突如飛び込んできた安倍首相の辞任ニュースで、日本ではビックリの週末ではないかと想像します。安倍さんの首相、あるいは政治家としての働きをどう評価するかは、多様な意見があることでしょうが、それはそれとして病気の進行が治り、健康を回復されることを願います。
「安倍首相、辞任の意向を固める」の速報は日本時間の金曜日の午後2時くらいに流れたと思います。その時間はこちらでは同じ金曜日の未明の午前5時。実は私はこの日は夜中の3時前に目が覚めてしまい、一度起きて仕事をしていました。
本文とは無関係 清涼感アップ用写真
Myndin er eftir Cassie_Boca@Unsplash
生でニュースを見ていたわけではないのですが、わりと準生(じゅんなま)くらいのテンポでニュースに接しました。記者会見も録画で後から見ましたが、辞める決心をしたからか、普段からとは一変して、きちんと丁寧に自分の言葉で、記者さんらの質問に答えていましたよね。なんで普段からこうしないのかな?
実はこのニュースに接する直前に、「ブログで日本とアイスランドの政治家の違いを書こう」と思っていたのです。たいしたことのない偶然の一致ですが不思議に感じました。
アイスランドの政治家については、以前にも書いたことがあるのですが、今回「また書こう」と思ったきっかけがあります。これまたたいしたことではないのですが。
木曜日の午後でしたが、車で行きつけのスーパーへ向かっていました。私がかつて居候していた西街のネス教会の近所を通った時、その近所に住むご婦人を見かけました。そのご婦人はご自宅で庭仕事をされていたように見受けました。
その方はかつてアルシンキ(国会)の議員をされていた方で、私が属している「緑の党」の方です。1999年から2009年まで十年間勤められました。2009年に選挙への候補を決める党内選挙で破れ、政界を程なく引退されました。
アイスランドでは国会議員選挙はすべて、いわゆる比例代表制で行われます。アルシンキの仕組みについては、こちらも参照してくださると幸いです。
アルシンキ - 民主主義の原点?
アルシンキ - 小さくとも国会
この方、コルブルンさんというのですが、もともとは舞台女優さんで、政界を引退してからは、また演劇の世界へ戻り劇場の支配人かなにかをされているように記憶しています。
議員も十年間務めた舞台女優のコルブルンさん
Myndin er ur Visir.is
私はコルブルンさんとは、難民関係の仕事で何度かご一緒させていただき、良いご協力をいただいたたことがあったので、2009年の党内選挙の結果は残念でした。ただ、別に個人的な友だちではないので、その後はお会いする機会もなく過ごしていたのです。
で、先日庭仕事をされているのをみかけて、元気なんだ、と安心した次第です。
そして、ふと思い出したのですが、アイスランドの政界では「再選を目指す」とか「復活」「捲土重来を期す」とかいう風潮がありません。一度、議席に達しなかったらそれでおしまい。ピリオド。
余談ですが「捲土重来」って、知ってますか?「けんどじゅうらい」と読み、「一度失敗した人が、再び勢いと取り戻してくること」を意味します。
学生の頃、選挙の手伝いをしたことがあるのですが、候補者が「捲土重来を期す」と何度も演説で言っているのを聞いて、「なんでもっとわかりやすい言葉を使わないんだろう?」と不思議に思ったものです。結局、その方は何度も「捲土重来」を期すままで終わってしまいました。「案の定」と言ったら失礼かもしれないですが、人との距離の取り方にもっと意を払って欲しかったような。
アイスランドに戻りますが、なぜアイスランドでは「再選を期す」がないのか、いまだにはっきりとした理由はわかりません。多分、そういう精神風土というか文化がないのだろうと思います。
なぜ、そういう政治文化がないのかというと、これは多分「職業政治家」という考えがあまりないからではないか?ということに考え当たります。
周囲のヨーロッパの国や、スカンジナビアの国を見ても、職業政治家は普通にいるように見受けますので、これはアイスランドに固有の事象かも。
思うに、アイスランドはついこの間まで、農村酪農または漁業国家でしたので、なんでも「自分でやる」という気風が強いことは確かです。皆さん、大抵のDIY仕事や、それよりも一歩踏み込んだ大工仕事、はたまた芸術関係の趣味も良くこなします。周りにそんなに人がいない農村では、自分でやるしかないんですよね。
もしかしたら「政治」というものもそのような事柄のひとつに並んでいるのかもしれません。商売、というよりは「パブリック・サービス」的なものとして認識されているように感じられます。
アルシンキ国会議事堂
Myndin er ur Althingi.is
そのことのひとつの現れは、「再選を求めない」ことと並んで、国会議員の皆さん、わりとあとぐされなく、きっぱりと辞めることが多いのです。
