昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

にあんちゃん ~通夜の席でのことだ~ (五)

2016-01-29 09:20:06 | 小説
 程なく孝道と連れだって帰ったシゲ子、ほのかの為にと用意していたふかし芋が減っている。
留守をした間に寄ったのかと時計を見やった。

「あらあ、お爺さん。六時半ですよ」
 驚いたような声を挙げるシゲ子に、孝道はどう受け止めて良いか分からなかった。
それが「もう」なのか「まだ」なのか、孝道には分からない。

 とに角も、残りのサツマイモでその夜の食事とした。

 仕事に明け暮れた五十年だった。定年を過ぎてなお、技術継承にと七十歳まで後進の指導に明け暮れた。
その後もまた自治会の役員に推されて、毎日と言っていいほど出歩く日々を送ってしまった。

 そのことにひと言の愚痴をこぼすこともないシゲ子だった。
いつもにこやかに送り出すシゲ子に対し、仏頂面で「うん」と短く答える孝道だった。
どんな思いでシゲ子がいたのか、孝道には想像も付かない。

 シゲ子自身もまた、是までの人生がどうだったのか、不満があったのかどうか判然としないでいた。
短大卒業後に二度見合いをして、翌日に断りの連絡がきた。

正確に言えば、乗り気のしないシゲ子が「顔を立ててのお見合いなんです」と告げたことに対する、相手側のせめてのことだった。
しかしさすがに三度目ともなると、仲立ち人も黙っていられない。

「お付き合いもしないで断られるなんて、よほどのことよ」
 と、暗にシゲ子のたくらみに気付いていますよと、告げてきた。
そしてその三人目の見合い相手が孝道だった。

無口な男でその朴訥さがシゲ子には新鮮に映った。
高校そして短大時代と、親に隠れての複数の恋愛経験を持つシゲ子には、初めてのタイプだった。

 真面目な性格でコツコツと仕事に打ち込む姿勢がシゲ子の両親に気に入られ、シゲ子の意思というよりは、両親の希望に押し切られる形での結婚だった。


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