昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十六)の三と四

2011-12-25 15:49:04 | 小説


武蔵の本音を言えば、そろそろ身を固めようかと考えていた。
馬車馬の如くに働き続け、そろそろ三十路を迎えようとしている。
確かに、人並み以上に女遊びはした。
いち時に、三人の女性を愛人としたこともある。
それが原因で、創業以来事務方を一手に引き受けた聡子とは別れる羽目になってしまった。
聡子にしてみれば、青春の全てを武蔵に捧げた!と言う自負があった。
いつかは妻の座に、と言う思いがあった。
富士商会が軌道に乗った暁には、と言う思いがあった。
しかし、株式会社として社会に認知されるようになっても、
ついぞ武蔵の口から“結婚”という言葉は聞かれない。
社員から
“奥さん!”と呼ばれはしても、心は晴れない。
武蔵の前では、決して呼ばれる言葉ではなかったのだ。




「俺に、女房は居ない!」
聡子が“奥さん!”と呼ばれていることを知った武蔵が、全社員を一喝した。
社内では、飽くまでも一事務員でしかなかった。
聡子にしてみれば、それでも良かった。
武蔵と寝食を共にしている、という自負があった。
実体としての結婚生活を送っているのだ。
時に、浮気をすることはある。
それでも我慢をしていた。
武蔵が、外泊することをしなかったからだ。
しかし徳子と言う愛人が出来てからは、度々外泊をするようになった。
そのことで口論となった折に、言ってははならない言葉を口にしてしまった。



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