ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「聖なる炎」

2023-03-06 16:01:08 | 芝居
2月28日俳優座劇場で、サマセット・モーム作「聖なる炎」を見た(演出:小笠原響)。



ロンドン郊外の大邸宅。第一次世界大戦後、新型飛行機の試験飛行中に墜落事故を起こし、半身不随となってしまった長男モーリス。
愛情溢れる家族や友人に囲まれて平穏に暮らしていたのだが、ある朝、彼は謎の死を遂げる。残された者たちの言葉の応酬から、信じがたい事実が
次々に明らかになり・・・(チラシより)。

ネタバレあります注意。

<1幕>
車椅子のモーリス(田中孝宗)と医師ハーヴェスター(加藤義宗)がチェスをしている。
母タブレット夫人(小野洋子)は刺繡をし、看護婦ウェイランド(あんどうさくら)は本を読んでいる。
そこに母の長年の友人リコンダ少佐(吉見一豊)がやって来る。
モーリスの弟コリン(鹿野宗健)は父の遺産の取り分をもらってグアテマラに行き、農園をやって成功していた。今は一時帰国中。
あと一か月で、またグアテマラに戻る予定。

モーリスの妻ステラ(大井川皐月)とコリンは、モーリスに勧められてオペラ「トリスタンとイゾルデ」を見に行ったが、夕食を取らずに帰宅。
ステラは感動して食べる気がしなくて、と言うが、ふらついて倒れ、皆心配する。

母はステラに、モーリスが半身不随になってからこれまで5年間、あなたが自分を犠牲にして尽くしてくれたことに感謝している、と言い出す。
ステラは、どうしてそんなことを言うのかと驚く。
ステラと二人きりになると、モーリスはどういうわけか興奮して「あの(事故の)時、死んでいればよかった・・」と言う。
僕たちに子供がいたら、とも。
皆が去ってコリンと二人になったステラは怯えながら言う。
「彼は私たちのこと、気づいたかしら」
「私たち、どうなるの・・どうしてあなたは私を愛したの・・どうして私はあなたを愛したの・・」(!)

<2幕>
翌朝、モーリスは死んでいるところを発見される。
看護婦が検死をして欲しいと医師に言い出し、医師と少佐は驚く。
その根拠を問われて彼女は答える。
睡眠薬の錠剤が瓶の中に5錠残っていたのに、今朝見ると空っぽになっていた。本人が取れないように棚の上に置いておいたから自殺ではない、と。
つまり誰かがモーリスを殺したというのだ。
二人は何とか彼女を説得しようとするが、うまくいかない。

何も知らないステラが入って来る。白いドレス姿。
モーリスは、自分が死んでも喪服を着ないでほしい、と言っていたらしい。
彼女は看護婦に向かって言う。
あなたはお姉さんが日本にいると言ってたでしょう?〇〇ポンドあげるから日本に行ってしばらくゆっくりして来たら?
すると看護婦は怒り出す。「そんな申し出を、私が受けると思いますか」

殺人だなんて、そもそも誰にも動機がないじゃないか、と言われると、彼女は「知らないんですか、ステラさんは妊娠してらっしゃるんですよ!」と爆弾発言。
皆、驚愕して固まる。
そこに女中が、食事の用意ができました、と知らせに来る。
医師が「食事できるわけないだろう」と言うが、母は一人落ち着いて、嫁ステラに手を差し伸べ、「行きましょう」と促す。
   
  ~ここで休憩~
<3幕>
ステラはコリンと二人だけになると、「私はやってない」と言う。
コリンは「本当なの?妊娠してるって」「どうして教えてくれなかったの」「教えてほしかった」
ステラ「あなたに迷惑をかけたくなかった。あと一か月もすればあなたはグアテマラに戻る。その後、医師にお願いして転地療養と称してどこかで産むつもりだった・・。」

看護婦は、ステラが妊娠を気づかれ、自分の立場が危うくなることを恐れてモーリスを殺害したと信じ、彼女を憎んでいるらしい。
ステラは彼女に「そんなに私が憎い?」そして思い切って言う、「あなたはモーリスを愛していた」
すると看護婦はすぐさま傲然と言い返す。「だから何?」
「そう、私は彼を愛していた。私にとってモーリスは子供であり友達であり・・神様だった・・」
「モーリスも知っていた。そんな私に憐れみを感じていた・・」

コリンがステラの肩を抱いて「父親は僕だ」と告白。
一同またも驚愕。看護婦も「あなたが!?」と驚く。

看護婦は、言うべきことを言ったから出て行く、と言う。
母はタクシーを呼ばせ、看護婦に語り始める。皆も聞いている。
「私は若い頃、結婚して2人の子供をもうけた後、ある男性を好きになりました。警察官で・・・」
少佐があわてて止めようとするが、彼女は構わず続ける・・。
「私は恋を諦めたけど、若い二人には諦めてほしくないの。性欲は健全なものよ」
ここで看護婦と母は性欲について議論する。

タクシーが来たという。皆がそろうと再び母が語り出す。
「事故の後、私はモーリスと約束しました・・・」

夫人は看護婦に優しく言う、「あなたはステラに嫉妬する必要はなかったのよ。人の心は矛盾だらけ。モーリスにもいくつかの心があった。
その内の一つは、間違いなくあなたのものだった」と。

久々にずっしりと見応えのある芝居だった。
ラストでは気持ちよくもらい泣きしてしまった。
役者はみなうまい人ばかり。
演出も(初めて見たので他と比較できないが)、優れていると思う。

嫁から見ると、あまりに出来過ぎた姑。
「あなたはまだ若い」「自分を犠牲にすることはないのよ」「自分を大切に生きるのよ」
嫁の不倫の相手が自分の息子だからということも、もちろんあるだろうけど。

翻訳について一点だけ。
「ハーヴェスター医師」とか「ウェイランド看護婦」とか、盛んに口にされるのが、何とも耳障りだ。
原文では「ドクター〇〇」と「ナース〇〇」だろうが、どちらも呼びかけの言葉として普通に使われる言い方だ。
だから日本語に直すなら、「先生」と「ウェイランドさん」の方がふさわしいと思う。

非常によくできた芝居。
1幕のラストシーンなど、まるで運命的な出会いをしてしまったトリスタンとイゾルデのようで、戦慄を覚えた。
一方、夫人と少佐とのくだりは実におかしい。
タイトルは何を意味しているのだろうか。
残念ながらよくわからない。いろいろ考えさせられる。

サマセット・モームがこんな戯曲を書いていたとは!
評者は昔々「月と六ペンス」を読んだだけ。
彼がゲイだったことも知らなかった。
物書きには本当にゲイが多い。

素晴らしい戯曲ではあるが、謎解きの要素が大きいので、他の芝居と違って、しょっちゅう見るものではないだろう。
今回、38年ぶりの上演というのももっともだ。
いつか、内容をだいぶ忘れた頃に、またぜひ見たい。







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