三月を前にした最後の週となりました。年寄りの口癖になってきましたが「日々が流れるのが恐ろしく早い!!」というのが実感です。
先週は気温がぐっと暖かくなり、七度、八度とかの毎日。もちろんプラスですよ。一回車のパネルの表示で「気温15度」とかなっていましたが、あれは車の勘違いだろうと思います。
ここ二、三日のこちらでの話題はもっぱら「賃上げ交渉」と「ストライキ」です。かつては私も労働組合の関連で仕事をしていましたので、こういう問題にはしっかり関心を持つべきなのでしょうが、悲しいかな、人とは変わるものです。最近では、こういうのはあまりピンと来るトピックではなくなってしまっています。スミマセン。m(_ _)m
ですが、今回はちょっと特別。なにしろニュースがトップで扱うくらいですので。いや、賃上げ交渉に関しては、いつもニュースはトップで扱っていますね。それは正しいいことでしょう、社会の基礎に関わる問題ですから。
ですが、今回のトップニュース性は、いつもとちょっと違って、組合側の要求が甚だしく強気の要求を出し、「さもなくばストライキ」という態度を取っていることにあると思います。
エブリング委員長 ソルヴェイ・アンナさん(右)
Myndin er ur Frettabladid/Eythor
これらのニュースの中で、中心になっているのがソルヴェイ・アンナさんという女性なのですが、彼女はEflingエブリングという労働組合の組長?というか委員長です。
エブリングというのは労働組合の中のひとつ。二十年ほど前の1998年にいくつかの組合が合併して誕生しました。当初は組合員数14.000人ほどだったそうですが、現在は27.000人を抱えています。
日本では企業別の単独の組合が基本的な構成単位ですが、こちらではもう少し大きな職種別組合のようなものが基本の構成単位になっています。つまり複数の異なる会社に組合がまたがるわけです。
エブリングは市の職員、一部の官庁の職員、ガソリンスタンド、病院、清掃関係、ホテル、レストラン等々の職場で働く人たちの組合で、かなり多くの会社、職場をカバーしています。
非常に大雑把で乱暴な言い方になりますが、「あまり給与のよくない仕事に就いている人たちが多く属する組合」と思っていただいて構わないでしょう。というわけで、実は外国人労働者が多く入っている組合なのです。
この組合の前委員長はシーグルズル・ベッサソンさんという男性なのですが、彼は一八年間の長きに渡ってその職を務めてきました。組合誕生二年後以来ずーと彼が委員長でした。去年の四月まで。
ひとりの人が非常に長い間同じポジションにいると、往々にして何かしらの弊害が出てくるものですね。エブリングもそれに当てはまってしまっていたようで、多くの人々が「組合の闘魂を失っている」と考えていたようです。
27.000人という組合員数は決して少ないものではありませんし、エブリングはしかるべき影響力を持つ組合「のはず」なのです。
それで十八年ぶりの委員長交代もニュースになりました。その時、委員長選挙で「組合精神のリバイバル」のような主旨で立候補したのが、現委員長のソルヴェイ・アンナさんでした。
で、アイスランドはとても小さな国、社会ですので、自分の周囲にいる人や、知人が国会議員になったり、ニュースで「時の人」になったりすることがよくあります。
このソルヴェイさんも私の知り合いでした。別にそんなに個人的によく知っている人ではなかったのですが、難民支援の集会や抗議活動で顔を合わせることが多く、「そういう場での」知り合いになったわけです。
どんな素性の人かはほとんど知らなかったのですが、エブリングの委員長に立候補してニュースになった時、「ああ、ソルヴェイさんだ。やっぱり活動家だからなあ」と、いきなり知ってる顔が出てきたことにびっくりはしましたが、立候補自体は納得できる気がしました。
結果、ソウルヴェイさんが新委員長に選ばれたわけで、エブリングを率いて一年目、初めての賃上げ交渉の時期を迎えているわけです。
エブリングの要求内容の報道
Myndin er ur Visir.is
この賃上げ交渉は、エブリングのもうひとつ上の包括組合連合のような「職種別組合連合」と「経済生活連盟」という経営者連合のような団体の間でまず持たれます。それが今年は始めから噛み合わず、あっさり決裂してしまったように見えます。
新聞の報道によりますと、エブリングを中心とする組合側の要求は主なものが以下の通りになります。これは2021年までの向こう三年間での賃金アップ率です。
一般性産業従事者 69%、一般魚産業従事者 70%、清掃関係従事者 69%、ガソリンスタンド労働者 71%、大型バス運転者 85%、トラック運転者 80%等々。
