「何も見ないで10円硬貨の表面と裏面の絵を描いてください」と言われたら、皆さんは描けますか? 「簡単!」、「何度も見ているから描ける」と思った方はぜひ、チャレンジしてみてください。(答えは最後にまとめてあります)
記憶の研究として、10円硬貨の絵を描いてもらう課題を用いたのは、東北大学で教鞭[きょうべん]をとっていた仁平義明先生です。仁平先生は、多くの人に10円硬貨の表面と裏面を描いてもらう課題を出しました。しかし、誰一人として10円硬貨の両面に描かれている図柄の8つの要素すべてを描くことはできなかったそうです。
普段、よく目にするはずの10円硬貨。図柄を描けない理由は、脳が覚える必要のない情報を省いて記憶しているからだと考えられています。「数字の10と書いてある」、「銅色をしている」くらいの情報を覚えておけば、10円硬貨と他の硬貨と区別することができるため、日常生活の中で困ることはありません。普段よく見かける身近なものでも、正確に覚えていないものは案外、たくさんあります。例えば、歩行者信号の赤と青はどちらが上でしょうか?描かれている人は右向き、左向きどちらでしょうか?どんなポーズをしているでしょうか?
脳は、実はとても効率的なのです。限られた容量をうまく使いこなすために、本当に必要な物だけを選別して、長期記憶に残そうとします。一番重要なのは生命にかかわることなので、危険な目にあった体験などは記憶に残りやすいといえます。
「脳と記憶」いかがでしょう。ふしぎですね。興味が湧いた方は、調べ学習などの話題にしてみてはいかがでしょうか。
【答え】
<10円硬貨の表面の図柄の4つの要素>
①平等院鳳凰堂[びょうどういんほうおうどう]の建物
②建物より上にアーチ状に並ぶ「日本国」の3文字
③建物の下にアーチ状に並ぶ漢数字の「十円」の2文字
④文字の間を装飾する唐草模様[からくさもよう]
<10円硬貨の裏面の図柄の4つの要素>
①中心より上寄りの位置に大きめに描かれた算用数字の「10」
②「10」を囲むように描かれた葉が互い違いに生えている月桂樹[げっけいじゅ]の2本の枝
③2本の月桂樹を結ぶリボン
④和暦と漢数字で横書きに記された製造年
*参考*
仁平義明(2008)「「日常的エラー」と「高安全度必要場面エラー」」 日本情報ディレクトリ学会誌 Vol.6 pp.25-30
ITmedia エンタープライズ「コンピュータ以上? 無駄なものを覚えない人間の脳:プレゼンが上手い人の『図解思考』の技術」 https://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/1205/11/news048.html(アクセス2024.4.8)