ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「L.G.が目覚めた夜」

2024-09-16 22:57:20 | 芝居
9月3日シアターχで、ブシャール作「L.G.が目覚めた夜」を見た(翻訳・演出:山上優)。



作者はカナダの劇作家の由。

著名な死体保存処理の専門家(タナトプラクター)となったミレイユは、母の死をきっかけに30年ぶりに
故郷であるケベック州アルマに戻ってきた。ミレイユ自ら母の遺体の防腐処理をするために。
疎遠となっていた兄ジュリアンとその妻シャンタル、弟のドゥニとエリオットら家族とも再会する。
母の遺体の処理に関わりながら、その周囲で交わされる過去の、現在の、日常の家族の会話。
やがて母が死の直前に残した遺言が明かされる。母が死を前にして行った決断とは?
そして後には、すべての謎を解く、隠され続けていた秘密の告白という必然が待っていた。
・・・L.G. (ロリエ・ゴードロ)とは誰なのか。
ロリエ・ゴードロが目覚めた夜に一体何があったのか(チラシより)。

舞台は白壁に囲まれた殺風景な部屋。
遺体が一つ、ベッドに寝かされ、灰色の髪の毛がこちらを向いている。
ミレイユ(平栗あつみ)がカートを引いて登場。客席に向かって語り出す。
「私が小さい頃、夜眠れない時、近所の家に入って、人々の寝顔を見た。
どこの家も玄関に鍵などかけていない頃だった・・」
彼女が母の遺体に近づいていると、部屋に助手が入って来て驚く。
「ここに来てはいけません!」
だが彼女は有名なミレイユのことを知っていて、彼女の書いた本も読んでいた。
少し話すうちに助手は態度を変え、彼女に指図されてエンバーミング(遺体衛生保全)を手伝い始める。

三男(小柳喬)が来る。少し精神的な障害があるらしく、治療を受けている。
彼は母と二人暮らしだった。
彼は、姉に言われて母の手にマニキュアを塗る。

長男ジュリアン(本多新也)とその妻シャンタル(一谷真由美)が来る。
ジュリアンはミレイユを見て気絶する!

ジュリアンは母が遺言で、全財産と別荘を「あの男」に遺した、と怒っている。
みんなはそれを聞いて驚く。
「ミレイユをレイプしたロリエに!?」
みな立ち去り、一人になったミレイユは、前に出て語り出す。
「ロリエ・ゴードロは16歳。素敵な若者だった。サッカー部で・・・
私は彼の寝顔を見るのが好きだった・・」
あの夜、彼の部屋の洋服ダンスの陰に隠れていると、彼は目を覚ましてビールを飲み・・」

次の場面で、母の遺体は横向きにされ、土色の顔がむき出しになっている。
部屋に豪華な花が次々と運び込まれる。
花と共にカードが世界中から届く。
ほとんどが、ミレイユがかつてエンバーミングした人々の遺族からだった。
彼女はヨハネ・パウロ二世の遺体も処置したという!

次男ドゥニ(玉置祐也)が来る。
彼はミレイユに「何しに来た?」とけんか腰。
ミレイユが何十年も帰省せず、ドゥニの妻が男を作って出て行ったことも知らない。
兄弟たちがどうしているかも知らない、となじる。
ミレイユは語り出す。
「あの夜、ロリエ・ゴードロの部屋にいると、ロリエが目を覚ましてビールを飲み、・・・」
途中でジュリアンがシャンタルに「外で待ってろ」と言って、彼女を部屋から出そうとするが、シャンタルは聞かない。
ミレイユは話し続ける。
 「誰かがやって来て、ロリエ・ゴードロはその人にキスした・・
 私は持っていたボールを落としてしまった。
 ボールはロリエ・ゴードロのところまで転がって行き、ロリエ・ゴードロは私を見た。
 私は大声を上げた。
 ジュリアンは・・・
 ロリエ・ゴードロの両親も、うちの両親もやって来た。
 ジュリアンは「ロリエ・ゴードロが僕の妹をレイプしようとしたけど、僕がその前に止めた」と言った。
 ロリエ・ゴードロは何も言わなかった。
 12歳の私も何も言わなかった・・。