これで見ると、かなり大幅なアップ要求ですよね。早期交渉決裂もうなずける気がします。一部の報道では「まったく馬鹿げた要求」「空想の世界の要求」とかの厳しい言葉もあるとか、ないとか。
経済界や政治の上の方からは「ストライキは今のアイスランド社会にとって、深刻なダメージとなるよー」という懸念の声が聞かれます。
その反面、一般市民の方からはスト支援の声も多く聞こえてきます。
十一年前の経済崩壊以来、アイスランド社会での賃金の「二極分化」がよく語られてきました。一割以下の「金持ち族」プラス二割程度の「まあいい給料族」と七割の「低所得者層」の二極です。
本来はここに「生活impossible貧困層」が入るべきかもしれません。絶対数はそれほどでもないかもしれませんが。実際にこの社会でも「この給料でどうやって生活できるのか!?」という人たちが存在しているのです。
賃上げを後押しする「ハングリー行進」のイベント 2月23日
Myndin er ur Facebook_Event
そういう人たちの怒りが今回の組合側の要求の背後にあります。銀行のマネージャーらが月に300万とかにサラリーをアップするとかの報道を見て、頭に血が上っている人は多いのです。
当たり前ですよね。十年前にこの国のすべての人々にあれだけのしんどい体験をさせた張本人たちが、いけしゃあしゃあとベラボウなサラリーを受けようとしているのですから。「その金、まず返すべき人たちが他にいるだろ!?」です。
経済崩壊以来、ある意味では官民一体のような「挙国一致」で危機を切り抜けたアイスランド。今は好況の追い風を受けていますが、これまでの過程でおざなりにされ、放って置かれた課題も山とあります。
老齢者の年金カット、障害者への保障の劣化、外国人労働者への違法な労働環境の放置、病院関係者の低賃金・高負担労働等々。
今の時期、そろそろこういう諸問題をきちんと議論の場に上げ、「普通の人々」が「受けるべき保障」「当然の労働の対価」を享受する方向への転換を図るべきなのでしょう。
今回の賃上げ交渉とストライキの危機、単なる数字のやりとり以上に奥深いものがあると思います。
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
先週は気温がぐっと暖かくなり、七度、八度とかの毎日。もちろんプラスですよ。一回車のパネルの表示で「気温15度」とかなっていましたが、あれは車の勘違いだろうと思います。
ここ二、三日のこちらでの話題はもっぱら「賃上げ交渉」と「ストライキ」です。かつては私も労働組合の関連で仕事をしていましたので、こういう問題にはしっかり関心を持つべきなのでしょうが、悲しいかな、人とは変わるものです。最近では、こういうのはあまりピンと来るトピックではなくなってしまっています。スミマセン。m(_ _)m
ですが、今回はちょっと特別。なにしろニュースがトップで扱うくらいですので。いや、賃上げ交渉に関しては、いつもニュースはトップで扱っていますね。それは正しいいことでしょう、社会の基礎に関わる問題ですから。
ですが、今回のトップニュース性は、いつもとちょっと違って、組合側の要求が甚だしく強気の要求を出し、「さもなくばストライキ」という態度を取っていることにあると思います。
エブリング委員長 ソルヴェイ・アンナさん(右)
Myndin er ur Frettabladid/Eythor
これらのニュースの中で、中心になっているのがソルヴェイ・アンナさんという女性なのですが、彼女はEflingエブリングという労働組合の組長?というか委員長です。
エブリングというのは労働組合の中のひとつ。二十年ほど前の1998年にいくつかの組合が合併して誕生しました。当初は組合員数14.000人ほどだったそうですが、現在は27.000人を抱えています。
日本では企業別の単独の組合が基本的な構成単位ですが、こちらではもう少し大きな職種別組合のようなものが基本の構成単位になっています。つまり複数の異なる会社に組合がまたがるわけです。
エブリングは市の職員、一部の官庁の職員、ガソリンスタンド、病院、清掃関係、ホテル、レストラン等々の職場で働く人たちの組合で、かなり多くの会社、職場をカバーしています。
非常に大雑把で乱暴な言い方になりますが、「あまり給与のよくない仕事に就いている人たちが多く属する組合」と思っていただいて構わないでしょう。というわけで、実は外国人労働者が多く入っている組合なのです。
この組合の前委員長はシーグルズル・ベッサソンさんという男性なのですが、彼は一八年間の長きに渡ってその職を務めてきました。組合誕生二年後以来ずーと彼が委員長でした。去年の四月まで。
