前が思い出せない者も居た。
いや、女性達の大半がわからなかった。
唯、苦笑いを浮かべるだけだった。

彼のそんな戸惑いに対して、リーダー格の男が
「化粧をした女性は、ホントに化けるからな。
自己紹介をしようか、なあ、みんな。御手洗君、困っているようだから」
と、助け船を出した。


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