24日(日)。昨日の朝日夕刊 社会面に「オンリー コントラバス 審査員も裏方も 奏者だけのコンテスト」という見出しの記事が載っていました 超訳すると
「参加者も審査員も裏方も、吹奏楽で唯一の弦楽器コントラバスの奏者だけ、という中高生を対象としたソロコンテストが26日に東京都新宿区のルーテル市ヶ谷ホールで開かれる 企画したのはプロの奏者・鷲見精一氏。高校生から吹奏楽部でコントラバスを始め、国内外の音楽大学で本格的に学んだ後、プロの吹奏楽団や交響楽団で演奏するようになった
中高や大学の吹奏楽部に教えにいくようになって衝撃を受けた
管理が悪く、音がほとんど出ない楽器を使っていたり、そもそも奏法が間違っていたりする生徒がたくさんいたからだ
原因は顧問が管楽器や合唱の経験者であることが多く、弦楽器の奏法や指導法に詳しくない
間違った知識が先輩から後輩に長年引き継がれたままになっていた
さらに、生徒がソロでコンテストに出場しても、審査員にコントラバス奏者がいないので、正当な評価がしてもらえない
鷲見氏は『コントラバス奏者による、奏者のためのコンテストを開きたい
』とし、クラウドファンディングで資金提供を呼びかけ、約70万円が集まった
同氏は『参加者には、プロの演奏を聴いたり話したり、同年代の演奏を聴いて刺激し合ってほしい』と話す
」
そうか、吹奏楽にもコントラバスが参加するんだな、とあらためて認識しました 考えてみれば、モーツアルトが1783~84年頃に作曲したと言われている「セレナード第10番変ロ長調『グラン・パルティータ』K.361」は、オーボエ2、クラリネット2、バセットホルン2、ホルン4、ファゴット2、コントラバス1という編成で、コントラバスが入っています
管楽合奏曲(吹奏楽と言っても良いか?)にコントラバスが参加するのは、すでにモーツアルトの時代にその萌芽があったと言えるのかも知れません
なお、この曲は コントラバスの代わりにコントラファゴットが用いられることがあり、その場合「13管楽器のためのセレナード」と呼ばれることもあります
しかし、第4、6、7楽章にピッツィカートの指示があり、コントラバスが正式であることを示しています
いずれにしても、鷲見精一氏の活動は素晴らしいと思います 是非コンクールを成功させてほしいと思います
昨日、文京シビックホールで「響きの森クラシック・シリーズ 第67回演奏会」を聴きました プログラムは①チャイコフスキー「スラヴ行進曲」、②グラズノフ「ヴァイオリン協奏曲」、③ハチャトゥリアン:バレエ音楽「スパルタクス」より「アダージョ」、④同「交響曲第3番『交響詩曲』」です
管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団、指揮はこのシリーズ初登場の東京フィル特別客員指揮者ミハイル・プレトニョフです
オケは左奥にコントラバス、前に左から第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンという対向配置をとります コンマスは依田真宣氏です
1曲目はチャイコフスキー「スラヴ行進曲」です この曲はピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893)が1876年に、セルビア独立戦争における負傷兵救援基金募集のための慈善音楽会のために作曲されました
正式な曲名は「民族共通の主題によるセルビア・ロシア行進曲」です
プレトニョフの指揮で演奏に入ります 冒頭の低弦の響きを聴いて、ロシアの広大な大地のようなどっしりした演奏だな、と思いました
この曲はLP時代にカラヤン✕ベルリン・フィルの演奏で良く聴いていて、その演奏がスタイリッシュで颯爽としていたので、それと比べてそう思ったのです
全曲を通して聴いた後も最初の印象は変わりませんでした。同じ曲でも演奏によってまったく異なる印象を受けるのもクラシックを聴く醍醐味です
2曲目はグラズノフ「ヴァイオリン協奏曲イ短調」です この曲はアレクサンドル・グラズノフ(1865-1936)が1904年に作曲し、ペテルブルグ音楽院の同僚であるレオポルド・アウアーの独奏、グラズノフの指揮で初演されました
