一週間ほど前の土曜日に、久々に洗礼式を執り行う機会がありました。洗礼式はアイスランドではわりと日常的なイベントですので、この機会に取り上げてみたいと思います。
その前に「洗礼式とはなんぞや?」という方も多いでしょうから少し説明。洗礼式はキリスト教の祭儀のひとつで、英語ではBaptismと呼ばれ、人をその原罪から清めるための儀式です。この洗礼式を受けるとキリスト教徒とされます。
ですからキリスト教徒の家庭で生まれた赤ちゃんや、大人になってからキリスト教に入る人がこの洗礼式を受けることになります。(教派によっては赤ちゃんの洗礼式はしないところもありますが、そこまでは深入りしません)
洗礼式は基本的に「一度きり」の儀式で、アイスランドでは赤ちゃんの時に受けるのが圧倒的な割合です。(ちなみに非キリスト教国の日本では成人になってからの洗礼式の方が多いですね)
アイスランド語ではSkirn「スキールン」といいます。「きれいにする」というまんまの意味ですが、こちらで面白いのはこの洗礼式の際に赤ちゃんに命名するのが習わしになっていることで、リチュアルの中に (牧師)「この赤ちゃんは何と名のることになっていますか?」(親)「XXXです」とちゃんと組み込まれています。人によってはスキールンとは「命名式」のことだと勘違いしていることもあります。
アイスランドでは家族が一族の中の誰かの名前をもらって赤ちゃんに継承していく習わしが強いので、時々「誰の名前をもらうか」が興味の対象になることがあります。そのためその洗礼式のその場まで「ヒ・ミ・ツ」ということもあります。
以前担当した洗礼式で、赤ちゃんのパパの両親が離婚していて、息子夫婦と確かあまり良い仲でなかったのだろうと思いますが、そのパパのお父さんの名前を赤ちゃんに付けることが式の中で明らかになって、当のお父さんが感激していたことがありました。
洗礼式はまず無条件に喜ばしいお祝いの式です。なにしろ赤ちゃんが主役ですから。ところが私は牧師であっても「特別職」にあるため(その説明はまたの機会に)、なかなか洗礼式をする機会が回ってきません。仕事上の仲の良い同僚の赤ちゃんの時ぐらいがせいぜいです。
というわけで、先日の洗礼式はほぼ一年ぶりでした。大きな教区の普通の牧師さんなら年間六、七十はあると思いますが。なんと慎ましいワタシ。
今回の赤ちゃんの両親は別に友人ではありませんでした。ふたりともアイスランド人なのですが、パパが「キリヤマファミリー」というわりと人気のバンドのメンバーで、日本になにか関心があるようです。「日本人」ということで以前一度だけ録音の際にナレーションを手伝ったことがあるのです。それでなにか「ひいき」にしてもらったみたいです。当日知ったのですが、ママの方は大学の神学部にいるそうで。
さて、当日は土曜日の午後でした。寒いけど静かな気持ちの良い日で、式は赤ちゃんの自宅でもたれました。半地下にある普通の大きさのフラットに、親戚友人等が...子供も全部合わせたら四十人くらいはいたのではないかと思います。相当ひしめき合いましたから。
居間の一角に小さなテーブルを用意。クロスをかけてから綺麗なガラスのボウルに冷たくない水を入れ、その脇にキャンドルを二本。反対側のテーブルには、式後のお茶用にケーキ類が何種類も置かれます。加えてママのお父さん(赤ちゃんのおじいちゃん)が前日からラム肉スープを用意したそうで、いい匂いが充満しています。
このサイズの居間(ダイニングと連結)に四十人が入ると、さすがに暑いです。かつ酸欠の心配が...
