ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「リア王の悲劇」

2024-10-18 23:09:38 | 芝居
10月3日 KAAT 神奈川芸術劇場で、シェイクスピア作「リア王の悲劇」を見た(翻訳:河合祥一郎、演出:藤田俊太郎)。





フォーリオ版での本邦初の公演。その楽日を見た。

冒頭、赤ん坊の泣き声がする。女が赤ん坊を抱いて登場。リア王と家来たちが来て彼女を見ると、女は子供を抱いたまま去る。
家来の一人がリア王に王笏と王冠をぶっきらぼうに渡す。
これは何?こんなシーンないでしょ?違和感が募る。早くも嫌な予感が・・。

音楽(宮川彬良)はカッコイイ。
1幕1場(グロスター伯爵がケント伯爵に庶子エドマンドを紹介する場面)は無い。
舞台の背後に古代ブリテン王国の地図。
「地図を持て」と王が命じるのに誰も持って来ない。
バーガンディ公爵とフランス王は最初からそこにいる。実に変だ。
この二人がすべてを目撃していたのなら、コーディーリアの身に何が起こったかもわかっていたはずだ。
ケント伯爵(石母田史朗)が王(木場勝己)に進言すると、王は「わしに向かってため口か」と言う。
ゴネリル役の水夏希とリーガン役の森尾舞がうまい。

エドマンド(昌平)はジャングルジムみたいなものの上にいる。
手紙は羊皮紙みたいなの。
グロスター伯爵を伊原剛志が演じる。
エドガーを土井ケイトがやるというので、彼女が男の役をやるのかと思ったら、そうではなくて、エドガーを何と女にしてしまっている!
青いワンピース風の服にアクセサリー。長い髪。
これには驚いた。
だが、それでいいのか。
当時、遺産は嫡男がすべてを相続することになっており、娘は相続できない。
では息子がおらず、娘しかいない場合、どうしたか。
娘は未婚のままでは財産を相続できないが、誰かと結婚すれば相続できた。
だからコーディーリアの婿選びが財産分与と同時に行われるのだ。
エドガーが嫡男でなく長女だったら、エドマンドが嫉妬することもないはずだ。
彼は自分が私生児で庶子だから、父グロスター伯爵の財産をもらえないことを恨んでいるのだから。
エドガーが姉だったら、エドマンドは長男として、父の財産を全額もらえるわけだから、陰謀を企む必要もないでしょう。
エドガーを女にするという奇天烈なアイディアがどうして出て来るのか、まったく理解に苦しむ。
責任者出てこい、と言いたい。
エドマンドが何度か「姉上」と言うので、「兄上」のはずなのに、この人滑舌が悪いのか、と思っていた(笑)。

リアが道化(原田真絢)を待っていて、道化が登場すると、音楽に合わせて家来たちもみな歌って踊る。
道化が王に向かって皮肉を言うと、みんな一緒になって笑う。
でもここは王が道化と二人っきりの方がいい、と思う。

嵐。最前列の席だったので、半ば狂ったリアと、狂人に化けたエドガーとのひそひそ話が聞こえた。
「キンチョール」とか「「フマキラー」とか(笑)。
王をドーバーにお連れするところで休憩。

<2幕>
狂ったリアは、エドガーが途中で変装のためにかぶった白い帽子を「この帽子いいねえ。阿呆の帽子より・・」と言いかけ、
阿呆(道化)のことを思い出し、「阿呆、阿呆・・」と呼ぶ。

ゴネリルは陰謀がばれると短剣を出して夫を殺そうとする!
ゴネリルとリーガンは、最後に舞台に出て来て、ドッと倒れて死ぬ。分かり易い。
ラスト、王はコーディーリアを車椅子に乗せて登場。

~~~~~~~ ~~~~~~~

リア王役の木場勝己が素晴らしい。
彼は、今までよく井上ひさしの戯曲で説教臭いことを言う役柄だったので、そのイメージが強くて特に期待していなかったが、
今回、彼のリア王が見られて本当によかった。
コーディーリアと道化を演じる原田真絢も好演。
この二つの役を同じ役者が演じるのは、外国では時々あるようだが、実際にナマで見たのは初めて。

翻訳はよくない。
エドマンドは最後近くでゴネリルとリーガンの死体が運び込まれると、
 だが、エドマンドは愛されていた。
 姉が妹を毒殺したのは俺のため。
 そのあとで自殺した。(松岡和子訳)
と言う。
原文は Yet Edmand was beloved . ・・・
この日、ここの「愛されていた」を「モテたんですよ」にしていた。
それはないでしょう。
現代風にしたつもりだろうが、あまりに軽い。
このセリフには、彼の鬱屈した思い、愛されることへの意外な渇望が見えて(悪人ではあるが)胸打たれるのだ。
その辺のことがまるでわかってない。ぶち壊しだ。
「王に向かってため口か」も嫌だ。ケント伯爵は命懸けで王の行為を止めようとしているのに、
ここも軽過ぎる。

結局このフォーリオ版が上演されなくなったのは、やはり感動が薄いからだと言えるのではないだろうか。
1幕1場もやっぱりあった方がいい。


   







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