レオポルド・アウアーってどこかで聴いた名前だと思ったら、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を「演奏困難」として初演を拒否したヴァイオリニストでした
このことから言えることは、グラズノフよりもチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の方がはるかに演奏が難しいということです
この曲はモデラート~アンダンテ・マエストーソ~アレグロの順に続けて演奏されます
台北生まれ、2015年チャイコフスキー国際コンクール最高位のユーチン・ツェンがステージに現われ、プレトニョフの指揮で演奏に入ります 全体を聴いた印象は、チャイコフスキーの影響が見られる部分があり、かなりロマンティックです
中間楽章のカデンツァは技巧に満ちていますが、ソリストは何なくクリアします
民族舞曲風のフィナーレも鮮やかでした
アンコールにタレガの「アルハンブラ宮殿の思い出」を超絶技巧により演奏、盛大な拍手を浴びました
プログラム後半の最初はハチャトゥリアン:バレエ音楽「スパルタクス」より「アダージョ」です 「スパルタクス」はグルジア(現ジョージア)生まれのアラム・ハチャトゥリアン(1903-1978)が1954年に作曲した4幕9場から成るバレエ音楽です
「アダージョ」はスパルタクスとフリーギアの愛に満ちたパ・ド・ドゥを踊る場面の優美な音楽です
冒頭のフルートが素晴らしい
続いて演奏されるオーボエによる息の長い旋律が哀愁を誘います
この部分はロシアの広大な大地を思い浮かべます
終盤の依田氏のヴァイオリン・ソロも印象的でした
プログラムの最後はハチャトゥリアン「交響曲第3番ハ長調『交響詩曲』」です この曲はハチャトゥリアンが1947年に完成した単一楽章の作品です
第2次世界大戦戦勝記念日のために作曲され、10月革命30周年にあたる1947年12月にレニングラードで初演されました
オケの後方にはトランペット奏者15人が横並びでスタンバイし、舞台右手にはオルガン奏者が(この会場にはパイプオルガンがないので電子オルガンを使用)、左手にはゴングと大太鼓がスタンバイします
柴田克彦氏によるプログラム・ノートに、この曲は「吹奏楽界ではちょっとした人気なのですが、オーケストラ公演での演奏は極めて稀。今回は生で体験できる貴重な機会となります」と書かれています いやでも期待が高まります
プレトニョフの指揮で演奏が開始されます 曲の冒頭、弦楽器のトレモロやゴングが鳴り響く中、15人のトランペット奏者が一斉にファンファーレ風のテーマを高らかに演奏し、しばらくオケとの賑やかなやり取りが続きます
すると今度は右サイドのオルガンがトッカータ風のダイナミックな演奏を展開、ステージ後方の左右に設置されたスピーカーを通して音の洪水が客席に押し寄せます
オケと15本のトランペットとオルガンとの狂騒が終わると、一転、叙情的な旋律が登場し 少し安心します
そして、再び15本のトランペットとオルガンとオケとの三つ巴の戦いが「どうだ これでもか
」と繰り広げられ、耳をつんざきます
四字熟語で表せば「阿鼻叫喚」「全面喧噪」「爆裂必至」の世界です
あと10分も聴いていたら聴衆は一人残らず難聴になり、文京区のすべての耳鼻科に長蛇の列が出来ていたことでしょう
いかにもイケイケドンドンの「剣の舞」の作曲者が作った交響曲です
ハチャトゥリアンの「ハチャ」はハチャメチャの「ハチャ」ではないか
この曲の副題は「交響詩曲」ですが、どこにポエムがあるのだろうか、と思わず疑ってしまいます
終演後の静かな拍手は、聴衆があっけに取られ どう反応したらよいか戸惑っている様子を表していました
柴田克彦氏の「オーケストラ公演での演奏は極めて稀」の本当の理由が分かったような気がします
プレトニョフ✕東フィルは、アンコールにハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」から「ワルツ」を演奏しましたが、楽員はこの曲の方が 水を得た魚のように 生き生きと演奏していました 喧騒に満ちた音楽から解放され、リラックスして楽しんで演奏する姿が印象的でした
あれもハチャトゥリアン、これもハチャトゥリアンです