2日(水)。昨日、会社の入り口に表示している「クールビズ実施中」の張り紙を外しましたが、引き続きノーネクタイで通しています 元の職場に勤務している時は1年中ノーネクタイで過ごしていました 今後は、会議のある時にはネクタイを着用しようと思います という訳で、昨夕は10時過ぎまで都内某所でノーネクタイで飲みました 若干喉が痛いのは歌い過ぎではなく風邪をひいたのかも ネクタイしてなかったのに自分で自分の首を絞めてしまったか・・・・・・
閑話休題
阿川佐和子著「残るは食欲」(新潮文庫)を読み終わりました 阿川佐和子と言えば、つい最近まで大ベストセラーを続けていた『聞く力』で有名なインタビューの名人です
この本は、2006年5月から2007年12月まで「クロワッサン」誌上に連載された、食にまつわるエッセイをまとめたものです タイトルの「残るは食欲」は、佐和子さんの悪友・壇ふみさんが言った次の言葉だそうです
「愛欲と物欲を捨てた今、自分と俗世を結ぶ唯一の絆は食欲のみ」
壇ふみと言えば、N響アワーの作曲家・池辺晋一郎とのコンビによる名司会ぶりが思い出されます 彼女はチャイコフスキー大好き人間で、番組で「チャイコ様」と呼んでいたのを懐かしく思い出します
この本には食にまつわるトリビアが満載です
「サメとフカってどう違うの?」と疑問に思った佐和子さんはスタッフに尋ねます。すると「基本的にサメとフカは同じサカナ。学術的にはサメが正しい名称だが、一般的には東日本ではサメ、西日本ではフカと呼んでいる様子」という答えが返ってきます これに対して佐和子さんは「でも、フカヒレって宮城県気仙沼が世界的な名産地なのに、なんでサメヒレじゃないのかな?」と疑問を呈します。するとスタッフから「そもそもフカヒレを日本で初めて紹介したのが長崎らしい。だからフカヒレなんです」という答えが返ってきます 私も初めて知りました
また、丸の内の丸善書店にサイン会に行った時、店長から「ハヤシライス は実は当社の創業者である早矢仕有的(はやしゆうてき)が考案したもので、ここでは元祖ハヤシライスを再現し、喫茶コーナーで出しております」と言われ、驚いたとのこと これについては西洋から伝えられた「ハッシュドビーフ」が名前も味も日本風にアレンジされて「ハヤシライス」が誕生したという説もある、と紹介しています 今パソコンで「はやし」と打って変換したら3番目に「早矢仕」という文字が出てきました。それ程知られた苗字なのでしょう
一番驚いたのは「パッションフルーツ」です。佐和子さんが初めて「パッションフルーツ」に出会ったのは奄美大島の友人から送られてきた時だそうです
「パッションフルーツ。訳して情熱果物・・・・と、長らく思い込んでいたのだが、実は違うんですね パッションフルーツのパッションは、『キリストの受難』を意味し、花のかたちが十字架に架けられたイエスキリストの姿に似ていることから、その名がつけられたそうである」
佐和子さんが初めてパッションフルーツを食べた時の感想を「南の島の豪華ホテルのバルコニーにて、爽やかな海風を頬に受けながら、さざ波の音を耳に優雅な朝ごはんをのーんびり食べている気分である」と表現しています
私もてっきり「情熱の果物」とばかり思い込んでいました たしかに、J.S.バッハの「マタイ受難曲」は英語表記で「マタイ・パッション」です
また、阿川家の驚きの食卓が紹介されているエッセイもあります
「我が家にはカレーライスにイチゴジャム を添えて食べる習慣がある ずっと昔、どなたかから母が教えられ、実行してみたら父も家族も気に入って、以来、続けているのだと推測される イチゴジャムのイチゴらしい甘味と、ピリピリ辛いカレーの味を交互に味わうと、ほんわかした気持ちになる・・・・この話は実のところ、何度も書いて、何度も人様に語り聞かせているのだけれど、いっこうに広まった気配がない。無念」
これを読んで、私は佐和子さんの無念を晴らすために一大決心をしました。親しい知人にこう言うのです
「阿川佐和子がカレーにイチゴジャムを添えて食べるとすごく美味しいとエッセイで書いている。納豆カレーだってあるくらいだ。絶対イケる 食べ終わったら感想を聞かせてくれ。イケる味だったら自分でも試してみるから」
以上、いくつか面白そうな内容のエッセイをご紹介してきましたが、実はこの本の本当の魅力は阿川佐和子さんの文章表現にあります エッセイなので「文語体」で書かれていますが、まるで「口語体」で書かれているように語りかけているのです
例えば「カブと風邪」というテーマのエッセイでは、出張帰りに松山空港のロビーで売られていたカブと小松菜を買って帰る話が書かれていますが、こんな感じです
「まさかこれから飛行機に乗る身で生野菜を抱えて入るわけにもいくまい 段ポール箱の間を抜けて、その奥の売店を一巡し、そろそろゲートのなかに入ろうと思ったとき、小松菜が私を引き止めた。『行っちゃうの?俺、安いんだぜ』 見直してみれば、なるほど小松菜が一束でたったの30円。その隣の大粒のカブは、長さ50センチほどのたわわなる葉を付けた状態で、5個一束120円なり にわかにカブと油揚げの炒め煮が食べたくなった。『よし、連れて帰るぞ!』 私は映画『昼下がりの情事』のラストシーンでゲーリー・クーパーがオードリー・ヘップバーンを抱き上げるがごとく、カブと小松菜を一束ずつつかみ上げ、合計150円を払って飛行機に乗り込んだ」
ところが家路に着くころから風邪がぶり返し、寝込むことになります さてカブと小松菜の運命やいかに・・・・知りたい人は本を買ってください。えっ、本を貸してくれって?そんなこと言われるとコマツナっちゃうなあ。カブが下がるから言わない方がいいですよ
私は女流作家の文章では向田邦子が一番好きですが、違った意味で阿川佐和子の文章が好きです