29日(火)。昨日の朝日朝刊の連載「文化の扉」に「はじめての小林秀雄」が載っていました この企画は、歴史上の有名な人物を、初心者にも解るように紹介するものです。リードにこう書かれています
「小林秀雄没後30年の今年、彼の文章が初めてセンター試験に出題され、話題になった。『難解』との枕詞がついてまわる文章なのに、ハマる人は後を絶たない。なぜなのか」
そして『難解』な文章について次のようなエピソードを紹介しています
「小林本人が書いた逸話がある。娘から『何だかちっともわからない』と国語の試験問題を見せられ、『こんな悪文、わかりませんとこたえておけばいい』と言い放ったところ、『でも、これお父さんの本からとったんだって』」
このエピソードを見る限り、小林秀雄という人は相当に傍若無人な人だったようですね
ところで、クラシック音楽好き、とくにモーツアルト好きにとって、小林秀雄の「モオツアルト」はバイブルのような存在です 誰もがこのエッセイを通過して自分自身のモーツアルト像を構築していきます。モーツアルト好きでこのエッセイを読んだことのない人はモグリです 私は、何冊買っては捨てたか分かりません。読んでは赤線を引いて、それを捨て、また新しい本を買って、また赤線を引く。引いた箇所は前に読んで印象に残った部分もあれば、まったく違う個所もあります
記事には小林秀雄の書いた文章のエッセンスがほんの短い言葉で引用されています
「かなしさは疾走する。涙は追いつけない」(モオツアルト)
「美しい『花』がある、『花』の美しさという様なものはない」(当麻)
「解釈を拒絶して動じないものだけが美しい」(無常といふ事)
これらは長い文章の中に現われるほんの一部の言葉です この短い言葉だけで意味を理解しようとしても無理があります。全文を読むべきです。すると、もっと分からなくなりますが
閑話休題
一昨日の日曜日、午後3時から上野の東京藝術大学奏楽堂で「東京藝大とジュネーヴ音楽大学ジョイントコンサート」を聴きました 演奏曲目は①ヴィヴァルディ「4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲」、②モーツアルト「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲K.364」、③ショスタコーヴィチ「ピアノ協奏曲第1番」、④バルトーク「弦楽のためのディヴェルティメント」です
実は時間を1時間間違えて、早めに奏楽堂に着いてしまったのです 全自由席なのに一人も並んでいないので、チケットを確かめると2時ではなく3時開演になっていました 仕方ないので上野公演のベンチに座って、東京文化会館のチケットサービスでもらってきたタワーレコードの機関誌「intoxcate」を読んで時間を潰しました
開演40分前の2時20分に再び奏楽堂に行ってみると、今度は長蛇の列が待っていました それでも余裕で1階14列13番というセンターブロック左通路側席を押さえることができました 今井信子人気のせいか会場はほぼ満席です
拍手に迎えられて東京藝大とジュネーヴ音楽大学の合同オケメンバーが登場します。コンマスは修士課程4年の澤亜樹さんという人ですが、名前からして指揮を取る澤和樹氏の娘さんと思われます 後で登場した4人のヴァイオリン・ソリストも両大学から2人ずつです。チェロの山崎伸子さんはオケの一員としてスタンバイしています。ソリストを含めて17人のメンバーで、指揮者なしで演奏します
1曲目のヴィヴァルディ「4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ロ短調」は協奏曲集「調和の霊感」の第10曲目に当たる曲ですが、ヴィヴァルディは生涯に500曲以上の協奏曲を作曲したといいます。すごく精力的ですね
第1楽章の激しく突き進む音楽を聴いていると、協奏曲というよりも競奏曲といった感じを受けます 4つのヴァイオリンが争って演奏している様子がよく分かります。ソリスト達は競奏を楽しんでいるように見えました。これはとても良いことです
椅子が大幅に追加され、2曲目のモーツアルト「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲K.364」が始まります。ソリストのミハエラ・マルティン(ヴァイオリン)と今井信子(ヴィオラ)が指揮者・澤和樹とともに登場します 澤のメリハリの効いたテンポに乗ってマルティンが、そして今井が入ってきます この曲の聴きどころは第2楽章「アンダンテ」です。メランコリックなメロディーがヴァイオリンとヴィオラの対話によって奏でられます 美しいヴァイオリン、深みのあるヴィオラ、バックを務める合同オケのナイス・サポート。とても良い感じです
休憩後の1曲目はショスタコーヴィチ「ピアノ協奏曲第1番 ハ短調」です。この曲は内容から言えば「ピアノとトランペットと弦楽合奏のための協奏曲」です。3楽章から成りますが、続けて演奏されます
ピアノの迫昭嘉とトランペットの栃本浩規が指揮者と共に登場します。この曲も第2楽章「レント」が美しい音楽です トランペットの哀しげなメロディーが心に沁みます。一転、第3楽章「アレグロ・アッサイ」は同じメロディーが勇ましく繰り返し演奏され、トランペットとピアノの強奏によるフィナーレを迎えます 弦楽奏者たちはお互いに目配せしながら実に楽しそうに演奏しています。とても微笑ましく思いました この曲はそういう曲です
最後はバルトーク「弦楽のためのディヴェルティメント」です。第1楽章を聴いていると、ストラヴィンスキーの「春の祭典」の一部か、と思われるメロディーが現われ、ちょっとびっくりします 第2楽章は独特の緊張感が続きます。第3楽章はストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」の一部か、と思われるメロディーが現われ、またしてもびっくりします バルトークってストラヴィンスキーに似ているな、と初めて感じたコンサートでした