ひとりの人が非常に長い間同じポジションにいると、往々にして何かしらの弊害が出てくるものですね。エブリングもそれに当てはまってしまっていたようで、多くの人々が「組合の闘魂を失っている」と考えていたようです。
27.000人という組合員数は決して少ないものではありませんし、エブリングはしかるべき影響力を持つ組合「のはず」なのです。
それで十八年ぶりの委員長交代もニュースになりました。その時、委員長選挙で「組合精神のリバイバル」のような主旨で立候補したのが、現委員長のソルヴェイ・アンナさんでした。
で、アイスランドはとても小さな国、社会ですので、自分の周囲にいる人や、知人が国会議員になったり、ニュースで「時の人」になったりすることがよくあります。
このソルヴェイさんも私の知り合いでした。別にそんなに個人的によく知っている人ではなかったのですが、難民支援の集会や抗議活動で顔を合わせることが多く、「そういう場での」知り合いになったわけです。
どんな素性の人かはほとんど知らなかったのですが、エブリングの委員長に立候補してニュースになった時、「ああ、ソルヴェイさんだ。やっぱり活動家だからなあ」と、いきなり知ってる顔が出てきたことにびっくりはしましたが、立候補自体は納得できる気がしました。
結果、ソウルヴェイさんが新委員長に選ばれたわけで、エブリングを率いて一年目、初めての賃上げ交渉の時期を迎えているわけです。
エブリングの要求内容の報道
Myndin er ur Visir.is
この賃上げ交渉は、エブリングのもうひとつ上の包括組合連合のような「職種別組合連合」と「経済生活連盟」という経営者連合のような団体の間でまず持たれます。それが今年は始めから噛み合わず、あっさり決裂してしまったように見えます。
新聞の報道によりますと、エブリングを中心とする組合側の要求は主なものが以下の通りになります。これは2021年までの向こう三年間での賃金アップ率です。
一般性産業従事者 69%、一般魚産業従事者 70%、清掃関係従事者 69%、ガソリンスタンド労働者 71%、大型バス運転者 85%、トラック運転者 80%等々。
これで見ると、かなり大幅なアップ要求ですよね。早期交渉決裂もうなずける気がします。一部の報道では「まったく馬鹿げた要求」「空想の世界の要求」とかの厳しい言葉もあるとか、ないとか。
経済界や政治の上の方からは「ストライキは今のアイスランド社会にとって、深刻なダメージとなるよー」という懸念の声が聞かれます。
その反面、一般市民の方からはスト支援の声も多く聞こえてきます。
十一年前の経済崩壊以来、アイスランド社会での賃金の「二極分化」がよく語られてきました。一割以下の「金持ち族」プラス二割程度の「まあいい給料族」と七割の「低所得者層」の二極です。
本来はここに「生活impossible貧困層」が入るべきかもしれません。絶対数はそれほどでもないかもしれませんが。実際にこの社会でも「この給料でどうやって生活できるのか!?」という人たちが存在しているのです。
賃上げを後押しする「ハングリー行進」のイベント 2月23日
Myndin er ur Facebook_Event
そういう人たちの怒りが今回の組合側の要求の背後にあります。銀行のマネージャーらが月に300万とかにサラリーをアップするとかの報道を見て、頭に血が上っている人は多いのです。
当たり前ですよね。十年前にこの国のすべての人々にあれだけのしんどい体験をさせた張本人たちが、いけしゃあしゃあとベラボウなサラリーを受けようとしているのですから。「その金、まず返すべき人たちが他にいるだろ!?」です。
経済崩壊以来、ある意味では官民一体のような「挙国一致」で危機を切り抜けたアイスランド。今は好況の追い風を受けていますが、これまでの過程でおざなりにされ、放って置かれた課題も山とあります。
老齢者の年金カット、障害者への保障の劣化、外国人労働者への違法な労働環境の放置、病院関係者の低賃金・高負担労働等々。
今の時期、そろそろこういう諸問題をきちんと議論の場に上げ、「普通の人々」が「受けるべき保障」「当然の労働の対価」を享受する方向への転換を図るべきなのでしょう。
今回の賃上げ交渉とストライキの危機、単なる数字のやりとり以上に奥深いものがあると思います。
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
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