シャンタルはわけが分からず、「ロリエの相手の女性は誰?」と聞く。
だが義弟たちは彼女に「察しろよ」と言い、ドゥニは兄に向かって「このホモ野郎!」となじる。
あまりのことにシャンタルは椅子に座ったまま呆然とし、ジュリアンは床に座り込んで両手で顔を覆う。
それを見て、エリオット「母さんと同じだ!死んだ時、母さんも、こうやって顔を隠してた」
ミレイユは母が死ぬ少し前、母に電話して真実を話した。
母はすぐにエリオットに電話帳を持って来させ、恐らくロリエ・ゴードロに電話したらしい。
その後、公証人にも連絡し、遺言を書き換えたのだった。

あの事件の後、ロリエ・ゴードロの人生は激変した。
ドゥニが回想する。
高校の部活も辞め、かつての仲間たちに「この幼児性愛者!」と罵られ、激しい暴力を振るわれた・・。
ジュリアンとドゥニも一緒にやるように言われて・・・ジュリアンは震えながら・・
だが皆が去ると、ジュリアンは傷ついてボロボロになったロリエを抱き起して、服をかけ、やさしく抱きしめた・・
その時、ドゥニは兄がなぜそんなことをしたのかわからなかった。

皆、部屋から出て行き、シャンタルとミレイユだけが残る。
しばらくたつとシャンタルはミレイユに言う、「私にはジュリアンがすべてなの。いろいろあったけど、これまでも乗り越えて来た。
今度も乗り越えるわ」(この時、ジュリアンは部屋の入り口で聴いている)
彼女はミレイユに14歳の息子の写真を見せる。
「この子には父親のことは知らせない方がいいと思うの」
ドゥニの二人の娘の写真も見せる。
ジュリアンが入って来て、帰宅する妻を見送った後、ミレイユと二人だけになると「もう二度と戻って来るな」と冷たく言い放つ。幕

~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~~~~
後味の悪い芝居だった。
謎は解けるが、悪い奴が幸せになり、罪の意識に苦しむわけでもない。
遺産が全部、犠牲者であるロリエ・ゴードロに行くからいいのか。
カタルシスとはほど遠い。
ジュリアンが幸せになっていいのか?
こいつのウソのために二人の人間が人生をメチャメチャにされたというのに。
・・・と、見終わった直後は思ったが、よくよく考えてみると、ミレイユが夜、よその家に侵入していなければ、
また、彼女が手にしたボールを落とさなければ、そして大声を出さなければ、二人はいつものように(?)
二人だけの楽しみにふけっていただけだし、誰に迷惑をかけたわけでもない。
現代の感覚から言えば、特に悪いことをしていたわけでもない。
そう考えると、ジュリアンから見てミレイユが疫病神みたいな存在だというのも理解できる。

また、ジュリアンとロリエとの間では、その後、ああするしかなかったという了解と許しが、すでに出来上がっていたのだろう。
だからジュリアンは、母の遺産を彼に贈って埋め合わせをする必要も感じず、
むしろ妹が余計なことをした、と思ったのではないだろうか。
弟たちに秘密を知られて罵倒され、今後もずっと恥ずかしい思いをしなければならなくなったし。

ただ引っかかる点も残る。
①「レイプ未遂」のはずが、いつの間にか「レイプされた女」「レイプした男」になっているのが妙だ。
②途中で「別荘が火事だ」という知らせに、みんな駆け出していくが、その話はそれきり触れられない。
 果たして別荘は燃えてしまったのだろうか?まさに尻切れトンボだ。

そもそも女の子が夜、他人の家に勝手に入り込んで、人の寝顔を見るのが密かな楽しみだった、って、どうなんでしょう?
昔の日本の田舎なら、縁側から上がり込むとか想像できるけど、カナダって、家の造りが日本とは全然違うはずだし。
だからなかなか想像できないけど、もしかしたら、地域によってはそんなことが可能だったのかも知れない。

カナダのフランス語圏の話だから、恐らく人々はカトリックだろう。
彼らが子供の頃、同性愛者であるとわかったら、どんな迫害を受けることになるか、青年たちは怖かったに違いない。
ゲイだとバレるより、「小児性愛者」「レイプ犯」と言われる方が、まだましだったのだろう。
だからロリエも、愛人ジュリアンのとっさの嘘を敢えて否定せず、レイプ犯の汚名を着る方を選んだのだろう。

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