人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ジョナサン・ノット ✕ マグヌス・ホルマンデル ✕ 青山貴 ✕ 中島郁子 ✕ 東京交響楽団でラヴェル「スペイン狂詩曲」、ジャレル「クラリネット協奏曲」、デュリュフレ「レクイエム」を聴く

2024年11月10日 00時01分08秒 | 日記

10日(日)。東京交響楽団から2025年度定期演奏会の年間チケットが届きました さっそく手帳の日程表に開演時間・会場とともに書き入れておきました

昨日、東京フィルの2025シーズンの席替え手続きをしました WEBでの受付はしないので、午前10時から何度か電話をかけたのですが、全然つながらず12時半頃にやっとつながりました 現在の席は1階右ブロックの左通路側ですが、後ろ過ぎるのでもっと前方の席を求めました いくつか候補があったのですが、最終的に 現行より6列前の左ブロック、通路から2つ目の席を選びました    やはり通路側席は難しいようです

ということで、わが家に来てから今日で3589日目を迎え、お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志さんから性加害を受けたとする女性2人の証言を報じた週刊文春の記事を巡り、松本さんが発行元の文芸春秋などに5億5千万円の損害賠償と訂正記事の掲載を求めた高等地裁の訴訟は8日、松本さん側が訴えを取り下げ、文春側も同意したことにより訴訟は終結した というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     松本側の実質的な敗訴だ これでお笑い界への復帰が許されるなら お笑い草になる

         

昨夜、サントリーホールで東京交響楽団「第726回定期演奏会」を聴きました プログラムは①ラヴェル「スペイン狂詩曲」、②ジャレル「クラリネット協奏曲」、③デュリュフレ「レクイエム 作品9」です 演奏は②のクラリネット独奏=マグヌス・ホルマンデル(マルティン・フレストの代役) 、③のテノール独唱=青山貴、メゾソプラノ独唱=中島郁子、合唱=東響コーラス、指揮=ジョナサン・ノットです

     

オケは左奥にコントラバス(6)、前に左から第1ヴァイオリン(12)、チェロ(6)、ヴィオラ(8)、第2ヴァイオリン(12)という対抗配置。ステージ上手にはハープが2台スタンバイします。コンマスはグレブ・ニキティンです

1曲目はラヴェル「スペイン狂詩曲」です この曲はモーリス・ラヴェル(1875-1937)が1907年から翌08年にかけて作曲、1908年3月15日にパリのシャトレ座で初演されました 当初2台ピアノのために作曲され、その後管弦楽化されました。第1曲「夜への前奏曲」、第2曲「マラゲーニャ」、第3曲「ハバネラ」、第4曲「祭り」から成ります

ノットの指揮で演奏に入りますが、得意のラヴェルということで切れ味鋭い色彩感溢れる演奏が展開しました 最上峰行のイングリッシュホルンを筆頭に木管楽器群の演奏が冴えていました

2曲目はジャレル「クラリネット協奏曲『Passages』」です この曲はミカエル・ジャレル(1958~)がクラリネット奏者マルティン・プレストのために2023年に作曲した作品で、スイス・ロマンド管弦楽団、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、東京交響楽団、サンパウロ州立交響楽団による共同委嘱作品で、日本初演です

この作品のタイトル『Passages』は「流れ」「通過」などを意味するフランス語の複数形です

クラリネット独奏のマグヌス・ホルマンデル(マルティン・フレストの代役)はスウェーデン出身。コンセルトヘボウ、エルプフィルなどの一流のコンサートに出演しています 音楽家であるとともにマジシャンでもあるという変わり種です

ノットの指揮で演奏に入りますが、マグヌス・ホルマンデルはノット ✕ 東響の確かなバックのもと、最弱音から最強音まで超絶技巧を駆使し変幻自在の演奏を繰り広げ、聴衆を圧倒しました

満場の拍手の中、カーテンコールが繰り返されましたが、ホルマンデルはクラリネットを吹きながら登場、ステージ中央で、ホーカン・ヘルストレーム「Valborg」を鮮やかに演奏、再び大きな拍手に包まれました

     

プログラム後半はデュリュフレ「レクイエム 作品9」です この曲はモーリス・デュリュフレ(1902-1986)が1941年から47年にかけて作曲、1947年11月2日にパリで初演されました 「レクイエム」とは「死者のためのミサ曲」のことです デュリュフレはグレゴリオ聖歌に基づくオルガン組曲として「レクイエム」を作曲しましたが、後に独唱、合唱、オーケストラのために作り変えました

曲は1.イントロイトゥス(入祭唱)、2.キリエ、3.ドミネ・イエス・クリステ(主イエス・キリストよ)、4.サンクトゥス(聖なるかな)、5.ピエ・イエス(慈悲深きイエスよ)、6.アニュス・デイ(神の子羊)、7.ルクス・エテルナ(永遠の光で)、8.リベラ・メ(私を解き放ってください)、9.イン・パラディスム(楽園に)から成ります

メゾソプラノ独唱の中島郁子は東京藝大、同大学院修了後、渡伊。第15回リッカルド・ザンドナーイ国際声楽コンクール・ザンドナーイ特別賞、第14回ロッカ・デッレ・マチエ国際声楽コンクール第2位ほか受賞多数 東京春祭「仮面舞踏会」ウルリカ等で活躍、各方面で高い評価を得ている 東京藝大准教授

青山貴は東京藝大、同大学院修了。二期会及び新国立劇場オペラ研修所修了。イタリアで研鑽を積む 新国立劇場、東京春祭などで活躍

ステージ後方の2階P席に東響コーラスの男女混声合唱120数名が入場し配置に着き、パイプオルガン席にも奏者がスタンバイします

ノットの指揮で演奏に入りますが、とにかく東響コーラスの合唱が素晴らしい この合唱団は暗譜で歌いますが、歌唱力は相当レヴェルが高いのではないかと思います

ハイライトは「ピエ・イエス」における中島郁子のメゾソプラノ独唱です 卓越したヴォイスコントロールにより美しく深いメゾで「慈悲深きイエスよ、永遠の安息を授けてください」と歌い上げました 1度しか出番がなかったのが残念なくらいでした 今月3日の「東京藝大 うたシリーズ」における熱唱を思い出しました

青山貴は力強い歌唱で説得力がありました

満場の拍手とブラボーの中、カーテンコールが繰り返されました

     

     

     

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読売日響が公式サイトで「2025-2026シーズン」のラインナップを発表 / 藝大合唱定期演奏会でドヴォルザーク「スターバト・マーテル」を聴く

2024年11月09日 00時01分04秒 | 日記

9日(土)。読売日響が公式サイトで「2025-2026シーズン」のラインナップを発表しました ①定期演奏会(サントリーホール:全10回)、②名曲シリーズ(同・同)、③土曜/日曜マチネーシリーズ(東京オペラシティ/東京芸術劇場:同)、④横浜マチネーシリーズ(横浜みなとみらいホール:全8回)の各プログラムは以下の通りです

     

     

①定期演奏会では、5月の尾高忠明指揮によるブルックナー「交響曲第9番」、6月のヴァイグレ指揮・反田恭平によるプロコフィエフ「ピアノ協奏曲第1番」他、9月のケント・ナガノ指揮によるマーラー「交響曲第7番」、10月のヴァイグレ指揮によるショスタコーヴィチ「交響曲第15番」他、2月のヴァンツアーゴ指揮によるブルックナー「交響曲第7番」他、3月の鈴木優人指揮によるバッハ「マタイ受難曲」といったプログラムに興味を引かれます

②名曲シリーズでは、6月のヴァイグレ指揮・ハーデリヒによるチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」他、7月のカンブルラン指揮  リーズ・ドゥ・ラ・サールによるガーシュイン「ピアノ協奏曲」他、8月のヴァルチュハ指揮によるマーラー「大地の歌」他、1月のヴィグレ指揮によるブラームス「交響曲第3番」他、2月のハサン指揮によるマーラー「交響曲第1番」他といったプログラムが魅力的です

