ピッカピッカの一年生として入学したのは、どこだったんだろう。
大分県の佐伯市だったはずなんです。でも、学校の名前が浮かばないんです。
それよりもなによりも、通学した記憶がまるでないんです。
これは大問題ですぞ、ほんとに。頭の中のひきだしをあちこち開けてみますが、なかなかに。
片っ端から開けていくうちに、なにやらうっすらと浮かんできたことが。
学校とは関係のないシーンなのですが、辺りが暗く街灯の付いていた道路わきの屋台に。
たぶん佐伯市だとおもうのですけれども、駅舎近くでした。
ラーメンをすすったような、すすってないような。
親父に食べさせてもらったような、やっぱり自分で食べたような。
ただ不思議なことに、その場には母も兄もいないんです。
父とわたしのふたりだけでして。おかしいですよ、これは。
実のところは、いたと思います、というよりいたはずですわ。
そうだ! 板塀があった。突然にすみません。
いちばんはしっこのひきだしを開けたら「ごめんなさい」って、ちっちゃな声がきこえました。
「おにいちゃんやらおねえちゃんたちがはしりまわってたの、おぼえてない?」
高さはどのくらいだったか。ピョンピョンと跳び上がって、それでやっと運動場が見えたんです。
そう、そうなんです。渡り廊下でした、たしかに。
ピョンピョン跳ぶのに疲れて、下のすき間からのぞきこんだような気がします。
急に立ちどまったもんですから、うしろの子にけとばされたことも思いだしました。
「泣いたの?」。いやあ、それはおぼえてないですが、たぶん泣いたでしょうね。
でもって、わたしをけとばしした子も泣いたんじゃないですかねえ。
みんなして、わあわあと泣いたと思いますよ。
ああいうのって、どうしてだか伝播というか伝染しちゃうでしょ?
それだけなんです、あとは、なーんにも思いだせません。
伊万里の話に戻りましょうか。
校門が開いていたので、敷地内に車を停めて散策しました。
木造だった校舎も、当たり前の話ですが、立派なコンクリートです。
門の正面に体育館があり、横の庭には大きな木が植えられていました。
種類は分かりませんが、大きく枝をのばしてりっぱでした。
葉っぱは少しですわ。青々(緑々といきたいですが)とはいきませんて。冬ですからねえ、すきまだらけです。
それにしても、伊万里小は鷹揚です。
他の学校の正門はぴったりと閉じられて、中に入ることはできませんでした。
ああそういえば、校庭でサッカーに興じている子どもたちが数人いましたね。
手を振ってみたのですが、わたしには気付いてくれませんでした。
「サビシー!」
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