短い挨拶をして、皆で子供用の讃美歌を歌います。それから式のリチュアル。名前を聞いた後、赤ちゃんの頭にボウルから手で水をすくい「父と子と聖霊のみ名によって」三回「チャポッ」とやります。さすがに赤ちゃんはびっくりして普通は泣きだすのですが、今回はしぶとい子で持ちこたえました。(^-^;
ちなみに教派によっては「深礼」といって体全体を浴槽のような桶に沈めることもあります。一度だけ立ち会いましたが(ロシア正教会)赤ちゃんパニックで大泣きでした。「チャポッ」のルター派でよかった...(*^^*)
そしてお祈りの後、パパのお父さんがギターを弾き、誰だか身元の知れなかった若い女性(多分ママの姉妹)が楽しい歌を披露。そして最後にもう一度皆で讃美歌を歌って式は終了。全部で二十分くらいのものです。
家庭での洗礼式 この式で命名もされます
その後は皆がスマホ片手に名前付きになった赤ちゃん群がり、しばしして落ち着くとお茶会が始まります。牧師さんはこういう時、そそくさと退散はできませんのでお茶会に交じりますが、なんたって勝手知ったる一族郎党の中で、こちらは知己がほとんどないのですから話し相手を探すのにも苦労します。
こういう時、アイスランド人はほとんど気配りというものを知らないので、下手をすると三十分ひとりでポツンとしているようなハメに陥ることさえあります。
今回はポツナンとしていたおじいちゃんを捕まえて話しを始めましたが、赤ちゃんの曾おじいちゃんだということ。そこまで老けて見えなかったので歳を訊くと「七十四歳」とのこと。その歳で「曾おじいちゃん」?二十五で子供ができて、その子が二十五で子供を作り、さらにその子が二十五で子供を作れば成り立つか? あり得ますね、ここなら十分。
洗礼はきちんと役所に届けるので書類があるのですが、そういえば立証人としてサインした赤ちゃんのおばあちゃん(ママのお母さん)はワタシより五歳も下だった...
久々の洗礼式でしたが思わぬ発見にいささか複雑?な心境となりました。いやいや自分に孫がないことじゃないですよ。赤ちゃんのおばあちゃんが自分より若いことです。(*^^*)
家庭でのスキールンとは大体このようなものです。今回のはわりと平均的家庭バージョンでした。
それにしてもこういう席でラム肉スープが出るのはめずらしいんじゃないかなあ?立ちながらスープをいただくのはなかなか難しかったですが。おじいちゃんが二日ががりで作ったんだから文句はいえません。
赤ちゃんよ、元気で育てよー!!
応援します、若い力。Meet Iceland
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
その前に「洗礼式とはなんぞや?」という方も多いでしょうから少し説明。洗礼式はキリスト教の祭儀のひとつで、英語ではBaptismと呼ばれ、人をその原罪から清めるための儀式です。この洗礼式を受けるとキリスト教徒とされます。
ですからキリスト教徒の家庭で生まれた赤ちゃんや、大人になってからキリスト教に入る人がこの洗礼式を受けることになります。(教派によっては赤ちゃんの洗礼式はしないところもありますが、そこまでは深入りしません)
洗礼式は基本的に「一度きり」の儀式で、アイスランドでは赤ちゃんの時に受けるのが圧倒的な割合です。(ちなみに非キリスト教国の日本では成人になってからの洗礼式の方が多いですね)
アイスランド語ではSkirn「スキールン」といいます。「きれいにする」というまんまの意味ですが、こちらで面白いのはこの洗礼式の際に赤ちゃんに命名するのが習わしになっていることで、リチュアルの中に (牧師)「この赤ちゃんは何と名のることになっていますか?」(親)「XXXです」とちゃんと組み込まれています。人によってはスキールンとは「命名式」のことだと勘違いしていることもあります。
アイスランドでは家族が一族の中の誰かの名前をもらって赤ちゃんに継承していく習わしが強いので、時々「誰の名前をもらうか」が興味の対象になることがあります。そのためその洗礼式のその場まで「ヒ・ミ・ツ」ということもあります。
以前担当した洗礼式で、赤ちゃんのパパの両親が離婚していて、息子夫婦と確かあまり良い仲でなかったのだろうと思いますが、そのパパのお父さんの名前を赤ちゃんに付けることが式の中で明らかになって、当のお父さんが感激していたことがありました。
