4日(金)。昨夕、すみだトりフォニーホール(小)で新日本フィル室内楽シリーズ2013-2014シーズン第1回目のコンサートを聴きました プログラムは①ドッツァウアー「3つのチェロのための6つの小品」、②ブラームス「弦楽六重奏曲第1番変ロ長調」です
開演に先立ち、プレトークがありました。これまで新日本フィルの第2ヴァイオリン奏者・篠原英和さんが天才的とも言える鮮やかな解説で聴衆を魅了してきましたが、今シーズンからコントラバス奏者・村松裕子さんが務めることになりました。この日がデビュー戦です
実はこの日、新国立劇場でヴェルディの「リゴレット」のプルミエ公演を観る予定だったのですが、新日本フィルのこの公演と重なってしまったので、村松さんのプレトーク・デビューを優先し、新国立の方を”振替サービス”を利用して別の日に振り替えてもらったのです
会場に着いてコーヒーを注文しに行こうとすると、「トラさん、こんばんは!」と明るいテノールの声が。赤ワインを片手にニコニコしているのは新日本フィルの篠原英和さんでした 「トラさん、最近もコンサート頻繁に行かれているようですねえ どうですか、もう今年の目標に達しましたか?」と訊かれたので、「まだですね。今130回くらいです」と答えました。(後で調べたらこの日は今年138回目でした)。いずれにしても、篠原さんは時々このブログを読んでくださっているのだな、とありがたく思いました
「今度の土日はどのようにお過ごしですか?」と尋ねると「新クラシックの扉シリーズで金・土と十束尚宏君の指揮でショパンのピアノ協奏曲第1番とチャイコフスキーの交響曲第4番を演奏するんです。昨日と今日はリハーサルだったんです」との答えが返ってきました。「十束尚宏と言えば、昔、小澤征爾のレッスンを受けているシーンを収録したビデオがありましたね」と言うと、「ああ、泣いちゃうやつね タングルウッドの時の・・・・」との答え。「そうです。曲はウェーバーの”魔弾の射手”序曲でした」「そうそうあれを観ていると、可哀そうになってくるんですよ。このシーンの後泣いちゃうんだって思ってね」 あくまでも優しい篠原さんです
篠原さんが、プログラムに挟み込まれたチラシを見ながら「このコンサートは是非お薦めです」と推薦してくださったのは、まず1月のトりフォニーシリーズのハウシルト指揮によるシューベルト「交響曲第4番」とブルックナー「交響曲第4番」。かなりのご高齢なので、あとどのくらい聴けるか分からないとのこと 4月定期の上岡敏之指揮によるシベリウス「交響曲第4番」とベートーヴェン「交響曲第6番」も面白い演奏になるだろうとのこと。これは経験上判ります 10月のサントリーホールシリーズでドビュッシー「ベルがマスク組曲」より”月の光”、ラヴェル「ラ・ヴァルス」「ボレロ」ほかを指揮するスピノジは、クラシック演奏家を撮影していることで有名な木下晃さんによると「彼の指揮はまるでカルロス・クライバーのようだ」ということです
「今夜は篠原さんの後任の村松さんがプレトーク・デビューですね」と持ちかけると、「彼女は、やってくれると思いますよ 私の時とやり方をガラッと変えるようです。とても楽しみです。最初のうちは毎回見守りに来たいと思います」とやさしい心配りを見せていました
7時になり、いよいよ村松裕子さんがマイクを持って登場です 白のブラウスに黒のベスト、黒のパンツルックで抜群のスタイルを保ちます
「このシリーズも早いものでもう10年目を迎えます。今回からプレトークを担当することになりましたコントラバス奏者の村松裕子です。よろしくお願いします () 実は今、妊娠5か月目に入ったところです (あら~、まあ~ )ずっと立っているのもつらいので、バスイス(コントラバスを演奏する時に座る高い椅子)に座らせていただきます」(そうか、あれはバスイスと言うのか・・・・。じゃあ、お風呂で身体を洗う時に座る椅子はバスイスじゃなかったのか・・・・この際どうでもいいけど)
「プレトーク初の試みとして、今までワンコイン・パーティーでやっていた演奏者へのインタビューを、演奏直後に舞台上でやることにします」