③土曜/日曜マチネーシリーズでは、5月の川瀬賢太郎指揮・阪田知樹によるラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」他、1月のヴァイグレ指揮ファウストによるシューマン「ヴァイオリン協奏曲」他、2月の上岡敏之によるラヴェル「ボレロ」他といったプログラムに興味があります なお、このシリーズは東京芸術劇場の改修工事(2024年9月30日から2025年7月末まで)に伴い、4月から8月までの5公演は東京オペラシティコンサートホールで、10月から翌年3月までの5公演は東京芸術劇場コンサートホールで開催されます このため当シリーズの年間会員券はWEBでの受付をせず、電話での受付とするとしています

なお、全シリーズとも チケット料金を約10パーセント値上げするとしています   どこのオーケストラも値上げラッシュですね 根を上げてしまいます

ということで、わが家に来てから今日で3588日目を迎え、ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、ウクライナ軍が越境作戦を展開するロシア南西部クルスク州で、北朝鮮兵の一部がロシア軍側で戦闘に参加し、すでに犠牲者が出ていると述べた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     北朝鮮兵にとって 祖国で餓死するのも 異国で戦死するのも 無駄死には変わらない

         

昨日、夕食に「サーロインステーキ」を焼きました あとはエノキダケと人参のスープです。たまにはステーキもいいですね 野菜類はお皿に乗せて洗い物を少なくしました

     

         

昨夜、東京藝大奏楽堂で藝大定期「第425回 合唱定期演奏会」を聴きました プログラムはドヴォルザーク「スターバト・マーテル 作品58」です 出演はソプラノ=河野ちはる、アルト=折口りの、テノール=野中裕太、バス=及川泰生、合唱=東京藝大音楽学部声楽科学生、管弦楽=藝大フィルハーモニア管弦楽団、指揮=山下一史です

この曲のCDを持っていないので予習ができず、ぶっつけ本番で初めて聴くことになりました 自席は1階23列11番、左ブロック左通路側です。1階席にかなりの聴衆が入っています

     

ドヴォルザーク「スターバト・マーテル 作品58」はアントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)が30代半ばの1876年から翌77年にかけて作曲、1880年にプラハで初演されました

より正確に書くと、ドヴォルザークは1875年9月21日に長女ヨゼファを亡くします その翌年の1876年2月19日から本作のスケッチに取りかかっています ところが翌1877年8月には次女ルジェナが死去、さらに9月には三男のオタカルが天然痘に罹り死去するという最大不幸に見舞われます ドヴォルザークがこうした試練を乗り越えて本作を完成したのは1877年11月13日でした 1880年12月23日にプラハで初演された本作は大成功を収め、その後も欧米各地で演奏され、まさしくドヴォルザークの出世作となったのでした

ところで、タイトルの「スターバト・マーテル」は「御母はたたずんでいた」という意味のラテン語で、その詩は13世紀初めに創設された修道会「フランシスコ会」に起源を持つと考えられています 磔刑に処されたイエスの十字架のもとで、悲しみに暮れてたたずむ聖母マリアを描いています

作品は第1曲:四重唱と合唱、第2曲:四重唱、第3曲:合唱、第4曲:バス独唱と合唱、第5曲:合唱、第6曲:テノール独唱と合唱、第7曲:合唱、第8曲:二重唱(ソプラノとテノール)、第9曲:アルト独唱、第10曲:四重唱と合唱から成ります

ステージ後方に男女混声コーラスが入場します ソプラノ80名、アルト31名、テノール25名、バス28名の総勢164名のコーラス陣は圧巻です

次いでオケのメンバーが入場します 弦楽器は12型で左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスという並び。コンマスは植村太郎、隣は澤亜樹というダブルトップ態勢を敷きます。パイプオルガン席にオルガン奏者がスタンバイします

独唱の4人が山下一史とともに入場し、さっそく演奏に入りました

     

全体の演奏を聴いた印象は、ドヴォルザークが30代半ばに作曲した作品ということで、まだ豊かな民俗色が前面に出た音楽ではなく、純粋な宗教曲といった印象を受けました それにしてもドラマティックな曲です 特に最後の第10曲の後半における力強いアーメン・フーガは圧巻で、一方 その後の清らかな音楽は亡き子供たちの魂の浄化を表しているようで、静かな感動を呼びました

ソプラノ独唱の河野ちはるは大分県出身。国立音楽大学でクラリネットを専攻し卒業した後、東京藝大で声楽に転向したという経歴の持ち主で、現在同大学院修士課程に在籍中 透明感のある美しい歌唱で、声が良く伸びます

アルト独唱の折口りのは愛知県出身。東京藝大卒。現在 同大学院音楽研究科声楽専攻修士課程2年に在籍中 2024年度宗次エンジェル基金奨学生 声に力があり魅力的な声質と素直な歌唱の持ち主です

テノール独唱の野中裕太は東京藝大声楽科卒。現在 同大学院音楽研究科声楽専攻修士3年に在籍中 頭のてっぺんから抜ける高音が魅力です

バス独唱の及川泰生は岩手大学を卒業後、東京藝大声楽科を経て、現在 同大学院声楽専攻2年に在籍中 どちらかというと、明るめのバスで声が良く通ります

総勢164名による東京藝大音楽学部声楽科学生の混声合唱は迫力がありました

山下一史指揮 藝大フィルハーモニアは渾身の演奏で歌手陣、コーラス陣を支えました

19時開演のこの日の公演は、満場の拍手の中20時26分に終演しました 初めて聴いた「スターバト・マーテル」でしたが、この日の真摯な演奏を聴いて、この曲が好きになりました

         

今日は東京交響楽団の「第726回 定期演奏会」を聴くため、サントリーホールに出向きます

     

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日本フィル「2025年9月 ~ 2026年3月シーズン」のラインナップ発表 ~ 6か月の変則スケジュール / 柚月裕子著「ミカエルの鼓動」を読む / 朝日・吉田編集委員の音楽関連記事

2024年11月08日 00時03分18秒 | 日記

8日(金)。昨日の朝日新聞夕刊の第2・3面の文化関係記事を見て、おやっと思いました 掲載されている音楽・演劇関連記事8本のうち4本がクラシック音楽関係です おやっと思ったのは、4本のうち3本が編集委員・吉田純子さんの執筆による記事だったからです

1本は「『改変』オペラがあぶり出したもの ~ 原典に忠実足れ  求める日本」というタイトルの二期会「影のない女」のペーター・コンビチュニーの演出に関する記事  2本目は「仲間と語り合う時間  音楽豊かに ~ 神奈川にアカデミー開校  バイオリニストの白井圭」というタイトルのインタビュー記事   3本目は「好奇心揺さぶる集大成『ばらの騎士』 ~ ジョナサン・ノット&東響  演奏会形式で」というタイトルのインタビュー記事です

どれも仕事と言えば仕事ですが、あまりにも一人の人間に集中しすぎているのではないか、と思うのです 「働き方改革」と言われる中、どうなのよ 別の言葉で言えば、朝日には他に同じようなクオリティの記事が書ける人はいないのか?ということです

「コンサート評」に限って言えば、仕事としてコンサートを聴いて批評を書かなければならないのは苦痛だろうな、と思います 自分が聴きたいコンサートだけなら良いけれど、依頼主からの要請で聴かなければならない公演もあるでしょう そんな公演を聴いても楽しくないだろうと思います その点、毎日のように仕事の一環としてコンサートを聴いている吉田純子さんに同情します やっぱり、好きなコンサートを聴いて好き放題 感想を書いている方が、給料はもらえませんが、気楽でいいと思います

ということで、わが家に来てから今日で3587日目を迎え、5日投開票の米大統領選は共和党のトランプ前大統領が当選確実となり、翌6日 民主党のハリス副大統領は敗北を宣言した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     犯罪者も大統領になれる米国は 民主主義の鏡だね  その結果は独裁主義の復活だが

         

昨日、夕食に「野菜とひき肉のドライカレー」「生野菜とアボカドとモッツアレラチーズのサラダ」を作りました ドライカレーは時々作りますが、目玉焼きが合います

     

         

