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65歳以上の4人に1人が賃貸への入居を断られた経験あり 高齢者の入居を難しくする3つの阻害要因

2021年08月30日 | 賃貸借契約
住宅難民問題」の解決にはたして道はあるのか
山本 久美子 : 住宅ジャーナリスト
https://toyokeizai.net/articles/-/449717

 65歳からの部屋探しを専門で支援する株式会社R65が、こんな衝撃的な調査結果を公表した。
 65歳以上の「4人に1人」が、賃貸住宅への入居を断られた経験がある。20~30代の約6割は、この「65歳以上の住宅難民」問題を知
らない。若い世代には意識しづらいようだが、高齢者は賃貸住宅が借りづらいという現実がある。理由はさまざまだが、いくつかの原因につ
いては解決の糸口も見え始めている。詳しく見ていこう。

65歳以上の住宅難民問題とは? 

 R65が、全国の「65歳以上」と「20~30代」を対象に、65歳以上が住宅難民になりやすいことについて調査をした。65歳以上に、
「不動産会社に入居を断られた経験があるか」を聞くと、「はい」と回答したのは全国では23.6%で、関東圏に限ると27.9%にまで上
昇した。さらに、断られた経験の回数を聞くと、「1回」という人が半数近くになるが、「5回以上」という人も13.4%(関東圏では17.
6%)もいた。
 調査結果から、賃貸住宅を借りる高齢者が多い都市部ほど、入居を断られた高齢者の数やその頻度が多いことがわかる。高齢になる
と賃貸住宅が借りづらいことはわかっていたものの、対象の多さや断られた頻度の多さを知ると、胸が痛むばかりだ。
 R65によると、「65歳以上が入居可能な賃貸物件の割合は、全体の約5%しかないといわれている」という。高齢者が安心して暮らす
には、商業施設や病院などが近くにあり、段差などがないバリアフリーな建物であることなども求められるので、こうした条件を満た
したうえで、入居を拒まれないという賃貸住宅を探すのは、本当に大変なことだろう。
 では、なぜ高齢者が入居を拒まれるのだろうか。(公社)全国宅地建物取引業協会連合会(以下、全宅連)不動産総合研究所の岡崎卓也
さんに聞いてみた。
 全宅連では、4年前から「住宅確保要配慮者等のための居住支援に関する調査研究」に取り組んできた。住宅確保要配慮者とは、住
宅の確保が難しいといわれる高齢者や低額所得者、障害者、外国人などだが、なかでも対象者数が多くて日常的に接することの多い
「高齢者」について、居住支援のための調査研究を進めてきた。
 岡崎さんによると、全宅連に所属する不動産会社各社への調査を進めたところ、高齢者の入居を妨げる要因として、主に3つの課題
が挙げられたという。
(1) 入居時の不安:何かあったときに対応してもらう「連帯保証人」や「緊急連絡先」が確保できるか
(2) 入居中の不安:認知症など判断力が低下した場合、どう対処したらよいか
(3) 賃貸契約終了時の不安:亡くなったとき、特に孤独死などが起きた場合に、賃借権の相続の解消や残置物の処理に手間がかかり、
次の入居に支障があるのではないか
 こうした不安が阻害要因となって、貸主(大家)が貸したがらない、不動産会社が住宅の斡旋をしたがらないといった事態になり、高
齢者が賃貸住宅の入居を拒まれるという結果になっているのだ。
 このような実態を受けて全宅連では、高齢者の入居に際して、「入居審査」や「賃貸借契約」の際の注意点をまとめたガイドブック
を作成し、室内の異常に早期に気づくための高齢者の見守り機器の設置を勧めたり、孤独死などで発生する原状回復費用や残置物の処
理費用、次の入居までの空室等の家賃保証などに対応する保険への加入を促したりといった、不安を払拭する方法を提案している。
 さらに、認知症や健康上の問題については、介護・医療・法的専門家などとの連携が必要なため、福祉事業者等とのネットワークの
構築も提案をしている。こうした不動産業界の努力でカバーできることもあるが、一方で、不動産業界の頑張りだけでは対応できない
大きな課題も残っている。

