レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

Mannsal アイスランドの人身取引 −2−

2015-02-08 05:00:00 | 日記
今回は前回のアイスランドでのマンサル、人身取引の続きです。フリェッタブラージズ紙はここのところ連続でこのテーマの特集を組んでおり、なかなか内容があります。

どういうものが「人身取引」なのか、普通の人にはなかなかイメージが湧かないものだと思いますし、内容を聞いても「まさか、テレビのFBIもののお話しでしょう」という感じがどうしてもしてしまうものではないでしょうか?

そこで実話の例。

2010年の初め、ワルシャワからアイスランドへ向かう旅客機の機内で、若い女性がわめき始めました。ケフラビーク国際空港のエアポートポリスが彼女を引き取り事情を訊いたところ、この女性は十九歳で(国籍は明らかにされていません)偽造パスポートを所持しており、売春に従事させるためにアイスランドへ移動させられていた疑いが強くなりました。

警察がきちんとした捜査を始めたところ、この女性は2008年9月に家族の元から失踪しており、リトアニアのある家屋に滞在させられ、その間アルコールと麻薬の使用を強制されました。さらに売春を強要され、不服従の際には殴られたそうです。

2009年には森の中の家屋に移されましたが、そこではさらに複数の同じ境遇の女性がいたようです。全員が売春を強要されました。その年の2月、ですから森の中の家屋に移って間もなくということだと思いますが、リトアニア警察が彼女を発見し、彼女は一度は姉のもとへ行くことができました。

しかし数ヶ月後、彼女はまたもとの「彼女を売った男」のもとへ戻ってしまったようで、以前の森の中の家屋に囚われてしまいます。秋にそこで知り合ったトマスという男に「友だちがいてきちんと迎えてくれるから」とアイスランド行きを勧められたということです。

この「トマス」が彼女の髪を切ったり染めたりしたのち、偽造パスポートと航空券を与えました。

アイスランドの警察の捜査により、五人のリトアニア人が逮捕されました。その五人がどういう仕方で加担していたかは書かれていませんが、もちろん全員グルでの組織犯罪です。この五人は2010年に高裁で実刑判決が確定しています。

この女性の足取りの中で、せっかく救出されたのに「また戻ってしまう」というところが、家庭内暴力の犠牲になっている女性の人たちが見せる「容易には理解できない傾向」と同じのように思われます。前回、「マンサルは立証しにくい」という捜査官の話しがありましたが、頷ける気がしますね。

さて2012年から昨年初めまでの二年間、マンサルの犠牲者を救済するための施設として「クリスティンナー・フース」(クリスティンの家)という施設が実験的に運営されました。「クヴェンナ・アートクヴァルフ」(ウーマンズ・シェルター)等と同じような、国や市から財政援助を受けての半官半民の施設と思います。

ソウルン・ソウラリンスドティールさんという女性が施設長を勤めていましたが、その二年間の運営中には計二十七人の女性がお世話になったそうです。外国人が十五人、アイスランド人が十二人。これらの女性はクリスティンナー・フースの試験運営終了後はウーマンズ・シェルターが面倒を見ています。

ソウルンさんの話しでは、これらの女性は偽造パスポートやあるいはパスポートなしで入国を図ります。偽造パスポートや航空券のお金を誰が払っているのか、どういうルートで誰がオルガナイズしているのか等はまったく不明ですが、彼女たちの「売り」「買い」は何度も繰り返されているようだ、とのことです。

孤立化、ある種の洗脳、暴力といったものが女性たちの服従を徹底させるたmの要素なのですが、暴力には身体的なものばかりではなく、精神的なものもあります。

ソウルンさんが実際にあった例として示すのは、ナイジェリアからの女性たちです。彼女らは絶対服従を誓わされるのだそうですが、その際に「魔術師」が登場し、「誓いを破ると命を落とすか、精神的な病に冒される」とまじないを掛けられるのだそうです。

「そして彼女たちはそれを信じています。これは文化的な違いなのかもしれませんが。いずれにしても、だから彼女たちは話しをしてくれません」とソウルンさん。マンサルの実態の解明が難しいのには理由があるようです。

クリスティンナー・フースは国の財政難で実験運営の期間を延長できませんでしたが、国はマンサル対策としての2016年までの実行プランを作成しています。

「ですが、立派な計画書が作成されても予算が付かなければなんにもなりませんからね」と言うソウルンさん。多くの福祉的計画に従事している人にも共通していることですが、戦わねばならない相手はマンサル一味のように直接の敵だけではなく、国の金庫番も相手にしなければならないわけです。

いずれにしても大きな問題です。一朝一夕には解決を見出せないでしょうが、きちんとフォローしていかなくては。


応援します、若い力。Meet Iceland


藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
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