社会派ミステリーとでも言おうか。粘着テープで巻かれ、食べ物や水分を与えられずに死んだと思われる事件が2件続けて発生する。なぜ、餓死、衰弱死という犯行手段を選んだのか。所持金は手を付けられずに残されたまま。考えられる怨恨説も被害者二人の評判は良く、犯行目的も不可解。その謎を追う刑事と刑務所から仮出所したばかりの男のストーリーが交錯する。舞台は震災後の東北の地、背景として浮上してくるのは国による生活保護利用の抑制政策。窓口における申請切り捨ての実態が生々しく描写される。以前、マスコミでも何度か報じられた電気・水道などの停止による悲惨な事例を思い出す。その後も物価下落などを理由に生活保護費の切り下げも行なわれてきた。親族への扶養義務の照会など、運用の改善はされていると言われる。だが、これも“自助”最優先の現政権のこと、内実はあまり変わっていないかもしれない。物語は、頼みの福祉行政から切り棄てられた老女の死に関わる最後の一人に向かっての終章へ。息詰まるシーン、予想外の展開に読み応え十分。護ろうとした人、護れなかった人、最後の数行にある言葉は今のコロナ禍にも重く響く。