日本フィルは公式サイトで定期演奏会のシーズン開始月変更とラインナップを発表しました 同フィルは2026年に創立70周年を迎えるのを契機に現行制度の見直しを図るとしています 告知の概要は以下の通りです

①2026~2027シーズンより、東京・横浜定期演奏会の開催期間を従来の「9月~翌年7月」から「4月~翌年3月」に変更する。

②これに伴い、2025年9月~2026年3月を「移行期間」とし、東京・横浜とも6回の定期演奏会を開催する。

③横浜定期演奏会の開演時間を2025年9月以降「17時開演」から「15時開演」に変更する。

2025~2026シーズン(6か月間・全6回)のラインナップは以下の通りです

     

なかなか意欲的なラインナップです 現在、私が在京オーケストラで定期会員になっていないのは日本フィルとパシフィック・フィルだけですが、読売日響の2025~2026シーズンのラインナップがまだ発表されていないので、新たに日本フィルの定期会員になるという決断はできません 早く発表してくれないかと熱望しています

         

柚月裕子著「ミカエルの鼓動」(文春文庫)を読み終わりました 柚月裕子は1968年 岩手県生まれ。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー 13年「検事の本懐」で第15回大藪春彦賞を受賞。16年「孤狼の血」で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編賞部門)を受賞 18年「盤上の向日葵」で「2018年本屋大賞」第2位 他に「検事の信義」「慈雨」「あしたの君へ」「月下のサクラ」など著書多数

北海道の北中大病院で手術支援ロボット「ミカエル」を駆使した心臓病の難手術を成功させ続ける循環器第二外科科長(教授)の西條泰己は、院内での地位を不動のものにしていた しかし病院長の曾我部は天才的な心臓外科医・真木一義をわざわざドイツから招聘する 僧帽弁閉鎖不全症という難病の再発を起こした12歳の少年・白石航の手術方針を巡り、「ミカエル」による最先端医療か従来の術式かで2人は激しく対立する そんな中、「ミカエル」をめぐり深刻な問題が浮上する

     

医療という重いテーマを扱っていますが、いつもながら未知の領域に対する綿密な取材力に感嘆します 本書では柚月裕子特有の”一途に生きようとする人間の姿”が書かれています 西條は医療行為の将来を見据え、手術用ロボットの活用と普及により安全・確実に手術を行うことを第一に考えています 一方、真木は従来の人の手により迅速・確実に手術を行うことを考えています 2人に共通するのは「目の前の患者の命を救いたい」という強い思いです

この作品では、「医療ミス」や「手術用ロボットの欠陥」について触れていますが、現代の医学はそうしたミスを重ね、乗り越えながら”進歩・発展”してきたのではないか、と思います

本書に出てくる「ミカエル」とは、北中大病院の中庭の温室にある「背中に羽が生えた天使の像で、右手に剣、左手に天秤を持っている。直立した姿勢で、剣を天に向け、天秤を緩やかに下げている」という彫刻です Wikipediaによると、「ミカエルは旧約聖書からユダヤ教、キリスト教、イスラム教へ引き継がれ,教派によって異なるが、三大天使、四大天使、七大天使の一人であると考えられてきた」とのことです 白石少年の初診療のとき、西條は真木に「おまえは神か?」と問いかけますが、真木は「もちろん違う。あんたも違う。俺たちは下僕だ」と答えます。これは、もちろん「医療関係者は神でも天使でもなく、”医学の神のしもべ”、あるいは”患者のしもべ”に過ぎない」ということを表しているように思います

2021年に刊行された本書は第166回直木賞候補となったとのことですが、分かるような気がします 540ぺージの大作ですが、面白さにページをめくる手が止まりませんでした 広くお薦めします

         

今日は東京藝大奏楽堂で開かれる「藝大合唱定期演奏会」のドヴォルザーク『スターバト・マーテル』」を聴きに行きます

     

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明日から「METライブビューイング2024-25」始まる ~ 第1作はオッフェンバック「ホフマン物語」 / レイ・ブラッドベリ「華氏451度」、米澤穂信「米澤屋書店」、筒井康隆「敵」他を買う

2024年11月07日 00時02分40秒 | 日記

7日(木)。わが家に来てから今日で3586日目を迎え、ロシアのプーチン大統領は5日、着任した外国大使から信任状を受け取る奉呈式での演説で、日本を含む西側諸国に「対立は求めていない」と述べ、長期化しているウクライナ侵略については「ロシアは交渉に応じる用意がある」と改めて述べた というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     まるで トランプが米大統領選で当選するのを 見通した発言のように思えるんだが

         

昨日、夕食に「真鯛、カンパチ、カツオのカルパッチョ」を作りました カルパッチョは初挑戦でしたが美味しくできました

     

         

明日から「METライブビューイング2024-25」が始まります 11月8日(金)から2025年7月17日(木)まで全8作が順次上映されます

     

全8作のラインナップは下のチラシの通りです

     

     

今回のシーズンの特徴はこれまで現代オペラが複数上演されていたのに対し1作しかない「名曲路線」であること そして、ヴェルディ「アイーダ」とリヒャルト・シュトラウス「サロメ」が新演出により上演されることです とくにアイーダはこれまでのフランコ・ゼフィレッリによる絢爛豪華な演出に代えてマイケル・メイヤーの演出となるので、どうなるのか興味が尽きません

     

上記にある通り、ムビチケカード3枚セットが発売されています チケット代は@3,700円ですが、ムビチケ3枚セットは9,600円(@3,200円)と格安になっています さっそく新宿ピカデリーで買い求めました

第1作のオッフェンバック「ホフマン物語」は明日から上映されますが、明日から3日連続コンサートがあるので、来週火曜日あたりに観に行こうと思っています

     

         

手元の本が残り1冊になったので、いつも通りジュンク堂書店池袋本店で6冊購入しました

1冊目はレイ・ブラッドベリ「華氏451度」(ハヤカワ文庫)です 先日読んだばかりの三宅香穂著「ずっと幸せなら本なんて読まなかった」で「つまらない映画を観た後で読む本」として紹介されていた作品です

     

2冊目は米澤穂信著「米澤屋書店」(文春文庫)です 著者が現在に至るまで読んできた本を巡るエッセイや書評などが収録されているようです

     

3冊目は筒井康隆著「敵」(新潮文庫)です どこから敵が来るのでしょうか? 本の帯に「哀切の傑作長編小説」とあります

     

4冊目はジェニファー・L・スコット著「フランス人は10着しか服を持たない」(大和書房)です 「上質なものを少しだけ持ち、大切に使う」極意が書かれているようです

     

5冊目は松浦弥太郎著「即答力」(朝日文庫)です キャッチコピーに「チャンスを逃さず自身の世界を広げる43のコツ」とあります

     

6冊目はエリコ・ロウ著「時代をこえて伝わる世界のことわざ108」(三笠書房)です 「求めなければ、見つからない」ほか世界のことわざが集められています

     

本を買い終わって外に出たのが11時半でした。そういえば、9月の芸劇ブランチコンサート「名曲リサイタル・サロン」で石田組 組長が「生姜焼き定食が美味しかった」と語っていた「キッチンABC」がジュンク堂の脇道にあったなと思い、ランチを取ることにしました

     

11時半の時点で店内はいっぱいで10人ぐらいが外に並んでいました 並んでいたらメニュー表を渡されたので「生姜焼き定食」を探したのですが あ・り・ま・せ・ん お店の人に聞いてみたら「『豚からし焼き肉定食セット』はありますが『生姜焼きセット』はありません」と言われました マジか 組長 ないってよ   たぶん、組長は正確なメニュー名を覚えていなかったのではないかと思います 生姜ないので日替り定食を注文しました 和風カレー味ハンバーグとミートコロッケ(デミソース)のセットでライス・豚汁付き880円です リーゾナブルで とても美味しかったです ジュンク堂に来た時のランチは「キッチンABC」で決まりです

     

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相次ぐコンサート会場の休館 ~ 東京文化会館は2026年5月から2028年度中まで休館 = 日経の記事から / 西林克彦著「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」を読む

