認知症が進む友人の夫から妻を連れて旅に出てほしい、との依頼を受けた2人。年老いた女性三人で向かう行先は彼女がかって住んでいた地。多少の喜怒哀楽の感情しか残っていない彼女。僅かな手がかりをもとに大津、松山、九州の離島へと辿る。ただ、思い出の観光や単なる感傷旅行に終わらない。時折りの感情表現に潜む戦争の悲劇、隠された過去の出来事。それらが重石が取れたように浮かび上がってくるのだ。終戦番組などで語られ、目にしてきた以上の悲惨な戦争の現実。日本軍の中国人への蛮行、親を失った彼女の満州からの壮絶な逃避行、引き揚げ船を待つ過酷な日々。少女時代から場面は変わって得られた安らぎ、それも一時で戦争の影がつきまとう。読むのが苦しくなるほど。旅の途中、同行する二人の友人にも高齢化と内在する家族や健康問題。終盤では推理作家らしい筆の走りで予想もしない展開にハラハラ、しかし結末を登場人物とともに安堵。読みごたえある作品で戦争と平和を考えるこの8月に出会えて良かった。物語のエンディングに流れるパイプオルガンの『羊は安らかに草を食み』。それをYouTubeで聴き、余韻に限りなく浸った。
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