民間賃貸住宅の空室や一戸建ての空き家などを活用した〝準公営住宅制度〟とも呼ぶべき新たな「住宅セーフティネット制度」が始まった。住宅
弱者の入居を拒まない賃貸住宅としてオーナーや事業者が都道府県などに登録する。登録に際し改修に要した費用は戸当たり最大100万円(国費)を
補助する。低額所得者(政令月収15万8000円以下)が入居する場合は月額最大4万円の家賃補助も行う画期的制度だ。
全国賃貸住宅経営者協会連合会の三好修会長は新制度創設を「社会保障と住宅政策の融合」と高く評価する。しかも、住宅確保要配慮者の対象範
囲は新婚・子育て世帯、高齢者、外国人などと幅広いため、同制度が今後普及すれば、一般の賃貸住宅から家賃補助が受けられる登録住宅への住み
替えが増える可能性も指摘されている。
首都圏では近年、賃貸住宅の空室が急増している。その一方で、家賃が安い公営住宅への応募倍率は全国平均が5.8倍なのに対し、東京都は22.8
倍、首都圏平均でも15.5倍と高い。若年世帯の実質所得が低下していることや、年金暮らしの高齢者世帯増加などで、低額賃貸住宅に対する需要が
供給を大幅に上回っているためとみられる。しかし、地方公共団体の財政状況や人口減少の更なる進展などを考えれば公営住宅の建設が増える可能
性は低い。
そこで、今後は民間の賃貸ストックを活用し、これまで公営住宅が担ってきたセーフティネット機能を補っていく狙いがある。空き家対策との連
動もポイントで、改修費補助は、自治体が参加する場合は国費と合わせると戸当たり最大200万円となる。こうした厚い支援策で政府は20年度末ま
でに17万5000戸の供給を見込む。
民間賃貸への家賃補助導入は初めてで、住宅政策が大きな転換期を迎えている。しかも家賃補助が受けられる世帯は意外に幅広い。新婚、子育て
世帯(18歳未満の子が対象)、高齢者、外国人世帯などが対象で、所得制限(年収)は単身者で296万円、二人世帯なら351万円となる。さほど〝低額〟
というイメージはない。非正規雇用が増え格差拡大社会になっていることが背景にある。
補助金は国と地方公共団体を合わせると最大毎月4万円となる。支給方法は6か月程度の単位で、家主に直接支払われる仕組みだ。つまり、仮に通
常家賃が10万円の住戸に6万円で入居させていた場合には、その実績を確認した上で、差額の4万円×6か月分が一括して後払いされることになる。
ただし、最低10年間は住宅確保要配慮者専用賃貸住宅として管理運営されていくことが条件である。
国交省 シェアハウスにも期待 1室最大100万円を補助
新制度のもう一つのポイントがシェアハウスも登録住宅の対象となったことである。シェアハウスの登録基準は一般の賃貸住宅とは別建てとな
る。耐震性を有していることなどは共通だが、住宅全体の床面積は15m2×居住人数+10m2以上。各専用部分の定員は1人で床面積が9m2以上となる。
改修費補助は1室当たり最大100万円となる。
国土交通省がシェアハウスを登録対象に加えた理由は、シェアハウスの入居者はこれまでは20~30代の社会人や学生が多かったが、今後は低額所
得者、高齢者、障害者などの需要が増えてくる社会背景があるからだ。これからは単身世帯があらゆる年代で増える。互助・共助社会を形成しつ、
シェアハウスのように住宅をシェアしていく文化が醸成されていく可能性が高い。
国土交通省がシェアハウスを登録対象に加えた理由は、シェアハウスの入居者はこれまでは20~30代の社会人や学生が多かったが、今後は低額所
得者、高齢者、障害者などの需要が増えてくる社会背景があるからだ。これからは単身世帯があらゆる年代で増える。互助・共助社会を形成しつ、
シェアハウスのように住宅をシェアしていく文化が醸成されていく可能性が高い。
同省は新・住宅セーフティネット制度の施行を機に健全なシェアハウス事業が普及するように、このほど「シェアハウスガイドブック~あなた
も、所有する空き家をシェアハウスに活用してみませんか~」を作成した。
シェアハウスの運営管理の流れ、空き家をシェアハウスに活用するメリット、運営・管理上の留意点、住宅確保要配慮者を入居者とする場合の具
体的方法などが記述されている。全37頁に及ぶ詳細な内容で、セーフティネット住宅としてのシェアハウスに対する同省の強い期待が伺える。
登録住宅情報 専門サイト開設
また同省はこのほど、新・住宅セーフティネット法に基づき登録された住宅確保要配慮者向け賃貸住宅に関する情報を提供する専門サイトを開設
した。主な機能は3つだ。 (1)誰でもセーフティネット住宅を検索し、同住宅の所在地、家賃などを閲覧することができる。(2)事業者に対しては
セーフティネット住宅登録申請の仕方についての説明、登録データの入力、更に、登録申請書をダウンロードして各役所に提出する手続きなどが記
載されている。登録データを入力するだけでは審査されない。(3)都道府県または政令市・中核市の登録事務担当者は登録データの管理ができる。
利用方法はWEBブラウザのアドレス入力欄にhttp://www.safetynet-jutaku.jpと入力するか、検索サイトで「セーフティネット住宅情報提供シス
テム」と検索する。
社会保障と住宅政策が融合
【解説】新・住宅セーフティネット制度は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅供給促進法」の改正法が10月25日に施行され、正式にスタートし
たばかり。住宅・不動産業界、賃貸住宅オーナーなどへの周知が進むのはこれからだ。ただ、新制度発足で社会保障と住宅政策の融合が始まったこ
とは確かであり、中・長期的にみれば、今後の賃貸住宅市場に与えるインパクトは計り知れないものがある。
国土交通省の伊藤明子住宅局長も「普及具合を見ながら、改善すべき点があれば積極的に取り組んでいく」と意欲的だ。全国賃貸住宅経営者協会
連合会の来年度要望項目の中には、新・住宅セーフティネットの対象範囲を現行の新婚・子育て世帯、高齢者、低額所得者などに限定せず、ケアな
ど住宅弱者の生活を支援する人たちで一定の立地に居住する必要がある人たちも対象にすることが盛り込まれている。今後の柔軟な法運営に期待が
かかる。(本多信博)
住宅新報10月31日