なにか、スキャンダルを起こして非難を浴びて辞めざるを得ない、というのではなくて、評価される良い仕事をしていて、人気もあるのに「次の選挙にはもう出ない」とのたまわった方はひとりふたりではありません。「えっ?なんで?」と思ってしまうこともありました。
多分「ひと仕事できた」「自分の務めは果たした」というところからきているのはないかと思います。この辺は、私はアイスランドの政治家あるいは政界の良いところだと考えています。
ちなみに国会議員の給与ですが、一般の議員の給与は月額約110万クローネ。大臣が約182万。首相は200万ちょっと。ついでに大統領は300万弱です。え〜と、100万クローネは、今のレートで約76万4千円ですね。仕事の厳しさに比して、それほどの高給ではないように思えます。
もっとも日本と同じで、これらの公職の人々にはいろいろな名目での「手当て」が付きますので、実際は給与以上の収入があることでしょう。交通費がメチャ付いている議員についてのニュースを見た覚えがありますが、ここで掘り返すつもりはありません。
さらに言うと、国会議員を務めると各界に繋がりができますし、人脈というか、要人とのパイプもできるので、それはそれでその後の人生に役立つはずです。財力を蓄えるという意味では、議員はそこそこで切り上げておいて、もっと身入りのいい民間のポストへ就いた方が得、ということもあるのでしょう。
ですから、たとえ議員バッジ(こちらではそういうものはないと思います)に執着がないからといって、必ずしもアイスランドの政治家連がみんなクリーンで奉仕精神に満ち満ちている、というわけではないと思います。
実際、国会議員在職中から、特定の企業、例えば身内関係の会社などに便宜を図って利益誘導をしているような輩はいますし、以前書きました「クロイストゥル(修道院)・スキャンダル」を起こしたようなゲスもいます。このゲスたちは辞めないですね、しょうこりもなく。
修道院の夜の惨劇
クロイトゥル惨劇のゲスの面々
Myndin er ur DV.is
にもかかわらず、アイスランドの政界の透明度は、日本の政界との比較においては相当にクリーン度が高いといって良いでしょう。っていうか、こちらのクリーン度が高いというよりは、日本の政界が濁り過ぎている、というのが正解かもしれませんが。
まあ、国が大きくなるにつれて政治の不透明度が増す、というのはある程度普遍的な法則みたいなものかもしれないですね。
どなたが日本の次期首相のポストに就かれるのかわかりませんが、多少なりとも透明度の増加に寄与される方であることを願います。
と、書きつつも「無理だろう」というのが本心...
*これは個人のプライベート・ブログであり、公的なアイスランド社会の広報、観光案内、あるいはアイスランド国民教会のサイトではありません。記載内容に誤りや不十分な情報が含まれることもありますし、述べられている意見はあくまで個人のものですので、ご承知おきください。
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
「安倍首相、辞任の意向を固める」の速報は日本時間の金曜日の午後2時くらいに流れたと思います。その時間はこちらでは同じ金曜日の未明の午前5時。実は私はこの日は夜中の3時前に目が覚めてしまい、一度起きて仕事をしていました。
本文とは無関係 清涼感アップ用写真
Myndin er eftir Cassie_Boca@Unsplash
生でニュースを見ていたわけではないのですが、わりと準生(じゅんなま)くらいのテンポでニュースに接しました。記者会見も録画で後から見ましたが、辞める決心をしたからか、普段からとは一変して、きちんと丁寧に自分の言葉で、記者さんらの質問に答えていましたよね。なんで普段からこうしないのかな?
実はこのニュースに接する直前に、「ブログで日本とアイスランドの政治家の違いを書こう」と思っていたのです。たいしたことのない偶然の一致ですが不思議に感じました。
アイスランドの政治家については、以前にも書いたことがあるのですが、今回「また書こう」と思ったきっかけがあります。これまたたいしたことではないのですが。
木曜日の午後でしたが、車で行きつけのスーパーへ向かっていました。私がかつて居候していた西街のネス教会の近所を通った時、その近所に住むご婦人を見かけました。そのご婦人はご自宅で庭仕事をされていたように見受けました。
その方はかつてアルシンキ(国会)の議員をされていた方で、私が属している「緑の党」の方です。1999年から2009年まで十年間勤められました。2009年に選挙への候補を決める党内選挙で破れ、政界を程なく引退されました。
アイスランドでは国会議員選挙はすべて、いわゆる比例代表制で行われます。アルシンキの仕組みについては、こちらも参照してくださると幸いです。
アルシンキ - 民主主義の原点?
