レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

Dubliners...「ダブリン難民」

2015-02-22 05:00:00 | 日記
前回に続き難民の人々について書きますが、今回はアイスランドにいる難民の人たちに焦点を当ててみたいと思います。

アイスランドにも難民の人たちはいます。ここでは「難民」とは個々人で国境を越えてきて外国で難民申請をする「庇護申請者」に限り、国連等が介入して再定住を斡旋する Quota refugee のことではないことにしましょう。

もっともアイスランドでは、イタリアやギリシャのように難民で溢れてしまっている、というところまではまだいっていません。内務省の担当のスタッフも、先日の会合で「アイスランドでの難民問題は大陸と比べたらまだまだPiece of cakeよ」と言っていました。

昨年の統計はまだ公式に出ていないので、2013年の数字を見てみましょう。難民申請件数は172件。加えて前年度以前からの持ち越し案件が21件ありました。全部で193件ということですね。

その結果は、と言いますと...
拒否110件、人道上の滞在許可1件、認定11件、申請撤回または失踪25件、ダブリン規則にいる送還59件、持ち越し56件。

結果の総数が262件となり申請数の193を大きく上回っているのですが、これは移民局から拒否を回答されても、内務省へ上訴できるため「持ち越し」に再度カウントされる件が多数あるからです。ちなみに今年の年頭から上訴は内務省ではなく、特別に任命された中立の「審査委員会」にすることになっています。

さてここで注目したい、というか、問題にしたいのが「ダブリン規則により送還59件」といところです。

「ダブリン規則」というのはもともと「ダブリン条約」とか「合意」とか呼ばれていたもので、条約加盟国(ヨーロッパの国)間では庇護申請者が最初に「滞在」し難民申請をした国が、その申立てについて責任を持って審査する、というものです。

そして、もしある人が例えばイタリアで最初の難民申請をし、拒否されたり、あるいは時間がかかり過ぎるなどの理由でドイツで再申請しても、イタリアへ再送還されることに決まっています。

これは現在ではEU内での法律となっています。アイスランドはEU加盟国ではありませんが、多くの面で共同歩調を取っており、このダブリン規則にも参加しています。

なぜこのような決まりを作ったかというと、ある国が難民申請に責任を持たず、いいかげんに放っておき、そのうちしびれを切らした申請者が別の国で再申請をしてしまう、とうようなことが起きるのを防ぐためでした。

ところがです。何事も自分たちに都合のいいように変えられてしまうものです。アイスランドに中東やアフリカから直接飛んでくるフライトはありません。大抵はヨーロッパのどこか -ノルウェーやイギリス-でトランジットもしくは二三日過ごしてからの氷島入り、というのが普通です。

これをアイスランドの移民局は「滞在」と解釈し「ノルウェーやイギリスで難民申請できたではないか?」と申請者を送還してしまうのが「定番」化してしまいました。

加えて当初の受け入れ国にも問題があります。前回書きましたが、イタリアやギリシャはもはやきちんと難民申請を処理することができなくなってしまっています。数が多過ぎるのです。そのため、そこでの扱いに納得できず、第三国へ行って再申請「せざるを得ない」ような事例も数多く起こってしまっています。

ところがどのような事情でも、一度どこかで難民申請をしてしまうと、指紋と共にすべてデータベースに入ってしまい次国でごまかすことはできません。そこでは難民申請をしているもともとの理由については審査はされず、自動的に「第一国へ送還」となってしまうわけです。

このようにダブリン規則にひっかかってしまって抜け出せなくなっている人たちのことをいつしか「ダブリン難民」と呼んでしまっています。「ダブリン市民」はジョイスの有名な小説ですが、元祖ダブリン市よりもダブリン規則の方が全ヨーロッパ的に馴染みのあるものになっているのではないでしょうか?

ここのところ私はこの「ダブリン難民」の人たちとのお付き合いがあります。
いくつかこの人たちの体験をご紹介してみましょう。

ナイジェリア出身のタリさん(男性)は弟さんをボコハランに殺害され、自身も仲間入りを強要されたそうです。スウェーデンへ逃れ、難民申請しましたが、最初の回答はネガティブ。上訴している最中に扱いが公平でないと気がつきアイスランドへ来ました。

ここでも拒否。拒否されたのは難民申請そのものではなくて、「申請を取り上げること」の拒否です。タリさんのケースは今は裁判所の下にあります。この春でアイスランドに来てから丸三年になります。

同じくナイジェリアの男性デュークさんはゲイ。そのことへの迫害から逃れてイタリアへ行きました。難民申請しても何も起きず、そのまま九年間が過ぎてしまいました。どうしようもなくなってアイスランドへ渡りここで再申請。タリさんと同じく「取り上げること」を拒否され、これもタリさんと同じく裁判で係争中です。アイスランドに来てから丸二年を通り越しました。

実はダブリン規則では送還は原則であり、特別の理由があったり、二度目の申請受理国、例えばタリさんやデゥークさんの場合ならアイスランドが案件を扱いたい、という意思がある場合には案件の責任を受け継いでよいことになっています。

私自身を含め、難民支援に関わっている人たちはこれまでに「ダブリン放棄、申請の内容審査!」を主張してきています。九年間も何の権利もなく過ごしてきたデュークさんなどはもはや「無国籍者」に該当するはずです。

加えてアフリカ諸国での同性愛者への迫害や、ナイジェリアのボコハランの蛮行は疑いもない事実なのですから、ふたりをわざわざ送り返すことなどしないで、ここで審査し滞在許可を出すべきだと考えます。

もともとダブリン規則は難民の人権を守るために作られました。今やダブリン規則がその同じ難民の権利を剥ぎ取っています。「何か、おかしいだろ!」と言いたい。

幸い、国会議員の中にもこの問題をきちんと考えるべきだ、という人たちが現れています。応援します。良い方向へシステムを変えてください。でもそれだけではダメです。

タリさん、デュークさんの案件をきちんと裁量してください。システムの問題だけではない。これは人の一生の問題なのですから。


応援します、若い力。Meet Iceland


藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is


コメント (2)
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