2024年11月06日 00時01分26秒 | 日記

6日(水)。昨日の日経朝刊第2面のコラム「迫真」は「文化インフラ決壊前夜2 箱を失うバレエ・オペラ」という見出しの記事でした 記事を超略すると以下の通りです

「東京文化会館は2026年5月から28年度までの休館を発表した 創立70年超の老舗・松山バレエ団は同会館が活動拠点であることから、その間公演を行う代替会場を探さなければならない 松山バレエ団にとって、こうした事態は初めてではない。傘下の松山バレエ学校が年2回の発表会を行ってきた新宿文化センターが23年に長期休館に入った際も、会場探しに追われた 舞台の広さと収益性のバランスがいい2千席の中規模ホールは、バレエやオペラ、クラシックコンサートなどの需要が高い しかし、横須賀芸術劇場(約1800席)、神奈川県民ホール(約2490席)と休館が相次ぐ グランドオペラジャパン代表理事・山口毅は『東京文化会館が休館する26年以降、首都圏のオペラ公演は3割減になるだろう』と予測する 代わりに新設ラッシュが続くのは1万人を超える規模のアリーナだ。都心部では有明アリーナ(江東区・22年)、Kアリーナ(横浜市・23年)などが次々にオープンした。神奈川県民ホールの総支配人・眞野純は『安泰なのはポップスの大箱公演くらい ホール利用率が80%超と高止まりしており、全公演に代替会場を割り当てるのは不可能だ。大掛かりな舞台装置や音響空間が必要なバレエ、オペラなどは、今後特に厳しい立場に置かれる』と予測する

コンサート会場の休館については、何度かこのブログでも取り上げてきましたが、東京文化会館など3館を加えると以下の通りとなっています

①「東京芸術劇場」(池袋)は設備更新工事のため2024年9月30日から2025年7月末まで休館

②「東京オペラシティコンサートホール」は各種設備改修のため2026年1月1日から6月30日まで休館

③「ティアラこうとう(江東区公会堂)」は大規模改修工事のため2026年1月から2027年7月まで休館

④「東京文化会館」は大規模改修工事のため2026年5月7日から2028年度中まで休館

⑤「横須賀芸術劇場」は特定天井改修工事のため2024年7月から2026年8月頃まで休館

⑥「神奈川県民ホール」は2025年4月から休館(期間は未定)

 (以上、各施設のホームページによる)

上記の各ホールのリニューアル工事日程を見る限り、上の記事にある通り2026年以降、オペラを中心に公演数の激減が予想されます 各施設同士で話し合って工事の時期をずらすとか調整できないものでしょうか

なお、「サントリーホール」は2022年4月4日から5月2日まで休館し、改修工事を済ませています また、「NHKホール」は2021年3月から22年6月まで休館し耐震工事・設備更新等を済ませています

ということで、わが家に来てから今日で3585日目を迎え、米大統領選は接戦のまま5日の投開票日を迎えたが、勝敗を左右する激戦7州は僅差で競っており、結果判明までに数日を要する可能性がある  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     この分だと 負けた方は容易に認めないだろうから 法廷闘争まで行くかもしれない

         

昨日の夕食は、前日の牛肉が余ったので「肉じゃが」でも作ろうかと思ったのですが、娘が外食だったので そのまま「焼き肉」にして「生野菜とモッツアレラチーズのサラダ」と一緒に食べました 究極の手抜き料理ですが、たまにはいいでしょう

     

         

西林克彦著「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」(光文社新書)を読み終わりました 西林克彦は1944年生まれ。愛媛県松山市出身。東京工業大学理工学部、東京大学大学院教育学研究科博士課程中退。現在、宮城教育大学教育学部教授。著書に「『わかる』のしくみ」「間違いだらけの学習論」などがある

     

著者は「はじめに」の中で「本書は文章をよりよく読むためにはどうすればよいのかを書いたものである 実は、よりよく読もうとする際に、私たち読み手にとって最大の障害になるのが、自分自身の『わかった』という状態である 本書ではそこからの脱出法の見当もつけていきたい」と述べています

この本は次の各章各項目から構成されています

第1章「『読み』が深まらないのはなぜか?」

  ①短い物語を読む

  ②「わからない」と「わかる」と「よりわかる」

  ③「わかったつもり」という困った状態

第2章「『読み』における文脈のはたらき」

  ①文脈がわからないと「わからない」

  ②文脈による意味の引き出し

  ③文脈の積極的活用

第3章「これが『わかったつもり』だ」

  ①「全体の雰囲気」という魔物(その1)

  ②「全体の雰囲気」という魔物(その2)

  ③「わかったつもり」の手強さ

第4章「さまざまな『わかったつもり』」

  ①「わかったつもり」の”犯人”たち

  ②文脈の魔力

  ③ステレオタイプのスキーマ

第5章「わかったつもり」の壊し方

  ①「わかったつもり」からの脱出

  ②解釈の自由と制約

  ③試験問題を解いてみる

  ④まとめ

著者は「第1章『読み』が深まらないのはなぜか?」の「①短い物語を読む」で、小学2年生の教科書「新しい国語」(東京書籍・平成元年度版)に収録された、くぼたかしの「もし  もし  お母さん」という物語(全5ページ)を読んで、後で「どんな物語だった」か反芻するよう求めます 内容は「いなくなった3匹の子猫のことを心配した母猫に、それぞれの子猫から電話があり、大丈夫そうなので安心した話」と集約される物語です ここで、著者は「わからない点はなかったか?」を問います 小学2年生の教科書ですから ひらがなが多く、わからない単語も、わからない文法も当然ありません ここで著者は「この物語をもっとわかりたいと思うか?」と問います 「それでは、お母さん猫は、どの子猫と、どんな話をしていたかを答えなさい」と問われると明確には答えられないのではないか、と述べます 書かれている内容から判断して、「それぞれの子猫はオスかメスか、どんな性格かなどを個別的に思い出す(個体識別)ことが出来るだろうか?」と問いかけます そして「なんとなくわかったつもりで先を読み飛ばしている」ことが多いのではないか、と指摘します 著者は「わかったつもり」の状態は放っておくと解釈のレヴェルは深化しないままであると述べます

第3章「これが『わかったつもり』だ」の中の「『全体の雰囲気』という魔物(その1・その2)」では、小学6年生の教科書「新しい国語」(東京書籍・平成8年度版)に収録された、長沢和俊の「正倉院とシルクロード」という文章(全7ページ)を読んで、あとで質問に答えるように求めます 著者はここでも、「わからない点はなかったか?」を問います 調査対象の大学生の8割が「とくにない」と答えたそうです。「正倉院が『世界の宝庫』と呼ばれているのはなぜだと思うか」との問いには「世界の品物が所蔵されているから」と回答した人たちが94%だったそうです。ところが、「正倉院に収められている宝物・品物の中でこの文章で具体的に挙げられていた宝物・品物のうち、シルクロードを通ってイランからやってきたものは何点ぐらいあったか」など個別具体的な質問には「半分前後」の回答が多かったそうですが、「実は1つしかなかったと正確に読んだ人」は88人中1人しかいなかった、といいます ほかの宝物・品物は文脈からすると「イランからやってきた確証はない」とのことです これは実際に上記の「国語」の文章を読んで、後で振り返ってみると分かりますが、正確に答えることは非常に困難です まさに「全体の雰囲気」から「イランからやってきたに違いない」と思い込んでしまった結果です

それでは、どうしたら良いのかを述べたのが「第5章『わかったつもり』の壊し方」です

著者は「まず、自分は『わかっている』と思っているけれど、『わかったつもり』の状態にあるのだ、と明確に認識しておくことが必要です」と述べます そして、より細かな文脈を駆使して「わかったつもり」に当たれば効果があること、どのようなときに「わかったつもり」になりやすいかを知っておくこと、「読み」を深める上で読み手の「想像・仮定」が欠かせないが、それには整合性という条件が存在することを理解しておくことが重要であると述べています