洗礼式はまず無条件に喜ばしいお祝いの式です。なにしろ赤ちゃんが主役ですから。ところが私は牧師であっても「特別職」にあるため(その説明はまたの機会に)、なかなか洗礼式をする機会が回ってきません。仕事上の仲の良い同僚の赤ちゃんの時ぐらいがせいぜいです。
というわけで、先日の洗礼式はほぼ一年ぶりでした。大きな教区の普通の牧師さんなら年間六、七十はあると思いますが。なんと慎ましいワタシ。
今回の赤ちゃんの両親は別に友人ではありませんでした。ふたりともアイスランド人なのですが、パパが「キリヤマファミリー」というわりと人気のバンドのメンバーで、日本になにか関心があるようです。「日本人」ということで以前一度だけ録音の際にナレーションを手伝ったことがあるのです。それでなにか「ひいき」にしてもらったみたいです。当日知ったのですが、ママの方は大学の神学部にいるそうで。
さて、当日は土曜日の午後でした。寒いけど静かな気持ちの良い日で、式は赤ちゃんの自宅でもたれました。半地下にある普通の大きさのフラットに、親戚友人等が...子供も全部合わせたら四十人くらいはいたのではないかと思います。相当ひしめき合いましたから。
居間の一角に小さなテーブルを用意。クロスをかけてから綺麗なガラスのボウルに冷たくない水を入れ、その脇にキャンドルを二本。反対側のテーブルには、式後のお茶用にケーキ類が何種類も置かれます。加えてママのお父さん(赤ちゃんのおじいちゃん)が前日からラム肉スープを用意したそうで、いい匂いが充満しています。
このサイズの居間(ダイニングと連結)に四十人が入ると、さすがに暑いです。かつ酸欠の心配が...
短い挨拶をして、皆で子供用の讃美歌を歌います。それから式のリチュアル。名前を聞いた後、赤ちゃんの頭にボウルから手で水をすくい「父と子と聖霊のみ名によって」三回「チャポッ」とやります。さすがに赤ちゃんはびっくりして普通は泣きだすのですが、今回はしぶとい子で持ちこたえました。(^-^;
ちなみに教派によっては「深礼」といって体全体を浴槽のような桶に沈めることもあります。一度だけ立ち会いましたが(ロシア正教会)赤ちゃんパニックで大泣きでした。「チャポッ」のルター派でよかった...(*^^*)
そしてお祈りの後、パパのお父さんがギターを弾き、誰だか身元の知れなかった若い女性(多分ママの姉妹)が楽しい歌を披露。そして最後にもう一度皆で讃美歌を歌って式は終了。全部で二十分くらいのものです。
家庭での洗礼式 この式で命名もされます
その後は皆がスマホ片手に名前付きになった赤ちゃん群がり、しばしして落ち着くとお茶会が始まります。牧師さんはこういう時、そそくさと退散はできませんのでお茶会に交じりますが、なんたって勝手知ったる一族郎党の中で、こちらは知己がほとんどないのですから話し相手を探すのにも苦労します。
こういう時、アイスランド人はほとんど気配りというものを知らないので、下手をすると三十分ひとりでポツンとしているようなハメに陥ることさえあります。
今回はポツナンとしていたおじいちゃんを捕まえて話しを始めましたが、赤ちゃんの曾おじいちゃんだということ。そこまで老けて見えなかったので歳を訊くと「七十四歳」とのこと。その歳で「曾おじいちゃん」?二十五で子供ができて、その子が二十五で子供を作り、さらにその子が二十五で子供を作れば成り立つか? あり得ますね、ここなら十分。
洗礼はきちんと役所に届けるので書類があるのですが、そういえば立証人としてサインした赤ちゃんのおばあちゃん(ママのお母さん)はワタシより五歳も下だった...
久々の洗礼式でしたが思わぬ発見にいささか複雑?な心境となりました。いやいや自分に孫がないことじゃないですよ。赤ちゃんのおばあちゃんが自分より若いことです。(*^^*)
家庭でのスキールンとは大体このようなものです。今回のはわりと平均的家庭バージョンでした。
それにしてもこういう席でラム肉スープが出るのはめずらしいんじゃないかなあ?立ちながらスープをいただくのはなかなか難しかったですが。おじいちゃんが二日ががりで作ったんだから文句はいえません。
赤ちゃんよ、元気で育てよー!!
応援します、若い力。Meet Iceland
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is