全国紙の訃報記事で知り合いを見かけることは全くと言っていいほどない。その欄で先日亡くなったことを知った磯野剛太さん、知人というほどの関係ではないが以前お世話になった方だ。八ヶ岳山麓で行われた山岳ガイド資格習得の講習会でのこと。磯野さんが講師で受講生は我々3人という少人数。マンツーマンに近い中身の濃い数日間を寝食含めて過ごした。基礎的知識の座学も少しあったが中心は実技で安全管理、専門的知識と技術、ガイド業務など多岐にわたった。2万5千分1地形図とコンパスを使用して野外での読図、ロープ技術と登山道で滑落者を救助するセルフレスキュー、杣添尾根から横岳の往復登山では受講生一人づつが先頭を歩いてのガイド実務も行なわれた。初日の夕食は磯野さんの手による鍋料理、翌夕は山荘庭でビバーク訓練を兼ねた野外料理の実習。社会人山岳会に在籍中の他の二人に比べて何かと失敗を重ねる受講生。だから磯野さんの豊富な体験を交えた山談義で過ごす夜が一番楽しかった。人柄がうかがえる柔和な笑顔と活躍ぶりはその後もテレビ・雑誌などで何度か拝見しており、まだお若いのに残念というほかない。厳しくも優しく指導いただいたあのときの感謝をあらためてお伝えしたい。
(朝日新聞3月14日掲載記事より)
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