ちょっと分かりずらいかもしれませんが、実際に本書を読んでいただければ ある程度理解できると思います

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三宅香帆著「ずっと幸せなら本なんて読まなかった 人生の悩み・苦しみに効く名作33」を読む ~ 「悔しいとき」「仕事に行きたくないとき」「孤独を感じたとき」など症状別に本を紹介する

2024年11月05日 00時07分27秒 | 日記

5日(火)。大学のOB会に出席するため一時帰省していた息子が、神保町の古本市で古本を何冊か仕入れてきました 私が読み終わった本が何冊か溜まっていたので、興味がある本があれば持っていっていいよ、と伝えたら、ガブリエル・ガルシア・マルケス著「百年の孤独」をはじめ何冊かを選びました 古本と合わせると相当重くなったので、後日郵送してあげることにしました 息子は昨日午前の新幹線で白石に戻りましたが、本好きは遺伝かもしれません

ということで、わが家に来てから今日で3584日目を迎え、千葉県四街道市の住宅に侵入し、住人の男性に殴るなどの暴行を加え 現金1万3千円を奪った疑いで、千葉県警は3日、埼玉県志木市の自称会社員、金子雄汰容疑者(28)を強盗致傷の容疑で逮捕したが、同容疑者は「借金が増え、生活が困窮し、現金欲しさにやった」と容疑を認めている  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     借金を返すためなら強盗をやってもいいのか? 1万3千円で一生を棒に振るんだぞ

         

昨日、夕食に「ハッシュドビーフ」と「生野菜とアボカドとモッツアレラチーズのサラダ」を作りました 「ハッシュドビーフ」は久しぶりに作りましたが美味しかったです     

     

         

三宅香帆著「ずっと幸せなら本なんて読まなかった  人生の悩み・苦しみに効く名作33」(幻冬舎新書)を読み終わりました    三宅香帆は文筆家、書評家。1994年 高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了 (株)リクルートで勤務する傍ら執筆活動を続けるが、「本を読む時間が欲しい」として独立 小説、古典文学、漫画、ドラマほかエンタメなどの幅広い分野で批評や解説を手掛け、活躍中 「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」「人生を狂わす名著50」「文芸オタクの私が教えるバズる文章教室」「娘が母を殺すには?」など著書多数

     

この作品は2019年9月に幻冬舎から刊行された「副作用あります!? 人生おたすけ処方本」に加筆・修正したものです つまり、著者本人曰く”25歳の小娘”の時に書いたものです

本書は次の各項目から構成され、それぞれの項目に沿った本が紹介されています

1.対処療法編 ~ この苦しみ、とにかくどうにかしたい

2.予防編 ~ 未然に防ぐ、これ大事!

3.変身編 ~ 自分を脱ぎ捨て、劇的に変わりたい!

4.滋養強壮編 ~ この1冊で、バッチリ元気!

この大見出しだけではイメージが湧かないと思うので、具体的にいくつかご紹介します

例えば「1.対処療法編 ~ この苦しみ、とにかくどうにかしたい」の中では、次のような作品(一部)が紹介されています

①怒られた日の夜に読む本 = 豊島ミホ著「夏が僕を抱く」

②女になりたいときに読む本 = 太宰治著「女生徒」

③不当な扱いを受けたときに読む本 = エミリー・ブロンテ「嵐が丘」

④友達とギクシャクしているときに読む本 = 辻村深月著「凍りのくじら」

⑤面白くない映画を観たあとに読む本 = レイ・ブラッドベリ著「華氏451度(新訳版)」

それぞれについて、なぜそのテーマにその本を紹介したかの理由が書かれています

「1.対処療法編」の中で興味深かったのは「ひとめぼれしたときに読む本」として紹介された浅田彰著「構造と力 記号論を超えて」です ここで著者が主張したいのは「難しい古典とか学術書とか、難しいと思っても、とりあえず読んでおく」ことの大切さです その理由は、「自分がむかし わけ分からんと思いつつ一度でも手に取った本って、もう一度読むのも、そこまで億劫じゃないから」だといいます つまり、この手の本は「難しい本を読んで背伸びをするモチベーションがあるときしか読めない」から読んでおくべきだ、という主張です これは著者が、これまで生きてきた人生よりもこれから生きる人生の方が圧倒的に長い25歳だからこそ言えることだと思います

また、「面白くない映画を観たあとに読む本」として紹介されたレイ・ブラッドベリ著「華氏451度(新訳版)」の処方として、著者は次のように書いています

「面白くない本を読んだあとと面白くない映画を観たあとほどの地獄はありませんよね が、そういうときこそディストピア文学を読みましょう 『本が燃やされる』世界で生きるくらいなら、面白くない映画のひとつやふたつ許してやるか、と思いません?」

どうやらこの本は「舞台は国家が読書を禁じ、見つけた本は焼かれる未来社会」のようです 面白そうなので読んでみたくなりました

著者は同じレイ・ブラッドベリによる「霧笛」という短編小説を「海に行く前日に読む本」として紹介していますが、興味深いことが紹介されています 日本発の古典的映画として有名な「ゴジラ」の元ネタがこの「霧笛」という小説だというのです 「舞台は、とある町の夜の海。そこにはたった1匹で海の底に住む怪物がいる。それはこの町の霧笛に惹かれ灯台に近寄って来る。かつて聞いていた仲間の鳴き声とそっくりだから」という内容とのことです これが1953年に映画「The Beast from 20,000 Fathoms」となり、それが日本で「ゴジラ」として映画化されたというのです 初めて知りました

著者は30歳となった2024年、「新書版あとがき」に次のように書いています

「正直、今の私だったら、こんなこと書かないなあ と、読み返していて思うことだらけの本書でした あくまでも2019年段階の倫理観で書いたものなので、もしかすると今読むあなたにとっては、間違っていると感じることも多いかもしれない

間違っているとは思わないものの、やはり人生経験が浅いなあ、と思う点が少なからずありました それでも、彼女の読書量とジャンルの広さには脱帽せざるを得ません それと、若さならではの”怖いもの知らず”の新鮮な感性は素晴らしいと思います

特に若い読者、もちろん気持ちが若いシニアの読者にもお薦めします

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「東京藝術大学うたシリーズ2024 ~ 愛をうたう」を聴く ~ 木下美穂子、櫻田亮、中島郁子、甲斐栄次郎、佐々木典子、萩原潤にブラボー!

2024年11月04日 00時01分08秒 | 日記

4日(月)。宮城県白石市に単身赴任している息子が、大学のゼミのOB会で一時帰省しました 土曜日の夜に東京駅八重洲口近くの居酒屋で開かれたB会に参加し、昨日は家族3人揃ったので夕食にピザ・パーティーをやりました 本当は昨日夜に白石に戻る予定でしたが、3連休のど真ん中で新幹線が激混みのためチケットが取れず、今日の午前中に戻ることになりました

     

ということで、わが家に来てから今日で3583日目を迎え、10月1日にプレオープンした中国の水族館「小梅沙海洋世界」の目玉であった体長18メートルのジンベエザメが、実はロボットだったことが判明、SNSでは怒りと呆れの声が相次いだ  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     中国で何が起こっても驚かない 嘘は大きいほどバレないというけどバレちゃったね

         

昨日、東京藝大奏楽堂で「東京藝術大学うたシリーズ2024 ~ 愛をうたう」をきました 出演は東京藝大音楽学部声楽科の教授、准教授で以下の方々です

木下美穂子(ソプラノ)、佐々木典子(同)、菅英三子(同)、平松英子(同)、手嶋眞佐子(メゾソプラノ)、中島郁子(同)、櫻田亮(テノール)、吉田浩之(同)、甲斐栄次郎(バリトン)、萩原潤(同)、福島明也(同)です

なお、ピアノ伴奏は石野真穂、木邨清華、髙木由雅、千葉かほるです

自席は1階23列11番、左ブロック右から2つ目です 会場は1階席を中心にかなり入っています 藝大主催公演ということもあってか、若い聴衆、とくに女性客が多いように思いました ちなみに自席の両隣は若い女性でした

     

プログラムと演奏者は以下の通りです

1.モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」よりフィガロのアリア「もう飛ぶまいぞこの蝶々」= 甲斐栄次郎 ✕ 石野真穂

2.同:同よりケルビーノのアリエッタ「恋とはどんなものなのか」= 中島郁子 ✕ 石野真穂

3.同:同より伯爵夫人のレチタティーヴォとアリア「楽しい思いではどこに」= 菅英三子 ✕ 千葉かほる

4.S.ドナウディ:歌曲集「古典様式による36のアリア」より「ああ愛する人の」= 吉田浩之 ✕ 木邨清華

5.E.P.トスティ「可愛い口もと」= 同

6.ヒューゴー・ヴォルフ「メーリケ歌曲集」より「ある結婚式にて」「問わず語り」「コウノトリの知らせ」= 萩原潤 ✕ 木邨清華

7.ジョアッキーノ・ロッシーニ:オペラ「ラ・チェネレントラ」よりアンジェリーナとドン・ラミーロの二重唱「何か分からない優しさが」= 中島郁子 ✕ 櫻田亮 ✕ 髙木由雅

8.ジャコモ・プッチーニ:オペラ「蝶々夫人」より蝶々とスズキの二重唱「あの桜の枝を揺すって」(花の二重唱)= 木下美穂子 ✕ 手嶋眞佐子 ✕ 石野真穂

9.モーツアルト:オペラ「魔笛」よりパミーナとパパゲーノの二重唱「恋の痛みを知る人は」= 菅英三子 ✕ 福島明也 ✕ 千葉かほる

10.フェリックス・メンデルスゾーン「6つの二重唱」より「秋の歌」= 平松英子 ✕ 手嶋眞佐子 ✕ 髙木由雅

11.P.チマーラ「ストルネッロ」= 櫻田亮 ✕ 髙木由雅

12.ジョルジュ・ビゼー:オペラ「美しきパースの娘」よりセレナード「ひたむきなこの恋人の声に」(アンリのセレナード)= 同

13.C.サン・サーンス:オペラ「サムソンとデリラ」よりアリア「愛よ、かよわい私に力を貸して!」= 手嶋眞佐子 ✕ 千葉かほる

14.ジャコモ・プッチーニ:オペラ「トスカ」よりアリア「歌い生き、恋に生き」= 木下美穂子 ✕ 石野真穂

15.ガエターノ・ドニゼッティ:オペラ「ロベルト・デヴェリュー」よりサラとノッティンガム公爵の二重唱「私の夫はまだ戻ってこない」= 中嶋郁子 ✕ 甲斐栄次郎 ✕ 石野真穂

16.木下牧子:歌曲集「花のかず」より「竹とんぼ」= 平松英子 ✕ 髙木由雅

17.リヒャルト・シュトラウス「4つの歌」より「明日!」= 同

18.團伊玖磨「抒情歌」より「藤の花」= 福島明也 ✕ 千葉かほる

19.大中恩「五つの抒情歌」より「しぐれに寄する抒情」= 同

20.ロベルト・シューマン:歌曲集「ミルテの花」より「献呈」= 佐々木典子 ✕ 木邨清華

21.オットー・ニコライ:オペラ「ウィンザーの陽気な女房たち」よりフルート夫人のレチタティーヴォとアリア「急いでおいで、愉快ないたずら」= 同

上記の通り 歌われた曲が多いので、特に印象に残ったものに絞って感想を書くこととします

     

最も印象に残ったのは蝶々夫人とトスカを歌った木下美穂子です この人の歌は何度か聴きましたが、卓越したヴォイスコントロールによるリリカルな歌唱が感動を呼びました

同じくらい強く印象に残ったのはケルビーノ(フィガロの結婚)とアンジェリーナ(ラ・チェネレントラ)とサラ(ロベルト・デヴェリュー)を歌った中島郁子です 力強く良く伸びる美しいメゾソプラノで 存在感が抜群でした

佐々木典子はトリを歌うのに相応しい歌唱と演技力で聴衆を魅了しました シューマン「献呈」はリスト編曲によるピアノ独奏版を、松田華音の演奏で聴いて好きになった曲ですが、オリジナルの歌曲を聴けて良かったです

男性陣では、バッハ・コレギウム・ジャパンの常連歌手としてもお馴染みの櫻田亮が抜群の安定感で歌い上げました

甲斐栄次郎はウィーン国立歌劇場の専属歌手として10年間活躍した実績を背景に堂々たる歌唱力を発揮しました

萩原潤は新国立オペラでお馴染みの歌手ですが、今回の3曲のプログラムは皮肉な内容の歌詞を取り上げており、歌を聴きながら今年7月20日に東京シティ・フィル「ティアラこうとう定期演奏会」で萩原が歌ったオルフ「カルミナ・ブラーナ」の第13曲「私は悦楽郷の大修道院院長さまだ」の性格俳優的な歌唱を思い出しました

上記に取り上げなかった方々も、さすがは藝大の教師陣だと思わせる歌唱でした また、ピアノ伴奏の4人も 歌手に寄り添って素晴らしい演奏を繰り広げました

なお、アンコールにフェリックス・メンデルスゾーンのオラトリオ「エリヤ」より四重唱「いざ乾けるもの、ことごとく水に来たれ」が全員で歌われ、華やかに幕を閉じました

また、是非このような企画を取り上げてほしいと思います

     

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自然に包まれる音楽ホール ~ NIKKEIプラス1「何でもランキング」から / 「あの鐘を鳴らしたのはわたし」~ 「NHKのど自慢」の鐘を21年間鳴らした東京藝大卒・秋山さんの著書

2024年11月03日 00時02分49秒 | 日記

3日(日)文化の日。わが家に来てから今日で3582日目を迎え、米アリゾナ州のメイズ司法長官は1日、共和党の大統領候補トランプ前大統領が、共和党のリズ・チェイニー元下院議員に対し「小銃の標的にして、彼女がどう感じるか見てみようじゃないか」と発言したことについて、殺害の脅迫を禁止する州法違反に該当するか捜査中であることを明らかにした  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     銃撃の標的にされた経験者は語るってか 煽情的な発言をすれば支持者が喜ぶってか

         

昨日の日経の別刷り特集「NIKKEIプラス1」第1面の「何でもランキング」で「自然に包まれた音楽ホール」を取り上げていました 森林や海、湖のほとりなど自然の中にたたずむ音楽ホールの中から、夏の緑や冬の雪にも映える、自然と共生するクラシック音楽ホールを、建築家、音楽評論家、音楽雑誌編集者など7人がランク付けしています その結果は以下の通りです

第1位「八ヶ岳高原音楽堂」(長野県南牧村)=座席数 250席:雨の日には雨音、風の日には風の音

第2位「札幌コンサートホール Kitara」(札幌市)=座席数 2008席:秋冬は格別の美しさ

第3位「軽井沢大賀ホール」(長野県軽井沢町)=座席数 784席:ガラスの壁越しに生い茂る木々

第4位「新潟市民芸術会館」(新潟市)=座席数 1884席:緑化された卵型の屋上

第5位「草津音楽の森国際コンサートホール」(群馬県草津市)=座席数 608席:自然光美しい音楽の神殿

第6位「滋賀県立芸術劇場びわ瑚ホール」(滋賀県大津市)=座席数 1848席:琵琶湖一望のオペラの殿堂

第7位「旧東京音楽学校奏楽堂」(東京都台東区)=座席数 310席:日本最古の様式音楽ホール

第8位「七ヶ浜国際村」(宮城県七ヶ浜町)=座席数 577席:海の風景と豊かな緑

第9位「秋吉台国際芸術村」(山口県美弥市)=座席数 約300席:大理石の現代建築

第10位「鶴岡市文化会館」(山形県鶴岡市)=座席数 1120席:東北の山々を思わせる屋根

クラシック音楽無料情報誌「ぶらあぼ」やコンサートのチラシなどで地方のコンサートホールを見るたびに、「一度でいいから あのホールで聴いてみたい」と思うのですが、座席数が少ないホールほど交通手段として車が欠かせなかったり(運転免許証は返納した)、1泊しなければならなかったり、第一チケットを取るのが難しかったりと、いろいろなハードルがあってなかなか実現しません

そんなわけで、上記のホールでコンサートを聴いたことがあるのは上野公園の「旧東京音楽学校奏楽堂」だけです 本館は東京藝術大学音楽学部の前身である東京音楽学校の校舎として明治23年(1890年)に建築され、日本における音楽教育の中心的な役割を担ってきました 建物の老朽化から校舎を都外に移転する計画が持ち上がりましたが、昭和58年(1983年)に台東区が東京藝大から譲り受け、1987年に現在の地へ校舎を移築・復原し、「旧東京音楽学校奏楽堂」として一般への公開を開始しました 1988年には日本最古の様式音楽ホールを擁する校舎として重要文化財の指定を受けました 2018年にリニューアルオープンしました このホールの特徴は座席番号です。多くのホールは1列〇番、2列〇番・・・、あるいはA列〇番、B列〇番・・・という座席番号を振っていますが、ここは「あ列〇番、い列〇番・・・」というように「あいうえお順」になっています なにしろ滝廉太郎がピアノを弾き、山田耕筰が歌曲を歌った伝統的なホールですからね

     

JR上野駅から上野公園の噴水広場を横切って「東京藝大奏楽堂」に行く時、途中にある「旧奏楽堂」の前で、「えっ、ここじゃないの?」と迷っているお客さんを時々見かけますが、新しい「奏楽堂」は東京藝大の構内にあります 1998年に建設された座席数1100席のシューボックス型のホールで、天井可変装置により楽器や演奏形式に応じて最適な音響特性(残響時間)を実現しています

     

参考までに、上野公園の各施設を会場に3月14日から4月20日まで開かれる「東京・春・音楽祭2025」では、「旧東京音楽学校奏楽堂」を会場に「リヒャルト・シュトラウスの世界」(3月15日)、川口成彦「ミニピアノとの出会い」(4月19日)など4公演が、「東京藝大奏楽堂」を会場に「ザ・プロコフィエフ」(4月5日)がそれぞれ開かれます まだ行ったことのない方はこれを機会にコンサートを聴きに行かれてみてはいかがでしょうか

     

         

昨日の朝日朝刊の書評欄「サンキュータツオの『語る本』を読む」で、秋山気清著「あの鐘を鳴らしたのはわたし」(音楽の友社)が紹介されていました 書評によると、秋山さんは日曜昼の「NHKのど自慢」で2002年から23年までの21年間、あの鐘(チューブラーベル)を鳴らし続けたとのこと マーラー「交響曲第3番」などでも使われるお馴染みの鐘です 秋山さんは、な、なんと東京藝術大学音楽学部器楽科打楽器専攻を卒業し、帝国劇場オーケストラ、東京交響楽団など数々のオーケストラで打楽器奏者として活躍したそうです 「冒頭の鐘を鳴らすテンポは早歩きをする♪≒126となっていて、それより速くても遅くてもいけない。なぜなら、鐘の後で流れるオープニングの音楽が♪≒126だから」とのことです さらに「不合格は鐘ひとつかふたつ。合格は鐘11音 たとえ鐘ふたつであっても、秋山さんが合格でいいのではと思った場合は、「ド」と「レ」の間を結構開けて、歌った人の悔しさを一緒に享受するようにしていたそうです さらに「オープニングとエンディングでは柔らかい音が広がっていく革製のヘッドのハンマー、金属的な音がする樹脂製のヘッドのハンマーは合否判定にと、用途に合わせたハンマーを日本全国に携行した🔨」といいます 深い「プロフェッショナル ~ 仕事の流儀」ですね

     

「NHKのど自慢」はほとんど見たことはありませんが、数か月前にたまたま見た時に、NHK交響楽団の打楽器奏者・黒田英実さんが鐘を叩いていて、「いよいよ黒田さんも鐘叩き専門にトラバーユしたか!」と勘繰りましたが、どうやら一時的なお仕事だったようです N響のPRの一環でしょうが、それにしても、いまのN響の楽員は何でもや(らされ)るんだな、と思いました

         

今日は東京藝大主催公演「愛を歌う」を聴くため東京藝大奏楽堂に行きます

     

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赤松利市著「下級国民A」を読む ~ 東日本大震災後の除染作業に従事した著者による格差社会・相対的貧困を描いたドキュメンタリー

2024年11月02日 00時23分54秒 | 日記

2日(土)。わが家に来てから3581日目を迎え、ブリンケン米国務長官は31日の記者会見で、ロシアに派遣された北朝鮮軍が数日内にウクライナとの戦闘に加わるとの見通しを示したが、ロシア国内に1万人規模の北朝鮮兵が入っており、戦闘行為に関わればウクライナの「正当な軍事標的になる」と明言した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     金正恩は ロシアに北朝鮮軍の兵士を売り渡したお金で ICBMの開発を進めているね

         

昨日の夕食は、隔週金曜日のローテにより「鶏の唐揚げ」を作りました いつも通り外カリカリ中ジューシーに仕上がりました 唐揚げにはビールということで、本当は腰痛に良くないのですが、飲みました 唐揚げもビールも美味しかったです

     

         

赤松利市著「下級国民A」(幻冬舎文庫)を読み終わりました 赤松利市は1956年香川県生まれ。2018年「藻屑蟹」で第1回大藪春彦新人賞を受賞しデビュー 20年「犬」で第22回大藪春彦賞を受賞。他に「鯖」「アウターライズ」「白蟻女」「東京棄民」などがある

     

本書のタイトルのうち「下級国民」は、2019年4月に池袋4丁目で起きた自動車暴走事故の容疑者(当時87歳)がかつて通産省の技官だったことから、なかなか逮捕されず「上級国民」と揶揄されたこと、それだったら自分は「下級国民」だとしたこと さらに「A」は、中森明菜の「少女A」の歌詞「特別じゃない どこにもいるわ ワ・タ・シ 少女A」に由来しています

著者は「文庫化によせて」の中で、「本作は、私が初めて書いたエッセイ本なのであるが、当時の読者諸氏の反応は見事に二分した」と書いていますが、読み終わった印象はエッセイというよりドキュメンタリーという方が相応しいと思いました

また、本書を読む前に、私は「下級国民A」というタイトルから年収の極めて少ない「生活保護レベル」の”一下層国民”の嘆きを描いた物語だと思っていました しかし、それは若干ニュアンスが違ったようです

そもそも著者は35歳で起業し、ゴルフ場の管理(芝刈り)の会社を20年間経営してきた人物です 全国12カ所のゴルフ場のコース管理を請け負い、年収は2400万円で会社の経費も潤沢に使えたといいます しかし、55歳の時に経営を破綻させてしまいます 東日本大震災から半年くらい経ったとき、芝生のコンサルティングの関係で知り合いだった兵庫県小野市に所在する小さな土木会社の社長から、震災復興事業を起こしたいので協力してほしいと声を掛けられます 月収は40万円と言う条件でした。著者はこれを受けることとし、40万円から5万円を残して、奈良に住む高校生の娘の母親に仕送りすることにしました

ここから彼の下級国民としての生活が始まります 石巻では土木事業に携わりますが「営業部長」という条件だったのに自らも肉体労働者として働かざるを得なくなります その後も除染作業を中心に仙台、福島、郡山、南相馬と場所を変えて働くことになりますが、行く先々で苛酷で醜悪な環境が待っていました 仕事仲間からの陰湿なイジメ、危険極まりない除染作業、守られない労働契約、金銭搾取・・・それでも彼は月収40万円を確保するため我慢に我慢を重ねます しかし、ただ働き同然の仕事を打診され、遂に切れて、現場を去ります

著者が最後まで40万円の月収を確保できたのは、彼が肉体労働者としてだけでなく管理職の仕事も併せてこなしていたからだと思います スポーツで言えば、単なるプレイヤーではなくマネージング・プレイヤーだったからです

本書に書かれていることは事実なので、東日本大震災後の東日本各地では、多くの人たちが著者と同じような辛い経験をしてきたのではないかと想像します それと同時に、格差社会や相対的貧困をどうすれば是正できるのかと考えさせられました

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中村恵理インタビューを読んで ~ 朝日新聞から / 井上ひさし著「ふかいことをおもしろく」を読む ~ 農地解放運動を行った父親、逞しい母親、本との付き合い方、笑いとは何か等

2024年11月01日 00時03分08秒 | 日記

11月1日(金)。油断していたわけではないのですが、今日から11月です 今年も残り2か月となりましたが、60日なんてアッと言う間です 心身ともに健康で生き残りましょう

ところで、昨日の朝、整骨院からの帰り道で、保育園児らしき小集団に遭遇しました みな頭にカラフルな三角帽子を被っています。なんで?と考えたらハロウィンの仮装だと気が付きました 「ハロウィンの意味も解ってないんだろうな」と思いながらも、意味も解らず仮装しているのは保育園児に限らないんじゃないか、とも思いました。私もですが ハッピーハロウィン

ということで、わが家に来てから今日で3580日目を迎え、米起業家のイーロン・マスク氏が、自身が2年前に買収したX(旧ツイッター)上で共和党のトランプ前大統領に関する発信を急激に増やしているが、偽情報や陰謀論も発信・拡散しているとして米メディアでは批判されている  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     これでXを買収した目的がはっきりした トランプを当選させて自分を有利にするんだ

         

昨日、夕食に「鮭のムニエル」「鮪の山掛け」「生野菜とモッツアレラチーズのサラダ」「豚汁」を作りました 魚がメインの時には豚汁でバランスをとっています

     

         

昨日の朝日新聞夕刊に吉田純子編集委員によるソプラノ歌手・中村恵理のインタビュー記事が載っていました 最後に語った中村の言葉が印象に残りました

「ソロのCDは作らないと決めている 『私の声が残る必要はない。時代とともに消えていい。一瞬で生まれて消えていくからこそ音楽は尊くて素晴らしくて、だから大好きなんです』」

ちょっと名前が売れるとすぐにCDを出したがる歌手や演奏家に聞かせてやりたい台詞です

         

井上ひさし著「ふかいことをおもしろく」(PHP文庫)を読み終わりました 井上ひさしは1934年 山形県生まれ。作家、劇作家。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。1964年からNHKの連続人形劇「ひょっこりひょうたん島」(共作)の台本を執筆 72年に「手鎖心中」で直木賞を、同年「道元の冒険」で岸田国士戯曲賞と芸術選奨新人賞の受賞を筆頭に受賞多数 84年に劇団「こまつ座」を旗揚げする。2010年4月9日死去

本書は、NHK-BSハイビジョンで2007年9月20日に放送された番組「100年インタビュー/作家・劇作家  井上ひさし」をもとに原稿を作成し、2011年4月にPHP研究所から刊行された作品を文庫化したものです

     

本書はインタビューをまとめたものなので、文章は井上ひさしによるものではありませんが、簡潔にまとまった文章からニュアンスは伝わってきます

地主でありながら農地解放運動を行った父親のこと、肝っ玉母さんのような逞しい母親のこと、児童養護施設での青春時代、国立療養所に勤めた時の所長の思い出、浅草フランス座でコントの台本を書きまくって多額の報酬を得たこと、懸賞応募からプロの作家へ転身したことなど、井上の波乱万丈の人生が語られています それに加えて、本との付き合い方、笑いとは何か、文学が持つ力、変化する言葉、などについて持論を語っています

面白いエピソードがいくつか紹介されています その一つは「本との付き合い方」です ちょっと長くなりますが、その一部を引用します

「母は本を買うことについて、一切文句を言いませんでした ここではじめて告白します。あの頃、母は財布を枕の下に入れて寝ていたのですが、僕は、母が寝入って寝がえりを打つのを待っていました。そして、寝返りを打ったときに、母の財布を枕の下からスッと出して、そこから十円なり二十円なりをくすねるのです それで、今度はまた寝返りを打つのを待って、財布を元の場所にスッと戻しておく・・・そんなことをやっていました 大ざっぱな性格の母なので、あまりきっちりと財布の中身を勘定していなかったから、少しくすねてもわからないだろうと、子ども心に思ったのでしょう しかし、きっと母は気づいていたと思います。ただ、これは僕が何か変なことに使っているのではなく、映画か本以外に使い道はないだろうと見当がついていたのでしょう。だから何も言わなかった、そう思っています

井上少年の思った通り、母親は息子の行動に気が付いていたのだと思います 「黙ったお金をくすねることは良くないけれど、使い道は分かっているから大目に見ておこう」ということだったのでしょう お金をくすねるのも「阿吽の呼吸」が必要だということが良く分かりました

児童養護施設ラ・サール・ホームを出て、東仙台中学校を卒業するまでは「神童」「秀才」と呼ばれてきた井上でしたが、高等学校(仙台一高)に入学してからは真ん中から上に行けなくなります そこで井上は「自分は神童でも秀才でもない、ただの凡才である」と自覚します 非凡な彼はここで考え方を切り替えます 担任の先生に「僕は将来、物書きになりたいし、新聞記者とか映画監督とかいろいろなりたいものがあるので、仙台に来る映画を全部見たいと思います それから、高校の図書館の本を全部読みたいと思います ついては、午後から授業には出られません」と相談します。そういうことが言える雰囲気の学校だったといいます すると先生は、「わかった。その代わり、感想とか半券とか、映画を見たという証拠をノートに貼って出しなさい🎫 そうしたら認めてやろう」とあっさり言ってくれたそうです。何とおおらかな時代でしょうか 今では考えられませんね

それから井上はありとあらゆる映画を見倒すことになります 朝から6本くらいの興行を立て続けに見て(腰痛になるぞ!)、映画館の暗がりで作品の良いところをメモしたり、自分なりのシナリオを作ったりします そこ頃、寮に入っていた井上に母親が仕送りをしていましたが、井上は母親に次のような手紙を書いています

「僕は昨日、仙台のアオキホテルで賞を受けました 賞金の中から、貧乏している母さんに千円を送ります。『レベッカ』の映画評で僕が第1位になったのです ホテルのごちそうは、胃袋をたまげさせるほどおいしく、母さんと兄ちゃんとシュウスケに食べさせたいと思った時、涙の一滴をスープに落としましたが、僕は飲んでしまいました スープの味はちょっと塩がきいているような気がしたのも、僕の涙のせいでしょう 涙の一滴も無駄にしない僕は、将来、成金になるかもしれないと想像すると楽しくなります。さようなら

ユーモアのセンス全開ですね

井上は「笑いとは何か」について次のように語っています

「僕の芝居には必ずといっていいほどユーモアや笑いが入っています それは、笑いは人間が作るしかないものだからです。苦しみや悲しみ、恐怖や不安というのは、人間がそもそも生まれ持っているものです。人間は、生まれてから死へ向かって進んでいきます。それが生きるということです この「生きていく」そのものの中に、苦しみや悲しみなどが全部詰まっているのですが、『笑い』は入っていないのです なぜなら、笑いとは,人間が作るしかないものだからです。それは、一人ではできません。そして、人と関わってお互いに共有しないと意味がないものでもあります 笑いは、人間の関係性の中で作っていくもので、僕はそこに重きを置きたいのです。人間の出来る最大の仕事は、人が行く悲しい運命を忘れさせるような、その瞬間だけでも抵抗できるようないい笑いをみんなで作り合っていくことだと思います 人間が言葉を持っている限り、その言葉で笑いを作っていくのが、一番人間らしい仕事だと僕は思うのです

たしかに井上ひさしの小説・戯曲のエッセンスは「ユーモア・笑い」であると思います

本文の最後に「100年後の皆さんへ、僕からのメッセージ」が収録されています その中で、井上は「この100年の間に、戦争はあったでしょうか?」と問いかけています 私は「今のところはありません。でも、これからは分かりません」としか答えることができません

本書は文字が大きく、トータルで127ページと分量も少ないので、あっという間に読み終わってしまいます しかし、内容は濃いものがあります。広くお薦めします

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