「大江健三郎 と くいだおれ人形」

2012-06-07 11:04:06 | インポート
                  


          「大江健三郎 と くいだおれ人形」






         「くいだおれ人形」


「集会で話す大江健三郎氏」=6日午後6時41分、東京・日比谷公園、川村直子撮影
朝日新聞デジタル
『脱原発署名「ずっと続く」 大江さん、大飯再稼働に反対』

 
  私は大江健三郎氏の著作の愛読者です。

彼は何とキャッチ―な「題名」を考え付く人であるか。

「死者の奢り」「日常生活の冒険」「見る前に飛べ」

「持続する志」「厳粛な綱渡り」「洪水はわが魂に及び」

「万延元年のフットボール」

「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」等々

これらの優れた題名だけも十分ノーベル文学賞に値する

と私は思っている。だから、

「許して」





「鵺(ぬえ)の鳴く夜は」

2012-06-07 03:24:57 | 従って、本来の「ブログ」



          「鵺(ぬえ)の鳴く夜は」


 つい今し方、ちょうどブログを更新し終わって一息吐いていると、

開け放した窓の下で何とも、この地方の方言で言う「いなげな」(「異気

」と書く) 獣の絶叫する鳴き声がした。それを字にすると、

「ギィヤャァウワァァ――ッ!ギィャャャウァ――ッ!ガワアァァ――オ!」

と、とても書き表せないが、その断末魔の叫びは何度も繰り返された。

私は、始めはネコの喧嘩でも始まったのかと思って関わらずに居たが、

その、恰も何者かに不意打ちを食らって今まさにこの世から消え去ろう

とするかのような無念を訴える叫びに動揺して網戸を開けて窓の下を

覗いた。その声は決してネコやカラスなどの鳴き声ではなかったが、そ

れでは他にどんな生き物が斯くも大きな声で泣き喚くことが出来るだろ

うか?しかし、窓から漏れる明かりは限られていて闇夜全体を覗うこと

は叶わず、その鳴き声は更に凄みを増して続いていたが確かめることは

出来なかった。しばらくすると絶叫は止み、絶命したのだろうか、再び夜の

静寂が戻った。そして、固唾を飲んで鳴りを潜めていた蛙たちが何事もな

かったように一斉に聞き飽きた恋の唄を奏で始めた。

 ああ、我々が寝静まった後の与り知らない真夜中の世界の片隅でも、

今しも、生きとし生けるものたちは何時如何なることで自らの命を落とす

かもしれない恐怖と抗いながら、それでも闇の中を本能に追い立てられ

て生殖や捕食のために身を忍ばせて種を繋ごうとしている。いったい何

の為だろうか。それらすべての生きとし生けるものたちに定められた天

命は儚く、やがて全うしたものはその屍さえも晒さずに未練なく何と見事

に消え去ることか。

 それにしても、あの絶叫はいったい何の鳴き声だったのか?昨日、

辺り一面を草刈りしたのでそれが何ものかを巣穴から追い出したの

か?

 「気になる」

あっ、ホトトギスが鳴いている。

「一編書けたか?」





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「無題」 (四)―⑦

2012-06-07 00:58:34 | 小説「無題」 (一) ― (五)
  


          「無題」


           (四)―⑦


 あくる朝、美咲はかつてそこで働いていた母に連れられて店を訪れ、

店長に謝り、二度としませんと誓約して容赦してもらった。それから

何事もなく過ぎ、やがて受験勉強に追われる日々が始まり、志望校へ

の高校への入学を果たした。その頃から夕方だけコーヒーショップで

アルバイトとして働き始め、高校生活も特に何事もなく過ぎ、三年生

になるとすぐに大学受験が控えていたのでそれどころではなくなった。

当初は自宅から通える都内の大学を受ける予定だったが、ところが願

書を送る直前になって突然京都の大学へ行きたいと言い出した。それ

は、仕送りを求められる親にとっては大きな負担だった。妻から都内

の学校にするように説得してもらったが思い直してはくれなかった。

彼女は子供の頃から頑固で一度言い出したら人の話を聞こうとはしな

い。遂には学費だけ工面してくれればアルバイトをしながらでも通うと

まで言い張った。もちろん彼女の京都への憧れは知っていたがいった

い何故京都の学校なんだ、すると妻が、

「彼氏が京都の大学を受けるのよ」

「何だ、そういうことか。それで上手くいってんのか?」

「今はね」

離婚歴のある彼女にとってそれは含みのある言葉だった。妻が言うと

ころによると、彼氏の実家はそもそもが京都にあった。父親の転勤で

一家で東京暮らしを選んだが、いよいよ年が明ければ京都へ戻ること

になっていた。

「どんな子?」

すると妻が、アルバムを持ってきて美咲の彼氏を教えてくれた。もち

ろん見覚えがなかったが、なるほど美咲の好きになる男とはこういう

青年なのかとシゲシゲと眺めていると、

「ほら、この前の美咲の誕生日に居たじゃない」

「ああ、私が帰って来るのを待っていた奴か」

彼は、次女に「己然」(キサ)と名前を付けた親の顔が見たいと言って

一人残って私の帰りを待っていた。頭を下げた青年は今でいうイケメ

ンだった。私は親の直感からただの友達ではないと気付いたことを思

い出した。もうその頃には、私は美咲から疎まれて話しもしてくれな

くなっていた。それはある朝、便所に入ろうとするとすでに満室で、い

くら待っても施錠が解かれる様子がなく、妻によれば娘が便秘で苦し

んでいると教えてくれたので、それでは「鍵」が明かないと思い馴染み

のコーヒーショップに駆け込んで用を足した。帰り掛けにマスターが「

故障?」と訊くので、確かにクソ丁寧に「娘が便秘で便所から出て来

ない」みたいなことを吐いたのを、巡り巡って何時の間にか当の美咲

の耳にまで届いて、彼女は血相を変えて私に詰め寄り、

「もう、絶対に口を利かない!」

と、ついに絶縁を言い渡されるに到った。

                                    (つづく)


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