アルシンキ - 小さくとも国会
この方、コルブルンさんというのですが、もともとは舞台女優さんで、政界を引退してからは、また演劇の世界へ戻り劇場の支配人かなにかをされているように記憶しています。
議員も十年間務めた舞台女優のコルブルンさん
Myndin er ur Visir.is
私はコルブルンさんとは、難民関係の仕事で何度かご一緒させていただき、良いご協力をいただいたたことがあったので、2009年の党内選挙の結果は残念でした。ただ、別に個人的な友だちではないので、その後はお会いする機会もなく過ごしていたのです。
で、先日庭仕事をされているのをみかけて、元気なんだ、と安心した次第です。
そして、ふと思い出したのですが、アイスランドの政界では「再選を目指す」とか「復活」「捲土重来を期す」とかいう風潮がありません。一度、議席に達しなかったらそれでおしまい。ピリオド。
余談ですが「捲土重来」って、知ってますか?「けんどじゅうらい」と読み、「一度失敗した人が、再び勢いと取り戻してくること」を意味します。
学生の頃、選挙の手伝いをしたことがあるのですが、候補者が「捲土重来を期す」と何度も演説で言っているのを聞いて、「なんでもっとわかりやすい言葉を使わないんだろう?」と不思議に思ったものです。結局、その方は何度も「捲土重来」を期すままで終わってしまいました。「案の定」と言ったら失礼かもしれないですが、人との距離の取り方にもっと意を払って欲しかったような。
アイスランドに戻りますが、なぜアイスランドでは「再選を期す」がないのか、いまだにはっきりとした理由はわかりません。多分、そういう精神風土というか文化がないのだろうと思います。
なぜ、そういう政治文化がないのかというと、これは多分「職業政治家」という考えがあまりないからではないか?ということに考え当たります。
周囲のヨーロッパの国や、スカンジナビアの国を見ても、職業政治家は普通にいるように見受けますので、これはアイスランドに固有の事象かも。
思うに、アイスランドはついこの間まで、農村酪農または漁業国家でしたので、なんでも「自分でやる」という気風が強いことは確かです。皆さん、大抵のDIY仕事や、それよりも一歩踏み込んだ大工仕事、はたまた芸術関係の趣味も良くこなします。周りにそんなに人がいない農村では、自分でやるしかないんですよね。
もしかしたら「政治」というものもそのような事柄のひとつに並んでいるのかもしれません。商売、というよりは「パブリック・サービス」的なものとして認識されているように感じられます。
アルシンキ国会議事堂
Myndin er ur Althingi.is
そのことのひとつの現れは、「再選を求めない」ことと並んで、国会議員の皆さん、わりとあとぐされなく、きっぱりと辞めることが多いのです。
なにか、スキャンダルを起こして非難を浴びて辞めざるを得ない、というのではなくて、評価される良い仕事をしていて、人気もあるのに「次の選挙にはもう出ない」とのたまわった方はひとりふたりではありません。「えっ?なんで?」と思ってしまうこともありました。
多分「ひと仕事できた」「自分の務めは果たした」というところからきているのはないかと思います。この辺は、私はアイスランドの政治家あるいは政界の良いところだと考えています。
ちなみに国会議員の給与ですが、一般の議員の給与は月額約110万クローネ。大臣が約182万。首相は200万ちょっと。ついでに大統領は300万弱です。え〜と、100万クローネは、今のレートで約76万4千円ですね。仕事の厳しさに比して、それほどの高給ではないように思えます。
もっとも日本と同じで、これらの公職の人々にはいろいろな名目での「手当て」が付きますので、実際は給与以上の収入があることでしょう。交通費がメチャ付いている議員についてのニュースを見た覚えがありますが、ここで掘り返すつもりはありません。
さらに言うと、国会議員を務めると各界に繋がりができますし、人脈というか、要人とのパイプもできるので、それはそれでその後の人生に役立つはずです。財力を蓄えるという意味では、議員はそこそこで切り上げておいて、もっと身入りのいい民間のポストへ就いた方が得、ということもあるのでしょう。
ですから、たとえ議員バッジ(こちらではそういうものはないと思います)に執着がないからといって、必ずしもアイスランドの政治家連がみんなクリーンで奉仕精神に満ち満ちている、というわけではないと思います。
実際、国会議員在職中から、特定の企業、例えば身内関係の会社などに便宜を図って利益誘導をしているような輩はいますし、以前書きました「クロイストゥル(修道院)・スキャンダル」を起こしたようなゲスもいます。このゲスたちは辞めないですね、しょうこりもなく。
修道院の夜の惨劇
クロイトゥル惨劇のゲスの面々
Myndin er ur DV.is
にもかかわらず、アイスランドの政界の透明度は、日本の政界との比較においては相当にクリーン度が高いといって良いでしょう。っていうか、こちらのクリーン度が高いというよりは、日本の政界が濁り過ぎている、というのが正解かもしれませんが。
まあ、国が大きくなるにつれて政治の不透明度が増す、というのはある程度普遍的な法則みたいなものかもしれないですね。
どなたが日本の次期首相のポストに就かれるのかわかりませんが、多少なりとも透明度の増加に寄与される方であることを願います。
と、書きつつも「無理だろう」というのが本心...
*これは個人のプライベート・ブログであり、公的なアイスランド社会の広報、観光案内、あるいはアイスランド国民教会のサイトではありません。記載内容に誤りや不十分な情報が含まれることもありますし、述べられている意見はあくまで個人のものですので、ご承知おきください。
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
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