孤独死で事故物件と扱われるのが最大の不安

 例えば、室内で自殺や他殺、事故死などが起きたり、近隣に暴力団の事務所などがあったりすると、そこに住むことに嫌悪感を持つ
人がいる。これを「心理的瑕疵(かし:欠陥や傷などの意味)」という。宅地建物取引業法では、不動産会社は契約の判断に影響を及ぼ
すような重要な事実を告知する義務があるとしているが、心理的瑕疵もこの重要な事実に含まれる。
 現状では、孤独死も心理的瑕疵に該当すると考える人が多いため、それを告知することになり、そうなるといわゆる「事故物件」と
して、次の入居者が決まらなかったり、家賃を下げざるをえなかったりする。貸主にとっては、家賃の値下げや空室期間の長期化は避
けたい事態なので、高齢者の入居に不安を感じる大きな要因になる。
 高齢者の自然死は日常起こりうることなので、孤独死は心理的瑕疵に該当しないという考え方もあるが、孤独死で発見が遅れる場合
もあって、その場合は異臭などの問題も発生する。現状では、心理的瑕疵の法的な基準が定まっていないことから、不動産会社によっ
て告知する内容などが異なるというのが実態だ。
 全宅連は心理的瑕疵の考え方を整理し、行政に働きかけた。国土交通省も、2020年2月に「不動産取引における心理的瑕疵に関する
検討会」を設置し、2021年4月に「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)を取りま
とめた。
 ガイドラインの案によると、住宅における自然死については原則として告知は不要とするが、「死亡後に長期間放置されたことで室
内外に臭気・害虫等が発生し、いわゆる特殊清掃(原状回復のために消臭・消毒や清掃)等が行われた場合」には告知を要する、などと
している。ガイドライン案は、パブリックコメントを経て修正のうえ、秋には決定する見込みだ。
 孤独死には別の問題もある。賃借権は相続の対象になるからだ。賃貸借契約期間中の孤独死で、連帯保証人や緊急連絡先が相続人で
あれば、契約を終了させることができるが、相続人が不明な場合は法的な手続きが必要となり、契約を終了させるまでに時間がかかる
ことになる。
 さらに、入居者の残した家財道具等(残置物)も相続の対象になるので、勝手に処分することができない。相続人に引き取りを求める
か、処分の同意を得る必要もある。
 この残置物の問題についても、国土交通省が2021年6月に、賃貸借契約の解除や残置物の処理を内容とした死後事務委任契約に関す
る「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を定めた。
 こうした国の指針を得ることで、賃貸借契約の段階でリスクを減らすことができる体制が整いつつある。高齢者の住宅難民問題への
糸口は見出したものの、本格的な不安解消にはまだ時間がかかるだろう。

若年層は長期的なプランを

 さて、再びR65の調査結果を見よう。この「高齢者の住宅難民問題」については、65歳以上では64.2%がその実態を認知している一
方、20代では64.4%、30代では58.6%と6割の若者が認知していないという結果になっている。
 こうした現状を知った20~30代は、「高齢者の受け入れはリスクが伴うのでしょうがない」53.8%(とてもそう思う16.2%+まあそう
思う37.6%)と回答する一方で、「将来のことを不安に思う」(67.8%)、「年齢を理由に住まいを選択できないことはおかしい」
(63.0%)、「社会課題としてもっと周知されるべき」(72.7%)などの問題意識も高めたようだ。
 住宅確保要配慮者に対しては、本来は公営住宅がカバーすべきではあるが、公営住宅の数は決して多くはない。また、国土交通省で
は、住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅(=セーフティネット住宅)を登録し、「セーフティネット住宅情報提供システム」に
よって物件を検索できるようにしているが、これも数は十分ではない。
 高齢者の住宅確保として、一般の賃貸住宅が活用されることが期待されるが、行政や業界のこれからの頑張り次第というところだろ
う。
 となると、住宅を購入して高齢期のリスクに備えるという考え方も生まれる。困ってから住宅を購入しようとしても難しい場合も多
いので、住宅ローンを組める若いうちから高齢期の住宅確保を視野に入れて、長期的な計画を立てることが必要だろう。
 超高齢化社会となる我が国においては、高齢期にどこに住むかは大きな課題だ。社会全体で改善に向けて本腰を入れて取り組む段階
にきているように思う。

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