「新年度からインゴ・メッツマッハ―さんが指揮を取ることになったのですが、ハイテンションで始めてハイテンションのまま終わって去って行ったという感じです リハーサルも本番も同じようにはならない、常に変化している感じでした 彼の書いた本にあるように、今、目の前にある閃きを掴んでそれを音に変えていく、というような感じでした」
「1曲目の作曲者ドッツァウアーは、チェロを演奏する人は必ず習う有名な教則本を書いた人です チェロはコントラバスと違って、音域が広いのでチェロだけの三重奏でもメロディーと伴奏がはっきりと分かるようになっています チェロは人間の声に似ていると言われていて、優しいイメージがありますね」
「2曲目のブラームスの『弦楽六重奏曲第1番』は楽譜を見ると、音符がト音記号の下の部分に集中しているのですね 重低音のサウンドと言われる所以です」
「開演に当たって、この会場の空気を皆さまのご協力を得て締めたいと思います ”いっせーの”と掛け声をかけますので1本締めの要領で”パン”と叩いて下さい・・・・よろしいですか?それでは、いっせーの」 ”パン” 「ありがとうございました」
デビュー戦と言うこともあって、はっきり言ってかなり上がっていると感じましたが、村松さんの”意気込み”を感じさせるプレトークだったと思います
そして演奏に移ります。1曲目のドッツァウアーの「3つのチェロのための6つの小品」は、竹澤修平、多田麗王、矢野晶子の3名によって演奏されます 村松さんの解説の通り、チェロは音域が広いので十分アンサンブルを楽しむことができます。個人的には終盤のパストラーレ、ラルゲットーアレグロが楽しく聴けました
2曲目のブラームス「弦楽六重奏曲第1番変ロ長調」は、第1ヴァイオリン=山田容子、第2ヴァイオリン=一重弘子、第1ヴィオラ=木村恵子、第2ヴィオラ=原孝明、第1チェロ=竹澤修平、第2チェロ=多田麗王によって演奏されます
第1楽章を聴いていて、この曲を演奏するのって楽しいだろうな・・・・と勝手に想像しました 6人のメンバーが緊張を保ちながらも演奏することを楽しんでいるように見えたからです 第2楽章のアンダンテ・マ・モデラートは映画音楽などでも有名ですが、慟哭の音楽です昔、多岐川裕美が主人公の女スリを演じたテレビドラマのテーマ音楽に、この曲のピアノ独奏バージョンが使われていました あれは彼女の深層心理にぴったりの選曲でした 一言でいえば”悩みを抱える孤独な女”のテーマ音楽です
最終楽章も穏やかで良い曲です。ブラームス27歳の時の作品ですが、ブラームスの明るい部分がよく出ています この曲を聴いていつも思うのは「ブラームスの室内楽はいいなあ」ということです。とくに、今ごろの”秋”こそブラームスが一番ピッタリきます
演奏後にチェロの武澤秀平が舞台に残され、村松さんからインタビューを受けました 村松さんが1曲目と2曲目の曲想について感想を述べ、それについてどう思うかと問いかけるのですが、どうも竹澤君の答えはイマイチ分かりにくく、簡単に言えば良いことを、わざと難しく答えようとしているように感じました 彼一流のテレなのかも知れませんが・・・・・・ 彼の演奏は古楽器でやる時も含めて素晴らしいと思いますが、トークは篠原さんを見習って勉強した方が良いと思います
終演後は、ワンコイン・パーティーに参加しました。篠原さんがマスターの時はすぐに始まったのに、松村さんはなかなかロビーに現われません やっと姿が見えたと思ったら、オレンジジュースを飲みながらお客さんと談笑を始めました そのうち、前任者・篠原英和さんと一緒に新日本フィル事務局のNさんのカメラに収まっていました 近くでワインを飲んでいた老年の紳士の声が聞こえてきます
「さっき舞台でインタビューやっちゃったから、ワンコイン・パーティーじゃあトークはないのか 前のスタイルに慣れてるわれわれ常連にとっては何か変な感じだなあ まあ、これはこれでいいけどね・・・」
私もまったく同感です。今までの”篠原スタイル”に慣れてしまっているので、なにか物足りないのです結局、赤ワイン2杯を飲んで、この日のことをブログにどう書こうか、と考えつつ帰途に着きました
次回は11月15日(金)で、モーツアルト「フルート四重奏曲第4番」とチャイコフスキー「弦楽四重奏曲第1番」なのですが、またしても別のコンサートとダブっているのです また悩みが一つ増えてしまった。どうしよう