小屋のうら手に煌こうと電燈がともり、プンプンと酒のにほいがする別の小屋があった。
十畳いやもう少し広いだろうか、板べいの小屋だった。
ちいさな窓から中をのぞきこむと、七、八人が車座になってすわっている。
そして並々と注がれたコップ酒を、次つぎにからにしていた。
その中には、呼びこみの男がいた。
短剣をなげて喝采を浴びた中国人風の男もいた。
お手伝いをしていたチャイナ服がまぶしかった女性もいた。
割りばしをチリ紙で叩きわった武士道の先生もいた。
みな、顔を赤くしている。そしてそのなかにひと際大きな嬌声をはっしている、あのへび女がいた。
舞台の上で着ていた真っ白な着物すがたで、やはりコップ酒を飲んでいた。
おおきく胸元をはだけている。身ぶり手ぶり大きく、話している。
白くもり上がった乳房が目にはいったとき、ふたりとも思わず目を伏せた。
「どういうことだ、どういうことなんだ!」
「へび女だよね、まちがいないよね。いっしょに居るよね、おさけを飲んでるよね」
そして改めてのぞいたとき、いままさに、かれらに封筒が手渡されているところだった。
その中身がなんであるかはふたりにもよく分かった。
そしてなにより、友人はもちろんぼくにも衝撃だったのは、皆がみな、あのへびを食べていたことであった。
その瞬間、ぼくの胸の熱いものがスッと消え、目がしらに熱いものがこみあげてきた。
横の友人をぬすみ見すると、ただ黙りこくっていた。
ギラギラとした光が、目から消えたように感じられた。
お互いなんのことばもなく、急に重くなった背中のリュックー炭酸飲料に菓子パンにインスタントラーメン、そしてせんべいの入ったリュックをおたがい見つめ合い、どちらからともなく笑った。
そして友人の目になみだが光り、ぼくのそれは頬をつたっていた。
幾重にもかさなったその夜の月は、いまでも脳裏に浮かんでくる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます