先週の木曜日Isbru(氷の橋)というグループの集まりに招待され参加してきました。この会はアイスランド語教師の人たちが作っている任意団体で、特に移民にどのようにアイスランドを教えるか、移民との文化交流を促進するか、という点に強調点を置いて活動しています。
これまでも何度も書いてきましたが、人口三十二万人強のアイスランドでは、アイスランド語という言語は非常に特殊な位置を占めています。アイスランド語はアイスランド文化の象徴であるばかりではなく、実際に国民を束ねる絆でもあります。
「アイスランド語を失ってしまったら、我々をアイスランド人として証明するものが何も無くなってしまう」という不安を抱え込んでいる国民は少なくありません。そこで1944年の独立以来「アイスランドではアイスランド語を使う」という考えを根本にして多くの政策や教育方針が立てられてきました。
そのうちのひとつが「純粋言語政策」で、これは国営放送のテレビやラジオは「正しい奇麗なアイスランド語でなされねばならない」ということを謳ったものです。この辺りからブロークン・アイスランディックに対する非寛容が培われてきたと言って良いでしょう。
さて、そういう背景というか土壌の中で、二十年間前くらいから移民が増加し始めてきました。1995年あたりの外国籍者は7.000人強でしたが、昨年には25.000人を越えています。強いていえば90年代はアジアからの移民が多く、2000年代は中東欧からといえるでしょうが、実際には広く世界中から集まってきています。
移民とアイスランド人の間での際立った違いは何かというと、法的な権利や土地に馴染んでいるのかなどという点も挙げられますが、それよりももっとくっきりはっきりしていることはアイスランド語ができるかどうかです。
というわけで、移民とアイスランド語についての議論はここ二十年来絶えることがなかったといっていいでしょう。
ごく少数の例外を除けば、移民の人たちはアイスランドに来てからアイスランド語に接します。またこれも少数の例外を除けば、移民は移ってきてからすみやかに就労するか、少なくともしたいはずです。生活しなければなりませんから。
つまり大雑把にいって新しい土地で仕事に就きながら新しい言葉を勉強し始める、というのが平均的なケースということができるでしょう。決して100%勉学に専念できるような状況でアイスランド語の学習が始まるわけではないことが多いわけです。
ところがそういう現実にも関わらず、上述した理由からアイスランド人の移民に対する「アイスランド語の習得」に関する要求は変ることはありません。そのためにいろいろな軋轢が生じたりしたのですが、それは何度か書いたこともありますしここでは触れません。
ただ、それらの一連の過程の中でも「移民のアイスランド社会への適応の可否はアイスランド語の習得にかかっている」という考えは、ほとんど不変の鉄則のように掲げられてきていました。
ところが昨今新しい現象が移民のうちに現れてきました。それは「アイスランド語なんて勉強しなーい」というものです。そういう態度を取る移民は以前からそこここに散見されたものですが、今現在問題になってきているのは、主にポーランドからの移民です。
ポーランドからの移民はポーランドがEUに加盟したのを機会に2005年前後から急増してきました。昨年末の時点でポーランド移民の数は9.000人以上で移民全体の中で36%を占めています。
そしてそのくらいの数になりますと、自身のコミュニティの中に引きこもって生活することが可能になります。日常生活はポーランド人の中で行い、困ったことがあればアイスランド語のできる仲間が助けてくれる。
加えて銀行を始め多くの民間企業はサービスとしてポーランド語でのホームページを提供したりします。ポーランドコミュニティではアイスランドのニュースをポーランド語に訳してウェッブに載せたりする。
こうなってくると、確かにアイスランド語が分からなくてもなんとかそれなりの生活はできてしまうわけです。
「アイスランド語のコースがいくつあっても関係ない。ポーランド人の多くはアイスランド語を学ぶ気なんてないから」という暴露話しをするのは同じポーラン人なのです。
どれくらいの割合のポーランド移民がそう言っているのかは分かりません。ごく一部である可能性もありますし、相当数であることもあり得るでしょう。
もちろんそれ以外にも英語でなんとか切り抜けていくタイプの移民は結構いたのですが、ポーランド移民の場合は数が多いのと組織だっているので他とは異なったインパクトがあるわけです。「アイスランド語の習得は移民の社会への適応の鍵」としてきた伝統的テーゼに対して、ある意味公然と反旗を翻し一団が現れた、と考えられないこともないわけですから。
私自身、この問題はきちんと時間をかけて振り返らなければ行けないも題だなあ、と認識しています。
続きは次回です。
応援します、若い力。Meet Iceland
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
これまでも何度も書いてきましたが、人口三十二万人強のアイスランドでは、アイスランド語という言語は非常に特殊な位置を占めています。アイスランド語はアイスランド文化の象徴であるばかりではなく、実際に国民を束ねる絆でもあります。
「アイスランド語を失ってしまったら、我々をアイスランド人として証明するものが何も無くなってしまう」という不安を抱え込んでいる国民は少なくありません。そこで1944年の独立以来「アイスランドではアイスランド語を使う」という考えを根本にして多くの政策や教育方針が立てられてきました。
そのうちのひとつが「純粋言語政策」で、これは国営放送のテレビやラジオは「正しい奇麗なアイスランド語でなされねばならない」ということを謳ったものです。この辺りからブロークン・アイスランディックに対する非寛容が培われてきたと言って良いでしょう。
さて、そういう背景というか土壌の中で、二十年間前くらいから移民が増加し始めてきました。1995年あたりの外国籍者は7.000人強でしたが、昨年には25.000人を越えています。強いていえば90年代はアジアからの移民が多く、2000年代は中東欧からといえるでしょうが、実際には広く世界中から集まってきています。
移民とアイスランド人の間での際立った違いは何かというと、法的な権利や土地に馴染んでいるのかなどという点も挙げられますが、それよりももっとくっきりはっきりしていることはアイスランド語ができるかどうかです。
というわけで、移民とアイスランド語についての議論はここ二十年来絶えることがなかったといっていいでしょう。
ごく少数の例外を除けば、移民の人たちはアイスランドに来てからアイスランド語に接します。またこれも少数の例外を除けば、移民は移ってきてからすみやかに就労するか、少なくともしたいはずです。生活しなければなりませんから。
つまり大雑把にいって新しい土地で仕事に就きながら新しい言葉を勉強し始める、というのが平均的なケースということができるでしょう。決して100%勉学に専念できるような状況でアイスランド語の学習が始まるわけではないことが多いわけです。
ところがそういう現実にも関わらず、上述した理由からアイスランド人の移民に対する「アイスランド語の習得」に関する要求は変ることはありません。そのためにいろいろな軋轢が生じたりしたのですが、それは何度か書いたこともありますしここでは触れません。
ただ、それらの一連の過程の中でも「移民のアイスランド社会への適応の可否はアイスランド語の習得にかかっている」という考えは、ほとんど不変の鉄則のように掲げられてきていました。
ところが昨今新しい現象が移民のうちに現れてきました。それは「アイスランド語なんて勉強しなーい」というものです。そういう態度を取る移民は以前からそこここに散見されたものですが、今現在問題になってきているのは、主にポーランドからの移民です。
ポーランドからの移民はポーランドがEUに加盟したのを機会に2005年前後から急増してきました。昨年末の時点でポーランド移民の数は9.000人以上で移民全体の中で36%を占めています。
そしてそのくらいの数になりますと、自身のコミュニティの中に引きこもって生活することが可能になります。日常生活はポーランド人の中で行い、困ったことがあればアイスランド語のできる仲間が助けてくれる。
加えて銀行を始め多くの民間企業はサービスとしてポーランド語でのホームページを提供したりします。ポーランドコミュニティではアイスランドのニュースをポーランド語に訳してウェッブに載せたりする。
こうなってくると、確かにアイスランド語が分からなくてもなんとかそれなりの生活はできてしまうわけです。
「アイスランド語のコースがいくつあっても関係ない。ポーランド人の多くはアイスランド語を学ぶ気なんてないから」という暴露話しをするのは同じポーラン人なのです。
どれくらいの割合のポーランド移民がそう言っているのかは分かりません。ごく一部である可能性もありますし、相当数であることもあり得るでしょう。
もちろんそれ以外にも英語でなんとか切り抜けていくタイプの移民は結構いたのですが、ポーランド移民の場合は数が多いのと組織だっているので他とは異なったインパクトがあるわけです。「アイスランド語の習得は移民の社会への適応の鍵」としてきた伝統的テーゼに対して、ある意味公然と反旗を翻し一団が現れた、と考えられないこともないわけですから。
私自身、この問題はきちんと時間をかけて振り返らなければ行けないも題だなあ、と認識しています。
続きは次回です。
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