21日(月)。昨日は日曜日なのに珍しくコンサートの予定がなかったので、雨が降る中、久しぶりに飯田橋のギンレイホールに映画を観に行きました 年間10,500円のギンレイ・パスポートが5月に期限切れになってしまったので、新たに入会しました 2週間おきに2本立ての映画が観られて年間10,500円は超お得です。1年間で52本観られる計算です
現在上映されているのは2012年制作の「かぞくのくに」と2013年制作の「舟を編む」の2本立てです 今日は午前9時半から上映された「かぞくのくに」について書きます
在日コリアンの父親の指示で70年代に「帰国事業」により北朝鮮に移住したソンホは、病気治療のため3か月間だけ帰国が許された 16歳の時から25年の歳月が流れていた。彼は現地で結婚し、子どももいる。久しぶりの家族団らん、そして一緒に青春時代を過ごした仲間たちとの再会 その間も北朝鮮からの監視員が目を光らせている。日本で生まれた妹・リエはそうした不合理が理解できない。兄ソンホからそれとなくスパイ活動に興味がないかと訊かれ、憤りを感じて拒否する。兄にそう言わせる国が許せない
ソンホの頭の腫瘍を除去する手術のため検査が行われるが、担当医は3か月では治療できないと言う父親は滞在延長を申請しようとし、リエは違う医者を探そうと頑張る。そんな中、本国から3か月を待たず「明日、帰国せよ」という指令が届く。不条理な命令ながら、自国に残した家族のため命令に従うしかないソンホ せっかく帰って来たのに、ゆっくり病気の治療に専念することも敵わないことに苛立つ家族。しかし、ソンホは命令に従わざるを得ない。リエを振り切って車を出す。リエは一大決心をし、再び兄の居なくなった家からスーツケースを携えて出ていく。自分自身の人生を歩むために
かつての仲間たちとスナックで歌を歌うシーンがあります 70年代に一世を風靡したビリーバンバンの「白いブランコ」です 最初は輪に加わらなかったソンホも、いつしか口ずさむようになり、昔を思い出して皆しんみりします
ソンホは帰国のため車で飛行場に移動する車中、窓を開け小さな声で「白いブランコ」を口ずさみます 「君は覚えて いるだろうか あの白いブランコ・・・・」彼はもう二度と日本に戻れないことを自覚しながらあの歌を歌っていることが分かります。「昔のままでいられたらどんなに幸せだったろうか・・・・」そう思いながら歌っていたに違いありません 下のチラシの写真はそのシーンです
解説によるとこの映画はヤン・ヨンヒ監督の実体験に基づく物語とのことです かつて1959年から84年まで20数年に亘って、北朝鮮を「地上の楽園」として在日コリアンが渡っていきました。当時は政治経済状況が不安定だった韓国よりも、旧ソ連の影響で経済成長が見られた北朝鮮に希望を託した人が多かったと言います
祖国・日本にいても監視員の目がある中で自由に行動できないソンホ 妹まで北朝鮮のスパイに勧誘しようとするソンホ。そういうことが絶対に許せないリエ。何とかしてやりたいと思っても何も出来ないでやるせない思いをする母親。こうした不条理を観ていると、こちらも行き場のない憤りを感じます
ソンホはリエに言います。「自分はこれでいいんだ。向こう(北朝鮮)では、上の指示に従っていればいいんだ。何も考えないんだ。考えると頭がおかしくなってしまうんだ 思考停止は楽でいいぞ リエは自分で好きなように生きろ。リエの人生はリエのものだ。行きたいところに行けばいいんだ」
これがヤン・ヨンヒ監督が一番言いたかったことでしょう 国民に思考停止を求める国・北朝鮮。残念ながらまだこの国は存在しています
妹リエ役の安藤サクラが迫真の演技をしています わたしはこの人の出演する映画を観るのは初めてですが、表現力の豊かないい役者だと思います ソンホ役の井浦新はクールな主人公を見事に演じています 母親役の宮崎美子は子供想いのいい母親の表情を見せています。それと監視員役のヤン・イクチュンがいい味を出しています この人は”暴力に次ぐ暴力”の「息もできない」に出演していた個性派俳優です。あの映画も凄かった
一人でも多くの日本人に、そして何より北朝鮮の人たちに観てほしい映画です そんなことは不可能なことは重々承知していますが